Lv.3‐それぞれの朝
そもそも、ラーイさん達には目的あったのだ。
『雹竜』という、敵を討伐する目的が…。
朝の湯浴みをそれぞれ済ませ朝食後、私は白いリュックを抱えて淀み無く武装帯剣していく彼らを見ていた。
自分でも驚くくらいのスピードで、私は彼ら…主にラーイさんに懐いて行っている。
そして子供の姿ではない私だってお荷物になるのに、この状況下で私の行き着く答えはとても簡単に得られる。
…私は、どうなっちゃうのかな…?やっぱり置いてかれちゃう…かな?
「セツナ」
そんな暗い未来を悶々と展開していた私に、ラーイさんが声を掛けて来た。
私は彼の落ち着いた声にトテテと近づいて、彼を見上げた。
『…何ですか?』
「セツナ、お前はこの小屋に置いていく。これより先は戦闘もあるし、危険だ」
『…!!!』
やっぱり、そうなるんですか。
『らーい、しゃ…っ…ぐすっ…』
「泣くな、セツナ。男の子だろ」
『………!?』
は?え?え?は?はぁ!?………ぐはっ!!
これはつるぺた幼児体型に、少年めいた服装、ショートボブな髪型…その全てが性別を逆転させた印象で固定させたと言うのか…!?
しかも、私はラーイさん達の言葉を部分的に拾えるが、彼らは私の言葉を本当に"予想"でしか拾えないのだ…!
別な意味でも泣けてきた…。
これは…胸に手を…って、脂肪が無いじゃん。元がバインとある訳ではないけど、今の私は微かな膨らみすら無い。それに、ラーイさんに手を自分の胸に導くのすら、無理。……身体に手をとかって、痴女だろ、それじゃ。
思わず胡乱な瞳でラーイさんを見てしまう。
昨夜、"ぎゅ"って…してくれたけど、あれは同性の気安さだったの?
…いや、深くは考えまい。気が早すぎる。それでも、これだけは言わせて欲しい。
『ラーイさんの、ばかぁ…』
「?」
そう口にして、再びポロリと涙を零した。
まだそれほど形になってないながらも、私の淡い心が泣き出してしまった。
自分でも斜め上な心情にビックリ中だよ!
「セツナ、本当にどうしたんだ?」
「ラーイ、小僧は自分が本当に置いて行かれる…見捨てられると思って不安なんだろ」
「シン様…。確かに、まだ説明の途中です」
「ほら、ラーイ、早く話してやれ」
「兄貴、分かった」
何々、何なの?三人で私の何を決めたと言うの?
私がシャワーを使っている時に決めたの?
しかも、全員が私を"男の子"だと思い込んでいる。
「セツナ」
『………』
そして再び私に向けられたラーイさんの声を、私は無言で返した。
「…いいか、セツナ。俺達は雹竜を討伐したら、再びこの小屋に戻ってくる。それまでここに一人で居れるか?」
『……お留守番…?』
…拾える単語で何とか理解して、コクリと頭を縦に振る。
とても重要な事を決めているのに、半分も分からないのがもどかしく、不安で一杯になる。
私はちゃんと拾えているのだろうか…?
「……二週間して、俺達…最悪、誰か一人が小屋に現れない時は、渡す物を持って山を降りて、"王都ハイデルダイム"に馬車を雇って向かうんだ。
そして"ユナ・オフェ・アーギス"という人物に手紙とブローチを、直に見せるんだ。良いね?」
『手紙とブローチ…』
そしてラーイさんは一通の手紙と四つ折の紙、そしてブローチと共に、金貨を一枚、銀貨を三枚、私に握らせた。
「セツナ、俺はお前の面倒を見ると決めた時から、出来るだけ良くしてやろうと思っている」
『……………』
「セツナ、出来るな?」
『……………』
あまり内容を拾えない会話文から必死に単語を掴んで、私はラーイさんの緑の瞳を見つめ続けた。
ラーイさんは私の握る手を"ぐッ"と更に上から大きな手に握り込み、手の平にブローチと硬貨の感触を強めた。
出遭ったばかりの訳の分からない私に、お金まで渡して面倒を見て良くしようとしてくれている…。
『出来ます…。でも、ちゃんと帰って来て下さい……待ってます、から…』
…ラーイさんの話しを聞きながら、私の中に不思議な"揺らめき"を感じた。
それは青白くて…冷たい炎。
熱とは真逆な冷たさなのに、それがかえって"熱"と"痛み"に変換されてく炎。
この…"ザワザワ"と蔦が壁を張って広がる様に目覚めていく感覚は、何だろう?
…変、私…変…。
―…そして私は…コクリと頷いた。