第11話 レベル10
六歳からレベルを上げ始めて、既に八年が経過している。
俺の年齢も今年で十四歳。
十二歳でレベル4に到達した後、俺は毎日ダンジョンに潜り、ゴブリンを狩り続けた。
ダンジョンの狩りは効率が良く、森で狩っていた時と比べると、一日に狩れる数は三倍を超える。
結果、俺は一年でレベルを一つ上げられる様になる。
普通、十四歳を越えた位から、家業の手伝いを始めるのだが、俺の場合は老人の姿が幸いし、過保護な両親から十八歳まで様子を見るから、今は仕事を手伝わなくていいと言われた。
これ幸いとばかりに、俺は一層狩りに時間をかけていく事になる。
効率を求めて無駄の無い戦闘を追求し続けた結果。
その年の繁殖期、ゴブリンと戦闘していると頭の中でファンファーレが鳴り響いた。
「やったぞ! これでレベル7だ。長かったけど、とうとうここまで来れた。それにしても体が軽くなった。力が沸いてくる感じだ」
その後、夕方になり戦闘が終った俺は、森の中で見つけた泉へと向う。
ここで汗や返り血を拭うのが日課となっている。
上半身だけ裸の状態となり、布を泉の綺麗な水に浸す。
その水面には、俺の姿が光の反射で映し出されていた。
「よしっ! 着実に若返ってるぞ!! もっとだ、もっとレベルを上げて、俺は速く年相応の姿を取り戻してやる」
レベルアップ後のステータスが気になり確認する。
最初に比べ基本能力値は劇的に上昇している上に、また新しいパッシブスキルも幾つか会得している。
スキルには取得条件と言うのがあり、その条件をクリアすれば取得できる。
またスキルや魔法にはスキル難易度も設定されている。
当然、設定難易度が高いスキルほど効果や威力も高いと言われていた。
取得難度の高いスキルは、俺が最初から持っていた【逆転】の効果で得たスキルだが、他のスキルは俺が地道にゴブリンを狩り続けて手に入れたスキルである。
レベル7になるまでは順調だ。
一日の討伐数もかなり上がっているので、この調子でいけば、後二、三年でレベル10に到達出来るだろう。
もしレベルが10になれば、俺は村から出て行く予定だ。
その理由として、ゴブリンが適正から外れるから。
だから村を出て、適正の魔物が生息する街を回りながら最終的には勇者マリアが住んでいる中央都市に向かうつもりである。
また途中の街で新しい職業を得てみたいとも思っている。
新たな決意を胸に、俺はレベル10を目指す。
★ ★ ★
それから更に二年が経過し、十六歳を過ぎて少し経過した位に、俺は遂に目標としていたレベル10へと到達する。
十年間、休まず毎日狩りを続け、これでやっとゴブリンが適正から外れる。
当初の予定通り、俺はこの村を離れて次の適正がいるダンジョンがある街へと向かうつもりだ。
この十年間で俺は自分でも強くなったと思っている。
新しい使えるスキルも増えている。
★ ★ ★
クラウス・ブラウン
レベル-10 必要魔物討伐数 8,100匹 累計魔物討伐数91,450匹
職業 無職
能力
力 41
素早さ 46
魔力 50
アクティブスキル
パッシブスキル
【逆転】取得難度:10 取得条件:不運
効果:取得者の成長が逆転する。
【武具の心得】取得難度:8 取得条件:レベル99
効果:職業に関係なく全ての武器、防具をマスターレベルと同等に扱う事が出来る。
【魔力の真理】取得難度:8 取得条件:レベル99
効果:全てのスキル及び魔法使用時の必要魔力量を99%減少させる。
【魔物を狩る中級者】取得難度:2 取得条件:累計魔物討伐数 10,000匹
効果:戦闘時に能力値が1.2倍となる
【ゴブリンと戦う者】取得難度:1 取得条件:ゴブリン撃破数1,000匹
効果:対ゴブリンとの戦闘において、全ての能力値が+10。ゴブリン発見率の上昇
【観察者】取得難度:3 取得条件:魔物の観察時間10,000時間
効果:戦った事がある魔物の特長や弱点、行動パターンを把握できる。
【集団戦闘】取得難度:4 取得条件:一対三倍以上の集団戦闘における勝利回数20,000回
効果:自分を中心に半径四メートル範囲内の絶対空間認識能力。
【罠の達人】取得難度:3 取得条件:罠による魔物討伐数20,000匹
効果:自身が設置した罠の認識阻害効果(大)、罠の威力向上(大)。設置された罠を必ず発見する。任意の者に対してのみ罠を発動させる事が可能。
【研ぎ】取得難度:1 取得条件:刃物の研ぎ回数10,000回
効果:砥石でなく、普通の石であっても刃物を研ぐ事ができる。研ぎ作業の砥石の摩耗率減少。刃物の攻撃力の上昇(小)
【状態異常完全耐性】取得難度:7 取得条件:レベル90
効果:毒、麻痺、精神攻撃など、あらゆる状態異常攻撃への完全耐性。
魔法
【女神召喚】取得難度:9 取得条件:レベル100
効果:創造主を召喚する事が出来る最上位魔法
★ ★ ★
村を出て少し歩いた所にある空き地で、俺と父さんが向かい合っている。
互いに木剣を持っており、その表情は真剣そのものだ。
「クラウス…… 準備はいいか? 何処からでも掛かってきなさい。言っておくが油断していると怪我をする事になるぞ」
剣先を俺の方へ向けて父さんはそう告げる。
二人の距離は十メートル程度離れているが、父さんから強烈な威圧感が出ているのが解る。
ゴクリと生唾を飲み込み俺も視線を逸らさずに頷いた。
そして何故こんな事になっているのかを思い返す。
★ ★ ★
レベルが10になった日の夜、俺は父さんに冒険者になる事を告げた。
昔からゴブリンを狩ってレベルを上げていた事。
そしてレベルが10になった事などを説明して行く。
父さんは最初は驚いて信じていなかったが、俺が真剣である事に気づくと、ちゃんと話を聴いてくれた。
レベル10と言えば、駆け出しのルーキー位のレベルである。
冒険者になりたい若者達は、もっと低レベルの内から大きな街へと飛び出して行く事が多い。
だから俺は遅い方だろう。
最後まで話しを聴いてくれた父さんが、冒険者になる事を許可する為に一つ条件を出してきた。
その条件をクリアすれば、俺が冒険者になる事を許してくれるとの事だ。
俺はその申し出を受け入れた。
ちなみにその条件と言うのは、父さんと模擬戦を行い実力を認めて貰う事だ。
元冒険者の父さんを倒せるだけの力があれば、何処へ行っても一人で生きていける。
悪口や見た目で差別を受けたとしても、自分の力で跳ね返せる事が出来ると力強く言ってくれた。
父さんは、俺が毎日チョロチョロと村から出ている事を以前から知っていたが、暗くなる前に毎日戻っていたので、見逃してくれていたたみたいだ。
「まさか他の子供よりも体が弱かったクラウスが魔物を相手していたなんて……」
俺に友達がいないのは父さんも母さんも知っていた。
だから森で一人で遊んでいるのだろうと、思い込んでいたみたいだ。
俺自身も父さんが快く送り出してくれる方が嬉しいので、素直に今回の条件に従う事にしたのだ。
「父さんからは攻めないから、何処からでも掛かってきなさい!」
木剣を片手で持ち体の中心に構えて、そう言葉を放つ父さんの目には優しさと厳しさが感じられた。
その視線に俺の心も温かくなるのを理解する。
(俺の力が何処まで通用するか解らないけど、父さんに認められる為に、手を抜くわけにも行かない。だけど能力値はもう俺の方が上なんだよな…… よしそれじゃ半分以下の力で、軽く当てる感じで……)
そう決意した俺は、軽く息を吸い込むと、脱力を促す為に鋭くフッと吐き出した。
その動作と同時に地面に倒れ込む様に体を沈めた。
重力に引っ張られる感じで地面との距離がなくなっていく、そして低い体勢のまま父さんの腰を目掛けて駆け出して行く。
俺の突進のスピードを目の当たりにした父さんの目が大きく見開く。
きっと想像していた以上の速度であったのだろう。
これは俺の力を認めて貰う為の真剣勝負だから、俺も油断はしない。
俺はそのまま体の横に構えていた木剣を、父さんの剣に向かって叩きつける。
(これが俺の力です)
「うぉぉ~!」
木剣がぶつかり合う大きな音と共に、父さんの体が三メートル程度飛ばされ、更に高速でそのまま地面をゴロゴロと転がって行き、止まる。
「ぐふぁっ!」
そして小さな唸り声を上げた父さんはそのまま動かなくなっていた……
「え!? 父さん……? とうさ~ん!」
(えっやり過ぎたの!?)
気持ち良さそうに気絶している、父さんの体を揺すりながら、俺は必死に大量のポーションをかける。
そして叫びつづける俺の声が辺りに響いていた。
★ ★ ★
父さんが目覚めた後、俺が冒険者になる事を認めてくれた。
出発は1週間後となりその間に出来る限りの親孝行をするつもりだ。
だけど俺にはもう一つやらねばならない事があった。
部屋で装備の手入れを行い、ウェストポーチにポーションを詰め込む。
そして窓からある方角を見つめて呟いた。
「明日攻略してやるから覚悟しておけよ。ゴブリンダンジョンがこの村の近くに残っていると皆が困るんだ」
俺は村を出て行く前に、狩りの間で見つけ、ずっとお世話になっていたダンジョンを攻略する事を決めていた。
自分が居なくなればゴブリンを間引く者が居なくなる。
両親には今後も安全に暮らして欲しいと思っての事だ。