第7話 第一次膀胱大戦。
「いや、もう、ホンマに自分なんなん?ワザとや無いんやったら逆に凄いわ。自分アタシをイラつかせる天才やな。」
「ほんっとうにすみませんでした!!」
マイケルシンプソン17歳、現在目下土下座中である。かれこれもう20分ほどこの状態なのでそろそろ足が痺れてきたのだが、そんな事が言える雰囲気ではない。
「アンタを信用したアタシがアホやったな。ま、もうこの事はええわ。」
ひとしきりブチ切れて怒りが収まったのかアンナが話を変える。
良かった、やっとこの正座地獄から救われる。そう思って胡座をかこうとすると、
「誰が崩して良いって言ったん?」
はいっ、喜んで正座させて頂きます!!
足の痛みに耐えているとアンナは俺の後ろでビクビクしているポテ男に近づいた。
「ほんでこの子豚はなんなん?」
「あぁ、ハネトンって言う希少種の魔物だよ。基本的に温厚で、貴族達のペットとしても人気があるんだ。お前も故郷のフラン王国で」
はっ、とここまで言って思い出した。こいつにこう言う話をしたら
「へぇ、エラい儲けれそうな話やん。分かった、アンタの今回の失態これでチャラにしたるわ。」
こうなるんだ!!!
それだけはダメだ。
ポテ男はもう俺の友達だ、いや家族だ、いくらアンナ大魔神でもそれを売る事は許さない。
ほら見ろポテ男があんなに怯えてプルプル震えている。
そこにアンナがニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら近づいている。
ダメだっ!話せ俺、喋ろ俺!
「あっ、あのアンナさん。」
ミスった、ビビりすぎて声裏返った。
「あ?なんなん?何かまだ謝り足りん事あるん?」
怖えぇぇぇええ!!!
絶対いま俺の心臓ちょっと止まったよ!
背筋凍ったもん!
でも耐えよう、ここで言わないとポテ男が売り飛ばされる。
俺はごくっと唾を飲み込み、口を開いた。
「そのですね~、僕はその子を飼おうと思っているんですよ。なのでちょっとその~、売るとかそう言う事はナシの方向で行きたいなぁ~って思ってるって言うか何というか。」
届け、俺の真摯な気持ち!!
正座して顔を下に向けたまま気持ちをぶつける。
怖いので後半小声になったが言いたい事は言えた。
しーんと沈黙が辺りを漂う。
思いを告げた後反応を見るためにゆっくり顔を上げようとすると、不意にガッと頭を鷲掴みにされた。
「なぁ、自分ホンマ何様なん?人様に心配かけといて、ぼくペット飼いたいですぅ~~って。ムシが良すぎるわ。いちびんのもええ加減せえよボケ。」
瞳孔の開いた目で睨まれ、ドスの効いた声で早口に捲し立てられた。
あっ、ヤバ。ちょっと漏らした。
チラッとポテ男の方を見ると、彼も今のやり取りを見てお小水を催したようで、2人の間で異様な連帯感が生まれた。
ここで引いたらダメだ。俺たちは永遠に離れ離れだ。
俺がそう感じるとポテ男も同じ気持ちなのか前足でポムっと胸を打った。
そうだ、勇気をだせマイケル!
師匠の修行はこんなんもんじゃなかったろ!
ゲイバーにいるマッチョ全員に喧嘩売ったり、近衛兵御用達の修練所に道場破りを仕掛けたり、今までこれ以上の困難がたくさんあったじゃないか!!!
うぉぉおおおおお!!!!
震えるぞハート!!燃え尽きるほどヒート!!
「一ヶ月全部奢るんで許して下さい。」
そこには大陸史上指折りの土下座を見せる若者の姿があった。