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異世界は伝説のはじまり  作者: 唯竹秋水
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プロローグ

 オレたちは常に六人だ。

 産まれた場所も、育った場所も、喜怒哀楽を共に過ごしてきた時間も、オレたちは常に六人だった。

 保育園の遠足で一人が熱を出せば全員で看病し、小学校で一人が野球クラブに入れば全員で入団し、中学校で一人がいじめに合えば全員で報復した。

 もちろん、同じ高校に進学した。学力には大きな差があり、三人は第一志望に落ちてしまったが、受かった三人は教師や親の猛烈な反対にも眉一つ動かすことなく、合格を蹴った。そして六人全員が唯一受かった、県内でも掃き溜めと呼ばれる不良高校に入学した。


―――本当に、よかったのか?


 卒業式で、ふいに出てしまったオレの言葉に、優秀な三人は心底不快そうに顔を歪めた。彼らは言葉にこそしなかったが、その眼には怒りのような寂しさが宿っていた。

 愚問だ。現に第一志望以外は合格していたオレが、実際にそうしているのだから。お前らのいない高校生活に意味はない。もし全ての高校に落ちていたとしても、オレたちは迷わず浪人するか同じ就職先を探すのだろう。

 オレたちは常に六人だ。今までも、そして、これからも。

 変なことに、巻き込まれる時も。


 気がつけば、白い光の中にいた。

 起きていたのか寝ていたのかもわからない。意識ははっきりしているはずなのに、何故か直前までの記憶がまったく思い出せない。ただなんとなく、これが夢ではないという確信に近い予感があった。

 目は、開けているはずだ。しかし何も見えない。光が眩しいわけじゃない。眩しい、という感覚そのものが欠落している。それに自分の手足や体も見えない、というより、ない。存在自体がなくなっている。光の中を漂う浮遊感と、意識だけがそこにあるようだった。


―――あいつらは、どこだ?


 思考した瞬間、五つの強い輝きを放つ光の玉が現れた。

 綺麗だ、そして温かいと思った。

 オレは何故か、あの光それぞれが、探していた彼らだと理解した。側へ行こう、と思っても、体は動かなかった。動かし方がわからない。意思はあっても、声を発することは出来ないみたいだ。

―――さて、どうするか。

 どの光が、誰なのか。それはわかるようになっているが、触れられない話せないでは困る。それにいつまでこうして浮いていればいいのかもわからない状況をずっと続けるわけにもいかない。


(異流者よ、汝に恵みを与えん)


 唐突に意識の中に声が響いてきた。かなりクリアに聞こえるが、性別は不明だ。男とも女とも言えない。あえて言うなら「音」のような声だった。

―――誰だ、お前は。

 頭の中で問いかけても、返答はなかった。

(異流者よ、災いと恵みの変革者よ、新たなる世界の子供たちよ、恵みを得て顕現せよ)

 イリュウシャ? 変革者? 何を言っているのか意味がわからない。恵み? 何かをくれるのか?

 頭がまったくついていかない。ついていかないが、今はこの声に従うしかない。あいつらも同じ状況だろう。

 アカネとシオンは、絶対楽しんでいるだろうな。アオイは冷静だろう。リョクは間違いなく戸惑っているはずだが、キヅキは、どうだろうな。十七年近く一緒にいても、キヅキだけは何を考えているのかわからない。

(恵みを一つ、選択せよ。恵みを得て顕現せよ)

 声と同時に、今度は無数の単語が意識の中に流れ込んできた。そしてオレはようやく理解した。その単語一つ一つが、(恵み)と呼ばれるもので、それを得てからどこかしらに飛ばされる、ということが。

 よくある異世界転生ラノベにありがちなチートスキルをゲットして新しい世界の冒険にレッツゴー! 的な、アレか。最強俺が異世界ハーレム、みたいな。シオンが狂喜乱舞している様が目に浮かぶようだ。最悪だ。

 個人的には(恵み)とやらを慎ましく辞退して速やかにいつもの日常に戻りたいところだが、そういうわけにもいかない。仮に戻れる選択肢があったとしても、アカネとシオンは喜んで行ってしまうだろう。

 オレたちは常に六人だ。それはこれからも変わらない。

 しばらくすると、光の玉の一つが一際大きく輝いて、発射するように勢い良く天に向かって消えていった。やはりシオンはすぐに選んだ。深く考えず、自分の直感を信じる彼らしい決断の早さだ。

 次に後を追うように、アオイ。少し意外だ。彼女はもっと冷静に一つ一つを吟味してから選ぶと思っていた。だがアオイのことだ、きっと迷う必要がなく最適な(恵み)を見つけたのだろう。

 そしてアカネ。全てが規格外な彼女なら、何を選んでも最高の選択になるのだろう。

 続いてリョク。心配性で優しい彼ならばきっとオレたち六人のためになる(恵み)を選んだんじゃないだろうか。

―――さて、オレは何にしようか。

 キヅキもまだ悩んでいるのか、天に向かう様子がない。少し彼女らしくないような気もするが、これから何が起こるのかまったくわからないなかで、慎重になって悪いことはない。むしろ他の四人が早すぎる。

 とはいえ、あまり長い時間悩んでいるわけにもいかない。早く皆に合流しなければ。

―――よし、コレにしよう。

 数々の(恵み)の中から、一つを選択した。と言っても、どこかのラノベのような、チートスキルではない。そもそも、そんなに大したことができるような(恵み)がなかった。穏やかに慎ましく、かつ生活に困らずにオレたちが暮らしていた世界に帰還する方法も調べやすくなるような、便利かつ平和的な(恵み)だ。

(恵みの選定を承認。顕現せよ)

 無機質な声が(恵み)の承認を告げると同時に、オレの周りが眩く輝き出した。どうやらオレもすぐに飛ばされるらしい。

 結局、これは一体何だったのか。オレたちはこれからどこに向かい、何をするのか。何一つ情報を得られないまま、オレである光はロケットのように猛スピードで天へ昇っていった。


 そのすぐ隣をほぼ平行するように、キヅキの光が飛んでいた。偶然にも同じタイミングで(恵み)を選択していたらしい。

 オレたちは常に六人だ。どんなときも。それは過去に飛ばされようが未来に飛ばされようが、見たこともない異世界に飛ばされようが、決して変わることはない。

 そう、思っていた。

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