表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/8

*:.。.:*゜プロローグ゜*:.。.:*

 あの頃の私は、自分の死に場所を探すための旅をしていたのかもしれない。


 目的はなかった。


 護るものもなかった。


 大切に思う家族さえも、もちろん。


 何よりも、自分の存在そのものが、疎ましく感じられていた。


 でも、あの日から私は変わった。


 傷つくことを、恐れたことはない。

 自分の命が、惜しいと思うこともなかった。

 それなのに今は、自分が死ぬことを、ちょっとだけ怖いな、と感じてしまう。

 自分が傷つくのが怖いわけじゃない。私がこの世界から消えることで、自分以外の誰かが傷つくことや、大切な人を護れなくなるのが何よりも怖いのだ。


 私が変われたのは、きっとあなたのおかげ。あの日――あなたと出逢う事ができたから。


◇◇◇


 戦いの場特有の、張り詰めた緊張感があたりを支配していた。

 木製の柵によって囲まれた、四角い砂地の中心で対峙しているのは、武器を構えた二人の若者。柵の外側には、多くの見物人の姿が見える。同じように若年層が多い彼らは、対峙している二人の一挙手一投足を見逃すまいと、固唾を呑んで見守っていた。

 この場所は、トリエストという名の島にある、ディルガライス帝国領ドレイザの街。その郊外に存在していた、傭兵訓練所の一角だ。所属している傭兵らによる、模擬戦闘が行われていたのである。


 二人の若者に、いったん視点を戻そう。

 一人は、両手持ちの木剣を獲物にした、屈強な体躯の男。

 もう一人は対照的に、小柄なハーフエルフの少女だった。ハーフエルフとは人間と森の妖精族であるエルフとの混血児で、体格は比較的華奢なものだ。程よく筋肉はついているものの、ご多分にもれず少女も体の線は細く、武器も体に似合った細身の木剣だ。

 肩口で切りそろえた鮮やかな赤毛が印象的で、少女がステップを刻むたび、外跳ねした毛先が舞うように踊る。

 しかし、快活そうな印象を伝えてくる容姿とは裏腹に、やや釣り上がったアーモンド型の瞳に光は見えない。


 油断なく、二人は距離を詰めていく。

 痺れを切らしたように男の方が仕掛けると、とたんに激しい攻防が始まる。木剣のぶつかり合う音が、何度も周囲に響き渡った。

 力強い男の打ち込みを、刃を立てて少女が防ぐ。

 時には、切っ先を逸らして巧みにいなす。

 腕力にこそ恵まれていないようだが、少女のスピードと剣裁きは、なかなか堂に入ったものだ。

 上段からの振り下ろしは、刃を斜めにしていなす。

 強烈な薙ぎ払いは、バックステップをしてかわす。

 しかし、数刻の戦いののち、強い打ちこみに手がしびれたのか、少女が木剣を取り落す。まさにその時、上段から振り下ろされていた男の刃は、勢いを殺しきれず少女の肩口をしたたかに打ち付けた。激痛に少女の顔が瞬間歪む。

 この一撃で勝敗は決した。男の勝利を示す赤い旗が三本上がり、両手を突き上げ、彼は勝利の雄たけびを上げた。

 一方でハーフエルフの少女は、無言で木剣を拾うと、踵を返して会場を後にした。まるで、勝敗そのものに興味がない、とでも言いたげに。


 木製の扉を後ろ手に閉め、額に滲んだ汗を拭いながら、少女は「ふう」と小さくため息をついた。

 これで戦績は、引き分けが三つの――全部で何敗になるのかな? 指折り数えようとして、少女は諦める。パッとしない戦績など、数えたところで意味はない。痛めたのが利き手側じゃなくて良かったな、と安堵しつつ、苦い顔で笑った。

 早く自室に引き上げようと一歩踏み出したそのとき、別の声が少女を呼び止める。


「なぁ、お前」


 背中からかけられた不躾な声。

 怪訝な顔で振り返ると、そこに立っていたのは長めの金髪が印象的な青年だ。目鼻立ちは整っていて、青い瞳が放っている眼光も鋭い。

 だが、少女が彼に抱いた第一印象は、『裕福そうな出で立ちの、いけ好かない男』というものでしかなかった。


 これが、彼──レオニス・ハートランドと、ハーフエルフの少女ユーリ・コサカの、初めての出会いだった。


ページ下部の☆☆☆☆☆をクリックすることで、評価ポイントを入れられます。

作風が合わなかったら☆1。面白いな、と思って頂けましたら☆5等、段階的に入れる事が可能です。

評価ポイントは累積しますので、少しでも入れて頂けると励みになります。宜しくお願いします。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご愛読頂き有難うございます
評価ブクマレビューなどを頂けるととても嬉しいです。評価ポイントは、本文下の星から入れられます。何卒宜しくお願い申し上げます。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ