Lv.5‐セツナ、頑張りどころ?
―…ビュゥ…ビュゥ…ビュゥ…ビュゥウウウウウウウ…
「…さ、さッむい!!ってか、痛い!」
勢い良く外に出たのは良いが、私は顔面に容赦なく叩きつけられる雪に思わず声を上げた。
身体はラーイさんからのマントを纏っているから、寒くは無い。
そして私は横から受ける風雪に「ぅぅう…」と歯を食いしばりながら問題の白い生き物へと近づいた。
この時点で、私はこの倒れている白い生物に自分が"倒されてしまう"と言った類の危機感は全く持ってなかった。
雪の上をやや足を取られながら問題の倒れた白い生物まで行き、私は思考が一瞬弾けた。
「け、けっこう…おおきい…」
そう。大きいのだ。大型犬より大きいのだ…多分。
こんな大きさだったとは、小屋の窓越しではわからなかった新事実!
私は考えなさ過ぎな自分に、実際に低く呻いた。
運搬、しなきゃいけないのだ。正直抱えてイケルと…単純に考え過ぎていた。
それに、大人な私ならまだしも、今は子供の姿なのだ。若返り万歳…じゃないよ、全く!意味が分からないし!
…って、今、ここで自分についてを考えている場合じゃ無かった…!この、白い生き物を何とか助けないと…!?
「……これしか、ないか…な?」
私は小さな覚悟を決める為に、小さく声を出して"プツリ"とマントの留め金のブローチを外した。
…そう、このマントの上に乗せて、引き摺って運ぶ事にしたのだ。
そうと決めれば…と、私はマントの上に白い生物を何とか乗せて、小屋まで短い距離だが、「う~う~」と力を入れた呻き声を出しながらそれを小屋に運び終えた。
行為の締め括りとして、小屋の扉に閂をしたところで私は「ふぁ―――っ…!」と声を上げた。
小屋は一見した感じ、どこも変化は無いが、生き物が増えた。
私は閂から自身を引き入れた生物へ移動する前に、ぬるま湯と綺麗な布を数枚掴み、最後に生物の横に座った。
呼吸に連動して僅かに上下している腹部を確認しながら、私は「し、失礼…します…」と変に断りを入れてから、白い生物を拭き始めた。
…まぁ、大して汚れていない…。ただ、後ろの脚が何かに縛られていたのを、無理矢理自由にした…様な痕があった。
それに、汚れては無いが、身体に鞭痕の様な赤い痕、それに驚く事に……
「…眼帯…?」
そう、この生物…右目に眼帯をしていたのだ。
眼帯とかって…?でも。こうしているって事は、"飼い主"が居る…って解釈良いのかな?
見れば、"犬"…よりシャープなイメージを受ける"狼"…。
「…眼帯…取っちゃうね?」
「ガルルル…」
う、呻り声で拒絶されてしまった!?
私はその事に衝撃を受けたが、それ以上眼帯には触れずに身体を適当に拭い終えた。
「……さて、次は冷えた身体を何とかしないとねー…」
私は次に、外のあの中に居たこの白い狼的生物…もう"狼"で良いや。この狼を温める事にした。
「…こうすれば、温かい?」
そこで私はシンさんとフェンさんから貰った赤い魔石を私と白い狼の間に置いて、マントに一緒に包まった。
このマントは私が居ないと…触れていないと機能しないから、こうしないとダメなのだ。
暴れられたら困るな…と思ったが、そんな事態には成らずに私は白い狼とマントに包まる事に成功いた。
前面から、石から来る暖かみと、外側からのマントの熱、そして多少モコリとした大型の白い狼…。
何だ、この微妙な幸せ空間は…。
「…どうかな?」
「クゥ~ン…」
私の声に反応してくれた?声は犬っぽい…。
暴れるどころか、全然大人しい…。楽、って言えば、楽な状況…なのかな?
だって、このままマントに包まっていればそのうち身体は温まって来る。
「…もう大丈夫…安心、して、良いよ?…だから、おやす…み…」
「………」
私の眠りへと向かい、消え入ってく声に白い狼は頬にスリと鼻先を擦り上げてきた。
その行為に私は声ではなく口角を上げる事で答え、白い狼を引き寄せて眠りに着いた。
おやすみ、なさい。
―…そして寝入ったセツナは、この事に気が付かなかった。
この山小屋の回りをグルグルと何周もしながら、執拗に小屋内へ侵入出来る隙間を探している複数の者が出現してる事に…。
しかし、小屋内部へはセツナの許可が無いと入れないのだ。
しばらくして、小屋へ侵入を諦め雪嵐の中に去っていく姿は、悔しさと憎悪が含まれる物だった。
一歩、一歩、確実に小屋から遠ざかっている筈なのに、その実、遠のいていない感覚。
しかし吹雪が雪後に足跡を残すのを許す事はせずに、平等な行いで足跡を白雪で覆い、それを全て消し去ってしまった。
それでも…足跡は白雪に消えども、その黒色の執念の塊は消えず…。
幼いセツナの寝顔を見ながら、白い狼は外の気配をずっと探り続けた。
念は感じるが、生身の身体は無い事に気が付いた白い狼は暗闇の中で、小さく「クゥ…」と溜息に似た声上げた。
そして、そばだてていた三角耳を何かを薙ぐ様にフルリと動かしたのだった…。