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そうだ。
わたくしは……私は、死んだんだ。お母さんと買い物に来ていて……途中で、大型トラックが突っ込んできて……咄嗟に私は、お母さんを庇って。
そうか、そうだった。私には前世があった。日本生まれ日本育ちだったと言う前世が。
……そしてこの世界は前に伯母が話してくれていた乙女ゲーム――『thrillerromance』の世界だと言う事も理解した。
そして私……わたくしはそのゲームで登場する、悪役の王女――レーゼ・クローリーンだ。
レーゼは王女と言う立場を利用して、自分より身分の低い伯爵令嬢だと言う主人公を陰からイジメまくっていたとんでもないほどの悪役だ。
しかも自ら直接手を下さず、陰からだと言う事が一番めんどくさい。そのせいで証拠を集めることが難しいと言う。
言葉にする事すら恐ろしい程の悪戯を働いていたレーゼは、もちろん最後に制裁が下される。……処刑だ。
王女がそんな簡単に処刑台に掛けられる事は無いだろう、そう思っている貴方。
なんと攻略対象には、レーゼの兄……即ち王子が居るのだ。
王子――ゼラーガ・クローリーン。
温厚で誰にでも優しい好青年。よくある裏では腹黒とか言う設定もナッシングの美系。
無論人気が一番多く、伯母もよくイケメンなんだと話していた。……推しでは無かったそうだが。
まあそんなだから、処刑にかけられる。と言う事である。でもそれは主人公がゼラーガ以外の男と恋に落ちた場合だが。
そう、主人公がもしゼラーガと恋に落ちた場合――邪魔してくるライバルはなんと私では無く、ゼラーガの婚約者。
婚約者――エミーディル・キーミカ。愛称はエミィ。
同じ悪役(?)とはいえレーゼとは違い、おっとりしたほんわか系公爵令嬢。やり方もレーゼのようにネチネチいじめるのではなく……天然なので無自覚で邪魔をしていたりするだけだ。
だからもしゼラーガと主人公が恋に落ちちゃった場合、アッサリと引き下がる。元々は政略結婚だったからだそうだ。
なのでゼラーガルートの場合レーゼに何も被害は及ばない。
よくよく考えてみよう。悪役に転生した場合は処刑ルートまっしぐらだ。まず主人公をいじめなければ済む話なのだが、もしなにかの手違いでいじめてしまった事になったら?私はどうすればいいのだ。
と、言う事で。
唯一私が無事なルートをお持ちになっているお兄様、ゼラーガ様に、主人公様の所にサッサと婿入りしてもらおうと思います。異議はありますか?ありませんねよろしい。
よし、これから色々頑張ろう。