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妄想女性とイケメン毒舌男  作者: 海埜 ケイ
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初めましては、電車の中で



 私の人生は、とても色のないものだ。

 学生時代の私は、例えるなら漫画やドラマで言えばモブ中のモブ、顔無し役だった。

それは社会人になった今でも同じようなことが言える。誰にでもできる仕事を普通にこなして、必要な資格を言われるがままテストを受けて取得し、なるべく反抗的な態度はとらずにいたお陰で、今では主任を任されている。

 けど、それだけだ。

 何の変哲もない日々。繰り返される毎日を同じように繰り返していくだけでは、私の内向的な性格も、人付き合いの悪い性格も治るわけがない。

 帰りの電車の中で、私は溜息を吐く。


(何か、起こらないかなぁ?)


 不謹慎にも私はよく、電車の中で妄想をしていた。

 もしも、電車が脱線して事故が起こったら。

 もしも、同じ車両に乗っている女子高生が痴漢に遭っていたら。

 もしも、芸能人が乗っていたら。

 など、色々なシチュエーションを考えては遊んでいる。

 同じ電車に乗っている人にとっては不快なことこの上ないことだろうが、これは私だけの自由な世界の事だから勘弁してほしい。

 早速、私は視線を巡らせてシチュエーションを考えてみる。


(今日は、もしも殺人鬼がこの電車に乗っていたらにしよう)


 満員電車ほどではない車内で、ボストンバッグに隠し持っていた凶器を取り出して振り回す。

 無差別殺人。

 老若男女問わず、斬り続け、結局は次の駅で捕まってしまう。

 乗り合わせた人の半数以上が重軽傷を負うものの、死人はいない。そんな状況下に置かされるなんて、現実にはあり得ないことだが、頭の中では自由にできる。

 私が考えに没頭していると、電車が急ブレーキを掛け、体勢が崩れる。


「わっ、と! すみません!」


 吊革に掴まっていなかった私の身体は、横に並んでいた男性にぶつかった。

 慌てて謝ると、男性は表情のない顔をこちらに向けた。


(おおっ! イケメン)


 端正な顔立ちはまるでモデルさんみたいに整っている。切り揃えられた髪に切れ長な瞳、背は男性平均より少し高め位だ。ぶつかったときに分かったが、細身な割にがっちりした身体つきは普段から鍛えているためだと分かる。

 こんな少女漫画展開に、私の脳内は絶賛、お花畑中だ。

 一生に一度、あるかないかくらいの奇跡に感動中だ。

 少しの間、私と男性は見つめ合っていたが、徐に頭を鷲掴みにされ軽く突き飛ばされた。


「触るな、モ女。うつるだろ?」


 冷たい軽蔑しきった眼を向けられ、私の脳内は一気に氷河期になった。

 初対面でその言い方は失礼ではないのか。

 そもそも“喪女”とはなんだ。

 少し顔がキレイだからって何でも許されると思うな。

 様々なことが脳内に浮かんでくるのに、私の口からは出る言葉は「すみません」の一言だった。

 ああ、嫌だ。

 本当は言い返したいのに、それができない自分が嫌だ。

 こんな上から目線の男に蔑まれ、周りの本当のモブたちに笑われて、それなのに自分の心を押し殺してしまう自分が嫌いだ。

 男性は私が下りる駅より二つ手前の駅で降りて行った。

 一切、こちらを見ず、周りも見ず、まっすぐ背中を伸ばして歩く姿は、今どきの歩きスマホを主流としている若者と違って珍しいと思った。


(つい、目で追っちゃった。……最悪だ)


 鬱々とした気持ちを胸に、私は下車駅で降りて、24時間営業のスーパーで簡単な買い物を済ませて家に帰った。

 築18年、2DKのアパートの2階。そこが私と“妹”の家だった。




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