静かなアヴァンチュール - 3 -
彼らの関係は、綺麗そのものだった。
こんなに綺麗な恋が存在したら、誰もが憧れるだろうか?
しかしそれは、逆手にとれば歪んだ関係と表現してしまう人もいる、そんな壊れやすく綺麗な関係だった。
美術展を後にした2人は、タワー内のフレンチレストランにいた。
「まさるくん、もっと頼まなくて大丈夫なの?」
「僕少食ですし、量より質派なんですよね。でもサチさん、ちょっとものなかったですかね」
「わたしは幸せ。素敵なとこ、連れてきてくれてありがとう」
親戚にヒルズ族がいるためか、まさるは六本木は詳しかった。デートに使うのは初めてだったが。
ランチでも食後酒を頼んだサチは、まさるにグラスを渡した。
「あと2年したら、ワインで乾杯しようね。今日はひとくちだけ、分けてあげる」
「では、お先に…」
サチが、悪酔いするような日はあるだろうか?
まさるは、ひとくちだけワインを口に含むと、しっかり味わいながらサチにグラスを渡した。
「香りが豊かで、とてもいいワインです」
「あら、もうよくわかってるのね」
酔いだとか、勢いだとか、そういう言葉と遠く離れたところにある空間。
目を瞑らないで、確かに相手を見つめていても、何かが燃え立つのではなく、何かが咲き誇るだけの時間。
偶然でもなく、必然でもない、行き当たりばったりの生き方でも、彼らの意思は通い合っていた。
デザートを食べ終えると、2人は身仕度を始めた。
「お天気良さそうだし、展望台行きます?」
「そうね、行きましょう」
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