まさる
「こんにちはー。わ、思ったより広いんですねー。内見しないで決めちゃったから、汚かったらホントどうしようー!とか思ってたんですけどね。最高ですね。あ、まさるって言います」
明るめの声に、テンションの高さ、相手が男だというのに目を輝かせて両手を使っての握手は、どこぞのアイドルを想起させた。
顔は小顔で、髪は今風、身長はそれほど高くなかったが、男の僕が見てもなかなかのイケメンだった。
「僕は、ゆう…」
「まりかさんから聞いてますよ!ヤマト ユウ先輩!あ、まりかさんって大家さんの下の名前です。実は彼女と親戚なんです」
「あ、へぇ」
「僕ら、悠と優で、ゆうゆうコンビですね!これから、どうぞよろしくお願いします!」
きっと水商売でもやらせたら繁盛間違い無し。来週にはもう同伴者を作りそうな勢いだ。
「それにしても綺麗だ。お掃除、結構してくださったんですか?」
「いや、普通ですよ。いつも通り、そんなには…」
「悠さんきっとマメなんでしょ?僕もお掃除しっかりして、このピカピカ!きっと保ちます。すごいやぁ」
この滑るように出てくる喋り、なんとも真似てみたいものだ。
僕はそう思った。
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夜になると彼は自分の部屋に入り、毎晩必ず電話をしていた。およそ、彼女だろう。
ある日気になって、わざと用事を作ってドアを開けた時は、
「あら、やだ。どなた?もしかして同居されてる、ゆうさん?お世話になってありがとうございます!あの、わたし…」
……母親だったが。
「悠さんすんません。喋り声うるさかったですか?ウチのママ、ギャグが過ぎるんですよー」
「まあ、まさるったら」
お母様は関西系なのだろうか。
「いや。大丈夫。あ、まさるくん。この前買い物のついでに頼んだ、トイレットペーパーって…」
「ああ、しまった。忘れてこの部屋に放置してました。え、まさるさん、まさか、まさか?!」
「いや、事前だよ。まさかの事後とかじゃないから」
「おっとー。まあ事後でも構いませんけどね!僕と先輩の仲ですしー」
「まあ、まさる。失礼なことは言うんじゃありません」
「う、はーい」
まったく、このシェアハウスも途端に明るくなったものだ。
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