Lv.7‐白い者
首筋にある、冷たく嫌な感触…。
聞いた事が無い、低い声。
この小屋には…私とラーイさん、シンさん、フェンさんと…シロさんしか出入りが不可能な筈なのに…。
"ダレ"と言う可能性も何も思いつかない。
どうしようどうしょうどうしょうどうしょうどうしょう?
―ヒュ…
その時、焦る私のの周りに"何か"が円を描く様に立ち上った。
白いフワフワとした物が旋風に舞っている!?
「…く、わっ…!?」
「!!」
瞬間、私の首筋から冷たい何かが外された。
私はその時咄嗟に前方に倒れて、肘をついて前方へ身体を引いてその場から逃れた。
そして身体を反転させて、その者を見た。
見た先に居たのは全身白い男の人で、彼の周りを舞い纏いつく何かを両腕を使い散らしていた。
「…ダレっ?!…雪…?!」
「……見つけた。"氷雪の命"を持つ子供…!そこを動かないで欲しい」
「ひょうせつ、の、めい?」
初めて見る人物に、初めて聞く言葉。
でも、私は…その人物のある部分を見て、"ハッ"としてしまった。
「…右目に、眼帯…?」
うそうそうそ!それは、シロさんの特徴じゃない!
「…………」
「…俺の話しを聞いてくれる?」
急に今度は何を言っているんだ、この人は…。
そして私の首筋に当てられた冷たい何かは今は遠のいてる。
確認の為に、私はそこの部分に触れた。
―ぺちゃり…
「…濡れてる…?」
「薄い氷を当ててたからね。もう溶けてしまったけど」
「…………」
「…改めて、俺は…シェルリアガ・ダーガット・オーフェ・ベルフェリオ。…氷狼一族の末裔」
…当然だが、彼は"シロ"さん。
シロさんではないけど、シロさん。
「…改めて…なら、私は…"セツナ"」
「セツナ、俺の事は"シェルリ"と」
「は、はい…」
…言葉がこれ以上出ない。
ここは警戒すべき?それとも、「なーんだ!」とか、笑ってみるべき?
シロ…じゃなかった。シェルリさんは私に微笑みを向けている。どこまで…近づける?
私は…まだ、逃げられる距離に居る…。
眼帯で片方の瞳の表情しか分からない。
そう言えば、私の事を『氷雪の命を持つ子供』とか言っていたな。
それって、何かな?どういう事、かな?
「…"氷雪の命を持つ子供"って、どういう事ですか?」
他にも、この人…シェルリさんが自分の事を"氷狼族の末裔"とか言っていたのも気になるけど…。
疑問解決の質問は一つ一つにしておこう。どうせ一気に理解出来る訳無いし。
とりあえず逃げるかは…保留だ。逃げた所で私はここの土地勘が全く無い。
目の前のシェルリさんは……とりあず、今まで一緒に過ごしてきた内容を振り返ると何と無く大丈夫なのではと…行き着いた。
距離を置いて、半眼で彼を見上げて答えを待つ私に、シェルリさんは顎に手を当てて「ふぅむ?」と小首を傾げて考えている素振りを見せた。
こうして見ると、ラーイさんと同じくらいか少し若そうに感じる。
全身"白"と感じていたけど、まさにそうなの。
銀…より、"白"く僅かに陰に水色を含む髪に、肌は不健康一歩手前…良く言えば抜けるような輝く白い肌。瞳はすごく薄い灰色。
服は白い長袖のローブにズボン、マント付きの長いコートに、くるりと巻かれた白いマフラー。白い皮のミドルブーツ。手には白い革手袋。
そして…ぴくぴく動く、白い狼耳と、ふさふさの白い太い尻尾…。本物?……獣人?
眼帯の黒が異様に目立つ。浮いてる。視線がまずそこに向かう。
そして私が黙って彼の観察をしていると、どうやらシェルリさんの考えが纏まった様だ。
「―…君が作った雪の結晶を埋め込むと、君の"兵士"が出来る、って事だよ」
「???」
「……こっち来て」
そう言うとシェルリさんは私の手を掴んで外に出た。