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第12話 ゴブリンダンジョン

 誰も居ない山脈の麓に俺は一人で立っていた。

 目前には大きく口を開いたダンジョンへの入口があり。

 そこは今まで何度も訪れた場所でもある。

 このダンジョンからは、繁殖期がくると大量のゴブリンが産まれ出てくる。

 このダンジョンが在ったからこそ、俺はレベルを上げる事が出来たと言える。

 十年間、このダンジョンで産まれたゴブリンの大多数は俺が倒している。

 繁殖期に産まれる膨大な数のゴブリン全てを俺が食い散らかしていた。


 今回はこのダンジョンを攻略するつもりだ。

 潜り慣れたゴブリンダンジョンと言う事もあり、内部構造はある程度分かっている。

 もし慣れていないダンジョンを攻略する場合だと、攻略するのに何日もかかるだろう。


 このダンジョン内には多くのゴブリンが生息している。


 入った事がある者しか知らない事だが、ダンジョンの中は意外と明るい。

 ダンジョン内の壁や天井の鉱石から光が発せられて、視界を確保してくれているからだ。

 ちなみにこの光る鉱石を加工して、ランプなどが作られている。


「さぁ、どんどん進むぞ。先は長い!」


 まだ入口から二十メートル程しか進んでいないので、ゴブリンとは出会っていない。


「いつもだったら。ゴブリンが居ないと腹が立ってたけど、今日は居ない方早くボスの部屋に着くから助かるんだけど」


 だがその願望はすぐに消える事になる。

 角を曲がった十五メートル程前方で、ゴブリンの集団を発見したからだ。

 今の所は一本道が続いており、前方のゴブリンから逃げるには後退するしか方法が無い。


 だが逃げた場合はダンジョンから出る事を意味する。

 その選択肢は俺には無かった。


「前方にゴブリンの集団八匹。一気に行く!」


 ゴブリンが気づく前に全速力で飛び込み、剣をなぎ払い一瞬にして半数を倒す。

 残りのゴブリンが反撃してくる前に更に一匹を倒し、剣を盾の代わりに使いゴブリンの攻撃を受け止める。

 残りは三匹で、攻撃を仕掛けてきたゴブリンの腹を蹴り飛ばすと、洞窟の壁まで飛ばされ鈍い音が響き動きを止めた。


「残り二匹だ」


「ギィギィ! ギャ!」


 勢いはそのままで、飛び掛かってくるゴブリンの胴を2つに引き裂き、続くゴブリンには頭上からの一撃で一刀両断にした。

 無事、初戦を切り抜けた俺は更に奥へと進んでいく。

 奥には二つに分かれる道が存在していた。


「最初の分かれ道だな。攻略するなら左だ」


 何度も潜っているダンジョンだが、狩りの制限時間を決めているので、いつも時間切れとなってしまい、途中までしか行った事が無い。

 しかし内部構造は大体解っているので、兎に角奥に奥に向かって進む。

 奥に進むに連れて、ゴブリンとの遭遇率も上がってくる。

 ダンジョン内の通路は広いので、結構自由に動き回る事が可能だ。


「またでたな! 今度は六匹」


 ロクに休憩など出来ないまま、ゴブリンとの戦闘を繰り返している。


 繁殖期程では無いが、流石はダンジョンである。


 倒した間にポーションを飲んで体力を戻しておく。

 ソロで戦っている俺にとって、疲れは即死に繋がる重要なポイントだった。

 助けてくれる仲間も居ないので、体力の管理には余念が無い。


「奥に進む程に敵が増えてきている。お前達と戦うのも今日で最後だ。いくらでも相手してやるよ」


 新たに現れたゴブリンを倒した後、砥石の魔法石を滑らせ剣の整備を行う。

 たったこれだけで切れ味は元に戻っている。

 鎌を使っていた時は、地道に砥石で研いでいた事を思い出して、道具は偉大だと感心してしまう。


 そのまま休憩を取っていると、前方の壁からゴブリンが産まれ落ちてきた。

 このダンジョンに入って、俺はゴブリンの誕生の仕方を初めて知ったのを思い出した。

 だが見入っていては此方がやられてしまう。

 すぐに腰を上げて立ち上がると、産まれたてのゴブリンへ攻撃を仕掛けた。

 突っ込んだ俺に反応し、ゴブリンの方もすぐに反撃を仕掛けてきた。

 だが今のレベル10となった俺の力には及ばず、短い命を全うする事になってしまう。


 その後も俺は全速力でダンジョンの奥へと進んでいく。

 どの位時間がたったのかが気になり、砂時計を確認すると二時間は経過していた。

 急がなければすぐに時間が無くなってしまう。

 母さんに今日は夜まで帰らないとは伝えていたが、それ以上遅くなると心配性の母さんの事だ、少々厄介な事になるかもしれない。

 焦りを覚えた俺は進行速度を一段階上げた。

 

 俺のレベルは10でゴブリンが適正から外れている。

 途中でステータス画面を見てみたが、やはり討伐の数字は一つも減っていない。


「確かにこれじゃ、狩り損だよな。冒険者が適正以外を狩りたがらない理由も解るよ」


 既に百匹近いゴブリンを倒しているが、ドロップアイテム以外のメリットが感じられない。

 その上ポーションなどのアイテムは消費していくので、費用対効果で言えば大幅にマイナスとなる。


 通路の方も分岐から分岐へとある程度枝分かれしており、慣れているにも関わらず何度か道を間違えてしまう。

 洞窟と言う同じ景色の連続に 俺はこの後も更に説教を食らう事になる。


 俺はダンジョンの最奥部を目指し駆け続け、遂にダンジョンマスターの部屋の前へと到達する。


「やっと着いたぞ。さて中に入るのは初めてだ。一体どんな感じになっているんだろうな」


 部屋の奥にはゴブリンより二周り程大きなゴブリンが身構えていた。


「身の丈で言えば俺より二回り大きいくらいか?」

 

 更にゴブリンの姿を見た瞬間、俺の本能がヤバい相手だと警告を始める。


「おい、待てよ! 何だあれは? もしかして…… ゴブリンが装備を身に着けているのか!!」


 最奥の巨大なゴブリンは何と斧を手に持ち、各部位には防具を装備していた。

 どの部分の装備も種類が違い、チグハグした感じだ。予想だが、冒険者を倒して手に入れた防具なのかもしれない。

 ただ、一言でこの魔物を説明するなら、【異様】と説明するだろう。


「ギィギャッ! ギャギ!」


 ダンジョンマスターの周囲には取り巻きのコブリンが三十匹ほど控えており、俺の存在に気付いたダンジョンマスターは取り巻きを煽り襲い掛からせた。


 だが所詮はゴブリン、猪突猛進に突っ込んで来るだけだ。

 数万匹のゴブリンを倒してきた俺にとって、三十匹程度で苦戦する訳がない。

 俺は毎日行っている狩りと変わらない。

 焦ること無くゴブリンを数分で始末する。


 後はダンジョンマスターだけになっている筈なのだが、ダンジョンマスターの周りには新たにゴブリンが集まっていた。


「ゴブリンが増えている? クソッ! 産まれていやがるのか?」


 俺が見ているその前でも、壁からは新たにゴブリンが生まれ落ちて産声を上げる。

 そして再び繰り出されるゴブリンの突撃に対して、俺は大きな雄叫びを上げた。


「やってやる! 幾ら産まれようとも、それ以上の速さで狩り続ければいいだけの事だろ!!」


 俺自身も駆け出し、押し寄せるゴブリンの波の中へ突っ込んで行く。


 剣を振り回しゴブリンの死体の山を作る。

 新たに産まれたゴブリンは連続で俺の元に送られてはいるが、確実に俺の殲滅速度の方が上回っていた。

 数を減らすゴブリンを見ていたボスが遂に動き出す。

 その動きに気付いていた俺も対応を始める。


「ダンジョンマスターが動きだしたな。その前に目の前にいるゴブリンを倒して置かないと邪魔で仕方ないぞ」


 ボスは俺のすく側まで近づいていた。

 俺とダンジョンマスターとの間には、十数匹のゴブリンが邪魔している。


「待っていろよ!すぐに相手をしてやるからな」


「ヴォォォ!!」


 残り少ないゴブリンを屠りながら、ダンジョンマスターの顔を睨み付けた。

 それに反応してボスは斧を振り上げ、自分の前にいるゴブリン諸共攻撃を仕掛け始める。


「おい嘘だろ!? お前ら仲間じゃないのかよ! クソッ。目の前のゴブリンが邪魔で、ボスが放った攻撃の軌道が見えない」


 ボスの攻撃が見えたのは俺に攻撃が当たる直前で、回避に特化した俺でも今からで躱しきれない。

 全力の凪払いの攻撃を咄嗟に剣を縦に向けて、剣で攻撃の力を受け流す。

 その威力は凄まじく、全ての力を受け流す前に身体ごと、後方へと弾き飛ばされる。

 二~三メートル程度吹き飛ばされたが、空中で躰を一回転させ、勢いを殺すと同時に地面を確認後、足から着地する。


 俺はすぐに立ち上がったが、目の前には止めをさす為に、詰め寄っていたボスが斧を振り上げていた。

 

 そのまま俺の頭部目掛けて、戦斧を叩きつけてくる。

 ギリギリのタイミングだったが、俺はその攻撃を横に回転する事で避け、バックステップしながら再度距離を取った。


 そしてウェストポーチからポーションを取り出すと、一気に飲み干す。


「強ぇぇ、流石はダンジョンマスターって所か! 好き勝手やってくれたな。次はこっちの番だ」


 俺は地を蹴り勢いをつけて飛び込み肩を目掛け斬りつけた。

 だがその攻撃は、下からすくい上げてきた斧によって弾き返される。

 流石はダンジョンマスター。

 図体はデカくパワーもスピードも兼ね備えている。


 攻撃を防がれ苦渋の表情を浮かべた俺は、気持ちを切り替え、怯まず連撃を叩き込む。


 ボスはその連撃を斧を自身の前に突き出し必死で防ぐ。

 だが防戦一方のボスも負けてはいない、防御無視の捨て身の戦法で、全ての攻撃が致命傷となりえる攻撃を繰り出してきた。

 

 だが俺も当たる訳にはいかない。

 

 ギリギリで避けてガラ空きの脇に斬り込む。

 力はボスの方が強いが、速さなら俺の方が上で、次第に俺の攻撃はボスの身体に傷を増やしていく。


「ギギィィ!」


 ボスも雄叫びを上げ、新たに産まれたゴブリンを投入するが今の俺には全く効果はなかった。


 勢いを殺さない回転する動きで、全方位のゴブリンを切り刻む。

 全てが計算された動きで、ボスもゴブリンも同時に俺一人で相手どる。


 そして遂に斧を持つボスの右手を切り落とす事に成功する。

 しかし喜ぶには少々早い、俺は返す剣で左手も切断した。

 攻撃の手段を失ったボスは不屈の闘志で噛み付きに来るが、最後は頭部と首を切り離して、ボスは遂に地へと倒れ込む。


 ボスを倒した後に広場に残されていたゴブリンを全て倒し終わると、新たなゴブリンは産まれなくなっていた。


「終わったのか……?」


 構えは解かずに様子を見ていたが、ダンジョンの中は静けさに包まれていた。


 するとボスの体が次第に黒い灰になって消えていく。残されたのは手のひらサイズ程の緑色をした宝石。


「ドロップアイテム…… ボスを倒すとこんな宝石がでるのか?」


 ドロップアイテムを拾い、ウェストポーチに詰め込む。

 激闘を思い出して安堵の息を吐く。


「やばい。やばい、早く帰らないと」


 時間も随分と経過している。

 今が何時なのかも判らなくなっているので、俺は全速力でダンジョンを抜け出して家路に着いた。


 案の定、日は落ち外はすっかりと暗くなっており、家に着くと母さんが家の前でまっていた。


「こんなに遅くなるって聞いていませんよ!」


(心配してくれているから文句は言えないけど…… 冒険者になる為に家を出る事が決まっている息子に対して、言う言葉では無いと思うのだが…… 母さんにとって俺はいつまでたっても子供のままなのだろうな)


 心でそう呟きながらも、ここは素直に諦め、母さんの説教を苦笑交じりに受けることにした。

 

 兎に角、これからはゴブリンが村を襲う事も無いだろうし、父さんや母さんも、安全に暮らして行ける筈だ。

 これで俺も心置きなく冒険者になる事が出来る。

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