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第13話 旅立ち

 ゴブリンダンジョンを攻略して三日後、俺が村を旅立つ日がやって来る。

 見送ってくれるのは父さんと母さんだけだった。

 他の村人達は俺に関心などあるはずも無い。


「クラウス、体には十分気をつけてね。貴方は昔から体が弱かったから母さん心配だわ」


「大丈夫だよ。俺の病気も少しづつ良くなってる。以前より若返って見えるでしょ? 今だと見た目で六十歳位かな? この調子で病気が治って行けば、きっと俺も年相応の若い姿になれる筈だよ。次に俺が戻って来た時、見た目が違い過ぎて、母さんの方が俺に気づかないかも知れないね」


「何馬鹿な事を言っているの…… どんなに姿が変わっても私がクラウスを解らない事なんて在りえないわ。いつ帰って来てもいいのよ。そんな心配しないで、貴方は自分の幸せを第一に考えなさい」


 母さんは俺を強く抱きしめ、そう言ってくれた。


「母さん、クラウスは十分強い。きっと大丈夫だ」


 そう告げたのは父さんである。

 そして俺の傍まで近寄ると、手に持っていた剣を俺に手渡してきた。


「この剣は父さんが現役時代に使っていた物だ。手入れは既に済ませてある。当時、大枚を叩いて買った結構高価な剣だから、きっとお前の力になるだろう…… 持って行きなさい」


「これって父さんが部屋に飾っていた大切な剣だろ? 持って行ける訳無いじゃないか!」


 そう言いって拒んでみたが、父さんは首を左右に振りながら剣を無理矢理、俺に持たせる。


「確かに冒険者時代の思い出が詰まった大事な剣だが、過去の思い出よりお前の方が大切だ。この剣がお前を生かす力になるなら、惜しくはない。さぁ持って行くんだ」


 少しテレながらそう言い放つ父さんは、少し格好良く見える。


「ありがとう! 大事に使うよ。それじゃ行ってくるね」


 俺は両親に背を向けると、村を出て南へ向って歩き出す。

 両親は、俺の姿が見えなくなるまで手を振っていた。

 肉親であり、唯一の理解者である二人と別れるのは寂しい。

 けれど、俺はあの女に復讐するその想いだけで、今日まで頑張って来た。


 俺を捨てた事を必ず、後悔させてやる!!

 

 その為に最初に向かうのは南にあるアーデルの街だ。

 

 馬車だと五日程度掛かる場所にあり、徒歩だと十五日程度かかるだろう。


 俺はアーデルの街で念願の冒険者となり、新しい職業を手に入れる。

 そして更にレベルを上げて、勇者マリアが居る筈の、中央都市トリスタンを目指す。


 今から始まる冒険に心を躍らせ、少し小走り気味に俺は街へと続く道を歩みだした。




★   ★   ★




 故郷の村を出発して、今日で三日が経っていた。

 初めての冒険は何もかもが新鮮で、楽しく飽きる事は無い。

 食料も街道横の森に入り果実を採取したり、動物を仕留める事で調達出来ていた。

 動物の処理などの方法は、父さんが冒険者時代に使っていた、冒険者御用達の【冒険者入門書】に書いてある。

 その手順通りに処理すれば、初心者の俺でも燻製肉など作る事ができた。


 今も果物を探して森の中を歩いていると、道端の茂みの方からザワザワと草木が擦れる音が聞こえる。


「また出たな!」


 俺は父さんから貰った剣を構え、音がする方へ注意を向けた。

 ザイルさんから買った黒剣は、左の腰に装着したまま今日まで使っていない。

 

 音のする方角に注意を向けていると、茂みの中から飛び出して来たのは、頭に角が生えた数匹のウサギ。

 この魔物はホーンラビットと呼ばれている魔物だ。

 適正レベルはゴブリンの次に低い魔物で、今の俺の適正モンスターでもある。

 素早い動きと徒党を組み集団で対象を襲う性質から、多くの新人冒険者が手に負えず返り討ちに遭っていた。

 別名【新人冒険者殺し】とも呼ばれているそうだ。


 今回現れたのは四匹。


 今日までに何度か襲われているので、今ではホーンラビットの動きも解っている。

 俺は数万匹と言うゴブリンを倒して来たが、ただ闇雲に倒した訳では無い。

 効率の良い倒し方を模索する為に、戦いながらもずっとゴブリンの動きを観察し予測する力を養っていた。

 

 その努力の結果、【観察者】と言うパッシブスキルを手に入れている。

 このスキルは魔物の特長や性格を初見で見破ると言う、とんでもないスキルであった。

 ちなみに取得難度は3で、それなりに取得難度は高い。

 

 戦闘が開始され、ホーンラビットは俺を挟み撃ちにする為に、二匹づつ左右に分かれた。

 その行動を見ると意外と賢い魔物だ。

 その後タイミングを合わせ、左右同時に飛び掛かって来る。

 ソロの冒険者には対処が難しいが、俺は今までたった一人で複数の魔物と戦ってきているので、慣れた場面だ。

 焦る事無く、ギリギリまで引きつけ、空いているスペースに移動しながら剣を振り抜き、一匹目を簡単に仕留めた。

 残りのホーンラビットは、再び俺の方へ体を向け直すと、今度は三匹同時に正面から突っ込んでくる。


「同時に来てくれるのなら、好都合だ!!」


 今度は腰をしっかりと沈め、構えを取り剣を強く握り直す。

 そして三匹横並びに飛び掛かって来たホーンラビットに向けて、剣を水平に振り抜いた。

 最初のホーンラビットの頭と胴体が綺麗に分かれ、残りの二匹の首元にも刃が届き、一瞬にして三匹から鮮血が飛び散る。

 そしてホーンラビットは重力に逆らう事無く、ズドンと地面に落ちたまま動かなくなっていた。


 俺は油断せずに他の魔物は居ないかと辺りを警戒していたが、現れる気配は無い。

 安全を確認した俺はホッと一息を付く。


「終わったな。ふぅ…… それにしても父さんから貰ったこの剣って、斬れ味が良すぎるだろ…… 魔物の硬い皮が簡単に引き裂かれている」


 ゴブリン以外の魔物が相手だとしても、今の能力値と何万匹と言う数のゴブリン相手に戦って来た経験と技を持ってすれば、特に苦戦する事なく、全て撃退する事が出来ていた。


 俺は魔法石を取り出すと一度、剣の手入れを行い魔物のドロップアイテムの角を回収する。

 予想外の足止めをくらったので、果物を探すのは諦め、再び先の見えない道を進み始めた。




★   ★   ★




 それから街道を1時間程進んだ時だ。


「誰か~! 助けて下さい!!」


 俺の耳に女性の叫び声が聴こえてきた。

 声がする場所はこのまま道を進んだ先にある、緩やかな曲がり道の先からだ。


 もしかしたら旅の女性が、野党か魔物に襲われているのかもしれない。


 俺は女性を助ける為に、声がする場所へと走り出す。


「何だこれは……」


 俺が辿りついた場所には、繁殖期でも無いのに多種多様の魔物が一台の馬車を取り囲んでいる、異様な光景であった。

 馬車の周囲には護衛の男が数名いるが、防戦一方でとても魔物達を抑えきれる様には見えない。

 そして一人の男が魔物に倒されたのを皮切りに、次々に護衛の男達は倒されて行く。

 魔物達は馬車に飛びつき、馬車の側壁を喰らい付き食いちぎりながら壊していった。


「早く助けないと!!」


 俺は剣を抜くと魔物の集団へ向って駆け出して行く。


 一番近い猿の魔物の背後から飛び掛り、一撃で仕留める為に首を狙って剣を振り下ろす。

 高い生命力を持っている魔物だが、流石に頭と胴体が離れてしまえば生きてはいない。

 殺し損ねて、倒したと思い込んだ所で、背後から根首をかかれるのはご免だ。

 

 俺は今までの経験で、魔物の怖さと生命力の強さを理解している。

 自然と身についた敵を最小の手数で倒す技を持って、目前に群がる魔物の群れをなぎ払って行く。


「うぉぉ~ お前らの相手はこの俺だ!」


 わざと雄たけびを上げて、魔物の注意を俺に向けさせる。


 狙い通り、馬車に群がっていた猪と虫の魔物は目的を変え、俺に向って飛び掛って来た。


 注意さえ引ければ、後は何時もと同じ、視野全体に広がる敵を一瞬で把握し、種類の違う魔物の動きを一瞬で見極め、最高速度で殺し続ける。

 今回初めて見た魔物は、殆ど初見であったが悠長に観察している暇は無い。

 俺は全体の容貌、魔物の攻撃方法から相手の行動パターンを瞬時に予測し、集団で襲ってくる魔物を倒し続けていた。


 しばらくすると魔物の姿も大分少なくなり、心にも余裕が出てくる。

 周りを見渡すと、殆どの魔物は既に倒しているみたいだった。

 その後、襲って来ていた全ての魔物を倒した俺は、魔物に襲われ、地面に倒れている護衛の男の元へ駆け寄った。


「大丈夫か? ポーションを!!」


 地面に倒れ込み荒い息を吐く護衛の男は、既に瀕死の状態で手の施しようが無かった。


「馬車へ…… 馬車の中にいる者を……助けて……」


 体の向きを変えた男は最後の力を振り絞り、俺にそう告げそのまま息を引き取る。


(馬車の中にも人がいるのか?)


「魔物が…… 誰か助けてー!!」


 最初と同じ様にまた女性の声が聴こえた。

 さっきは気付かなかったが、この女性の声は何故かよく聞こえる。

 魔物達が大軍で押し寄せて騒がしい状態の中でもハッキリと聴こえる声…… 何か特殊な力を持っているのか?


 だが今はそんな事を考えている余裕はない。

 直ぐに馬車の中へ飛び込むと、狼の魔物が数匹、馬車の中で暴れていた。

 そして馬車の奥では一人の女性が魔物に噛みつかれ、捕まっているのを確認する。


(誰か襲われている。早く助けないと!)


 俺は腰に取り付けている腰のベルトに吊していた、小型のナイフを取り外すと、女性に喰らい付いている狼の魔物へ投げつけた。

 ナイフは吸い込まれる様に魔物の首に突き刺さり、魔物は女性の上でパタンと倒れ込み、動きを止める。

 

 残る魔物は俺に気付き、振り向いてきた。

 しかし俺は魔物に反撃する暇を与えず、瞬時に全てを斬り伏せ、襲われていた女性の元へ駆け寄った。

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