Lv.2‐交流、しましょ?
「もう少しで今夜の寝床の小屋に着くからな」
『はい』
白マントさんに声を掛けられて、私は拾えた単語…"寝床"、"着く"から、言葉を補い返事をした。
要するに、まんま、「寝床に着く」って事でしょ?
そして私は今は白マントさんに背負われいる状態なの。
うん…足のコンパスがかなり違かったものさる事ながら、それ以前にマントの中に私を収めたままで雪原を歩くのが困難だった。
なので、手っ取り早く私は背負われ、頭だけをピョコと外に出している状態でいるのだ。
…寝床かぁ…。
着いたら、まずは自己紹介をして、名前を教えてもらおう。
私はそう決めて、薄紫に染まり始めた空に現れ始めた星を見上げた。
それから程なくして本当に小屋に着いた。
こじんまりしている山小屋。
中に入れば簡易的な造りをしており、まるで1kだ。
風雪を防ぐだけの機能しか考えられていなのか、必要最低限な造りの様だ…。
暖炉っぽい物は無いが、仄かに温かい空気を感じる…。何だろう。不思議な気分。
それから一応、白マントさんに手をとられ、トイレとシャワールームの様な場所に行き簡単な説明を受けた。
シャワールームには赤い宝石と青い宝石が壁に嵌っており、お湯を出したい時は赤、水が欲しい時は青を触ればそれぞれが出て来ると教えられた。
温度調節は宝石を触って上げ下げして調整し、放出される水量はどうやら一定の強さの様だ。使い終わったら、赤青同時押しで止まるとの事。
しかし、シャワーらしき物の前で「…?」としてたら、それを察してくれた白マントさんがシャワーの使い方を教えてくれる事になったのだ。
手に温いお湯寄りの水を当てられながら身振りで説明を受け、私はそれに頷きや、もう一度説明して欲しい時は指を一本出してお願いした。
説明の中に「魔力」とか、そんな感じの事を言っていたから、それが動力源…?なのかな?
そして食料倉庫の説明を受けて元の部屋に戻ってきたら、何とご飯が出来ていた。
熱々のたっぷり黒胡椒のジャガイモペーストのベーコンスープと、パンを目の前に出され、思わず喉が鳴った。…ここで鳴ったのがお腹じゃなくて、良かった…。私の少ない乙女の部分が救われた。
そして私が目を丸くしている内に彼らはそれぞれ食事を始めた様で、その音に弾かれる様に私もスプーンを掴み、食事を開始した。
熱いスープはちょっと濃い目で黒胡椒が効いている為か、直ぐに身体がポカポカしてきた。寒さに合わせて、わざとこういう味付けをしているのだと感じた。
パンは固めな食事パンで、シンプルな味わいがこの組み合わせとして合っている気がして、私は「美味しい」と呟いた。
食事中は誰も喋らなかったけど、別に苦では無かった。
そして後片付けはどうやら食器洗い器の様な物が有るらしく、それに使った物を並べて終了の様だ…。便利…。
…そうそう、私ってば何と一つだけ荷物…白いリュックを所持してこの世界に来たみたいなの!
名前はまだ分からないけど、この三人のリーダー格の赤茶髪の男性が私のリュックを見つけて拾ったのを発見した時は、本当に驚いた。
何とか身振りで説明して返してもらい、中身を確認するとそこには私の子供時代の衣服と下着が入っていた…。
そりゃ…今は子供の姿だけど。何でかしらないけど…深く考えない方向で受け入れているけど…。けーどー…。
ふ…。まぁ、有り難い。着替えが出来る。これって結構嬉しいかもな…。
そうだ。
ご飯も食べたし、この辺で自己紹介…と、名前を教えてもらおうかな?
『私の名前は、セツナ、です。名前を、教えて下さい』
「「「…?」」」
ああ~~~っと、これは理解されていない!
そこで私は自分を指差し、『セ ツ ナ』と何度も口にした。
すると白マントさんが他の二人に何かを喋り出した。
「…もしかして、この子の名前は"セツナ"では?」
「何?ラーイ…そうだと分かるのか?確かにしきりに"セツナ"と言っているが」
「なら、"セツナ"で良いのでは?」
そして三人が頷き合うと、今度は白マントさんが「ラーイ」と何度か言って来た。
…ラーイ!そうか、通じたんだ!これって、彼の名前だよね!?
私は嬉しくて、直ぐに『ラーイ!』と口にした。
それから言い直して『ラーイさん、宜しく』とへにゃりと笑った。お礼と嬉しい時は笑顔!
ラーイさんは私を見てちょっと驚いた顔をしたけど、直ぐに他の二人を見て、「どうぞ」と言った風に何かを促す素振りを見せた。
すると残りの二人も私に向かって、
「俺は"フェン"」
「"シン"、だ」
…と、短く答えてくれた。どういう意図かは置いて置いて、短く言われるのは助かる。そこに情報が凝縮されているからだ。
そして私はショートボブの髪を揺らしながら三人の顔を見て、知ったばかりの名前を『ラーイさん、フェンさん、シンさん…宜しく』とそれぞれ呼んで頭を下げた。そして頭を上げて、笑顔!友好的な笑顔!
すると、三人からそれぞれ「セツナ」と呼ばれ、頭を撫でられた。
髪の毛がボサボサ気味になったけど、私は何だか受け入れられた様で嬉しくてまた笑った。
そしてこの三人のリーダー格はシンさんで、フェンさんはラーイさんのお兄さんだと分かった。
シンさんは赤茶髪の深い蒼の瞳で、鋭い感じ。
フェンさんは薄茶の髪に黄緑の瞳で、優しそう。
ラーイさんはフェンと同じ髪色だけど、瞳の色が濃い緑なの。そして、一番真面目そう。
私は外見は大人から子供になったけど、髪色は黒。確認はしていないけど、瞳も髪と同じ黒に違いない。
…とにかくこの外見でしばらく頑張らないと。うん。
そして夜は冷え込みが酷いから、今夜はさっさと寝ようという事になり、私達は雑魚寝で眠りに…。お風呂は朝なのかな?
敷き布団兼布団代わりにそれぞれマントに包まって寝るという…。私はマントを持っていないので、ラーイさんのスペアを借りた。
そうそう、この世界ね、ある程度の荷物量なら納まる空間をつくる術があるみたいで、見ていて何だか便利そう。
やっぱり魔法とか存在する世界なだけあるなとか、変に感心しちゃった!
ラーイさんは私にマントを渡す時に「大丈夫かな…」と呟いたけど、どうしてかな?
借りたマントは内側に毛皮が施されていて、厚手で…温かそうですけど?
私は彼の不安を消そうと『大丈夫。ありがとう』と答えて、リュックを枕にさっさとセルフ蓑虫になって寝始めた。
すると気配で私の隣りにラーイさんが来た様なのが分かり、部屋が暗くなるのを感じた。
…さ、寒さが痛くて…、痛くて寝れない。
本当に冷え込みがキツい…。あの仄かな温かい空気はどこへいったのだ…。
私がマントを掴み更に丸まり、カチカチと歯を鳴らしていたら、何とラーイさんを起こしてしまった様だ…。
仄暗い闇の中で、ラーイさんの緑の瞳が不安気に私を見ている…。
「…セツナ、寒い?」
『らっ、ラーイさん…。はい、寒いです…。このマント…、最初は温かかったのに…今はとても寒いんです…』
私はラーイさんの言葉に、正直にコクコクと頷きながら小声で答えた。
「やはり俺専用の防寒魔法だから、セツナだけではちゃんと機能しないのか…」
『?』
私から頷きの返答を得たラーイさんは暗闇の中で暫し顎に手を置いて考え、次に掛け布代わりのマントを上げて、私に向かって言葉を発してきた。
「…こっちにおいで」
『………え…』
「そのマントに包まっているより、俺と居た方が温かいぞ」
『で、でも…私…』
「…?良いから、子供が遠慮するな」
『こっ、こどッ…。そ、そーですね。そうですね…。………そちらに行きます』
拾える単語の中に"子供"があった。
そうだよ。私は子供。温めて貰うだけ。ラーイさんは純粋に私を温め様としてくれているのだ。間違いない。
……自意識過剰な方向に考えていた自分が、少し恥ずかしくなった…。自分は出遭ったばかりのラーイさんに、どう見て欲しいのか…。
私はイケメンを見ているだけでドキドキしてしまうから…困る。ラーイさんは三人の中で一番…好みなのだ…。困る。無駄に、変に…困る。
脳内お花畑が満開で、乙女な私が怪しいステップでその中で踊っていそうだ。困る。大変、困る。
でも、困っても私はラーイさんの腕の中を選んだ。だって私は子供で今はとても寒いんだもの。
少し混乱を来たしている頭で理由付けをして、私はラーイさんに縋った。
『ふぁ…っ?あったか…ぃ…。ラーイさん、すごい…温かいです…』
「セツナ…結構冷えているな…。すまない…」
鎧越しじゃない…薄い布から伝わるラーイさんの体温…。すごく気持ちイイ…。
これなら、あんな冷たい空気の中でも大丈夫…。
…それにしても…安心、する…。ああ…安心し過ぎて早くも眠気が…。
……しかもラーイさんは謝る必要が無いのに…。むしろ悪いのは…
『ラーイしゃ…ん、私、冷たくて…ごめなさ…。むにゃ…。んんっ…』
全方向からトロトロとした温かさに包まれて、私は安心しきってラーイさんに更に擦り寄った。
今だから…子供だから…出来る擦り寄りかも…。本来の年齢なら、出来ない。
そしてラーイさんも私の擦り寄りに"ぎゅ"っとした力を強めてくれた…。
拒絶じゃない、この強く抱え込まれる感じ…良いな。安心する。…好きかも。
……好き、かも…。