異世界への招待
「優勝ー!!黒須、黒須剣斗優勝ー!!今大会の試合、全てをストレート勝ち。無名の一年生ながら去年の優勝者をも圧倒し、遂には優勝まで果たしてしまった彼はいったい何者なのでしょうか?」
司会者の煽り文句と共に会場が沸いた。俺を称賛してくれる歓声と共に大会の幕は閉じた。
帰路につき、ふと、今日の試合を思い出す。試合相手は皆、全国から集まった強敵達だったはずだ。しかし、蓋を開けてみれば誰もが鈍重で、力の弱い者達ばかりであった。なるほど、確かに前回の優勝者で、今大会でも優勝候補と取り沙汰されていた者は、他の者達とは明らかに錬度が異なってはいた。それでも結果は、俺の求めていたものとは違った。会場にいた有段者の大人達でさえも、一目で自分より遥かに弱いと感じてしまった。
「俺にこの世界は狭すぎる。」
幼い頃から何事においても負けた事は無かった。
曰く、質実剛健__。
曰く、知勇兼備__。
曰く、文武両道__。
曰く、眉目秀麗__。
曰く、気宇壮大__。
この世の賛辞は全て俺の為の言葉ではなかろうか。
「 この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば 」
道長パイセン、アンタとなら気が合いそうだ。
そんな事を考えていると愛すべき我が家に着いた。築80年、ひいじいちゃんが建て、代々受け継いできた庭付き一戸建てだ。俺に欠点が有るとすれば家が貧乏だということだろうか。
まぁ、田舎なので広さだけならそこらの豪邸にも引けは取らないがな。いかんせん現状を感が見るにボロ屋敷と言うのが憚られない状態ではあるが。それに、俺の才能を持ってすれば金など直ぐに儲けれるさ。
一応は、名家だったと言うことで礼儀作法やその他の教養も叩き込まれた、金持ちに舞い戻っても直ぐに社交界でも活躍可能、俺の人生設計に隙は無い。
「ただいま。」
扉を開けても誰の返事もない。父と母は、俺が物心付く前に死んだとばぁちゃんが言っていた、実質俺を育ててくれたのは、ばぁちゃんだが、そんなばぁちゃんも俺の高校入学を見届けるとコロッと逝ってしまった。お蔭で天涯孤独と言うわけだ。
未来は明るいが家の中は暗い、若干16歳には少し堪える。
「風呂でも入るか。」
少し、おセンチになってしまったが、体を温め、飯でも食えば気は晴れるだろう。
風呂を済ませ、夕食の準備に取り掛かる。お気づきだろうが俺は料理も超一流だ。いつものように手早く調理を行う。
肉の焼ける香ばしい匂い、瑞々しい野菜のサラダ、そしてまろやかなスープ。食事は生きる為の活力を養う為の重要なファクターだ、素材自体は安物だが俺の手にかかればそこらのレストランの味など目ではない。
「まだ、ばぁちゃんの味には負けるがこんなものだろう。」
独り言ちながら調理を終える。皿に料理を盛り付けテーブルへ運ぶ。
「やはり俺は完璧だ。」
ここで透かさず、自画自賛。食事前の日課である。活力を養うには、自分を褒めるのも大事なのである。自画自賛と食事。双方合わせると活力回復の観点からその効果は2倍とも3倍とも。(当社比)
“圧倒的活力主義”ばぁちゃんの教えであるからして、これだけは誰が何と言おうと止められない。
「はぁ~、完璧過ぎてやんなっちゃうね、ほんと。」
「この前の、全国模試でも1位だったし、今日の全国大会でも優勝、俺は何か特別な使命でも帯びてこの世に生を受けたのではなかろうか、でないとこの才能が勿体な過ぎる。神様が存在すると言うならもっと人材の有効活用をするべきだ。」
まぁ、なんにせよ料理が冷めない内に食べよう。
「それでは、いただきま」
「良かろう、ならば汝に使命を与えよう」
俺の言葉は、聞いた事の無い悪戯っぽい声に遮られ、目の前の空間が歪み俺は意識を失った。