サチ
あれから3日経った土曜日、僕はまさるの浮気相手が気になって、バイトを休んだ。
僕のとんだコソ泥魂は、まだまだ生きていた。
なに食わぬ顔して買い物だなんだと出て行ったまさるを、今はまだ、尾行に成功している。
場所はなんと、横浜。
さっき入った店では、なにやら化粧水のようなものを買っていた。サチへのプレゼントなのか、それか自分用と見せかけてユキか。もしくは自分用か…。
「もうすぐ着くよ!待ってて!」
地下鉄を降りてすぐ電話でそう伝えると、彼は足速にパシフィコの方向に向かっていった。
外に出るなり、スタスタと歩いていくまさる。
ここは人が少なくてだだっ広くて、下手をしたら尾行がバレる。
少し間隔を多くして、尾行を続けると、まさるは階段をくだっていった。その先は、海の見えるデッキ。
階段の上で、まさるが階段を下り終わるのを少し待った。
なんて素敵な場所だろう。僕も彼女が出来た暁には…。
階段の下で手を振る女性がいた。
白い帽子、サングラス、すらっと見える体型。
まさるも手を振っていた。
彼女が、サチ。
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海を眺めながら、何時間しゃべっていただろうか。
それを後ろや横や、至る角度から、ただただ見つめる、惨めな自分。
確認している限り、彼は化粧水を渡したりはしていなかったようだ。
その代わり、なにやら小さい紙袋をサチから渡されていた。
まさるは、遠慮深そうに頭を何度も下げて、それをやめさせるかのように、サチはさっきよりももっと近づいて、肩を抱いた。
座高も身長もおよそ同じくらいだろうが、まさるが猫背なせいか、ちょっとサチの方が大きく見えた。
それでもサチは身体を丸めて、まさるの肩に頭をもたげた。
昼過ぎの1時半から座って、今はもう2時間が経っていた。
なんでそんなに同じところで2時間もいられるんだろう。僕は不思議で仕方なかった。
風の向きが変わって、天気がいいのに少し雨がパラついた時、やっと彼らはその場を立った。
サチは小さい折れ傘を取り出して、2人で仲良く一緒の傘に入り、駅の方に向かっていった。
一方の僕は、フードひとつだった。
改札を超えて、地下鉄に乗ろうとする2人。
僕は足速に改札を目指して、同じ地下鉄に乗れることを祈った。
エスカレーターを静かに、しかしできるだけ速く降って。
「ピポン!チャージしてください」
それは僕のコソ泥魂が打ち砕かれた瞬間だった。
乗車用カードのチャージをしている間に、2人の乗った地下鉄は発車した。
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