五円の依頼
バトル難しい。現在バトル執筆中です。
「正直な、ここまで耐えるとは思わなかった」
最後の毒をクリアすると、ライアーはげらげらと大笑いした。
腹を抱えて笑い、症状が回復している僕を看病しながら、「偉い偉い」と全然褒めてない声色の言葉をかけてくれた。
「流石は道明寺の跡取りだ――実を言うとな、最後の毒は怜と連絡したときに怜から貰った毒でさ。つまり、怜にとっては絶対に来させない為の毒……確実に殺す毒だったんだわ。七色毒っていってな、解毒するには夢のまた夢ってんで、実験なんつーもんじゃねぇ。あれはもうオレからすりゃ、テメェの死体をどうするか考えるほかなかったわけよ。ただ、怜も何か思うとこあるのか、『天女の血が色濃く出てる者には希望がある』って言ってたわけ。そこでオレは閃いたね! 御劔の血清は、普通の人間じゃ死ぬんだが、天女繋がりだったら効くんじゃねぇかって! いやー、やっぱりオレって天才?」
「死ぬの前提なら止めてよ、馬鹿!!」
力一杯拳を握って、ライアーを殴りつける。
ライアーは普段なら文句言いそうだけど、流石に心当たりありすぎたのか、黙って殴られてくれた。
「んでまぁ、怜と御劔と会う約束取り付けてやったぜ。まぁテメェの百万は無駄になんなかったってぇわけだ。キヨシもオレが教えるだろう希望を賭けたんだろうし」
「……でも、このまま御劔さん、僕の村救ってくれるかな。そんな理由ある身分の方だっていうなら……僕の頼み事は、絶対阻止すべきじゃん」
「そこは、もう自分次第だろ。頑張れよ、オレはセッティングしてやるだけだ。それだけでも有難いって思え!」
まぁ確かに――御劔家の事情は分かった。
だけど、どうにも分からない事情がある。
僕も御劔家も、化け物に襲われて、化け物からは特別扱いされてるってことだ。
天女の血を引くだけっていうなら、兄さんへも特別扱いするだろうに、僕だけ特別扱いだった。
――何か、弱点だったりするのかな、化け物にとっての。
体調が完全に回復してから、ライアーは日程調整してくれた。
土地に詳しくない僕を引き連れて、吉原へと足を運ぶ。
遊女や、花魁が手招きする、郭がいっぱい。提灯がたくさん並んで夜店のようだ。
建物が最高でも二階建てなのに、ただ一軒、五階建ての建物に入った。
五階につくと、階層一つで一室のようで。襖で仕切られている以外、部屋は他に見当たらなかった。
広い部屋の中央に、この郁にそぐわない男が二人座っていた。
僧侶のような格好の美青年、その後ろに控える燕尾服のこれまた美青年。
僧侶のような格好のほうは、格好で男なのだと分かった。一見すると女性のようなたおやかさだ。
僕に気づくと、優しくはにかんだ。
「道明寺寿――相違ないな?」
「は、はい、道明寺寿です――御劔様ですね? 兄からこれを託されました……」
僕は、御劔様の後ろに控えている木崎怜だろう人物が静かに睨み付けているのに気づくと、傍に近づく気にはなれなかった。
それでも失礼にならない位置を探して、座った。
羽衣を、取り出して、床にそっと置いた――しかし羽衣はふわりふわりと浮かぶ。
「参ったな。そなたは不用心であるな」
「……何か無礼でもしましたか?」
「いや、己から言うにはいかん。ただ、参るな、と」
優しい声なのに、やんわりと僕がここにいるのを拒否している。
穏やかな虫も殺さない表情の裏には、拒絶が意味されているのが分かる。
僕は、ここで引くわけにはいかないと食い下がる。
「お願いします、何でもします!」
「そのような言葉は無闇矢鱈と使うでないよ。実際、そなたは何でもした。ライアーからの毒を受け、財をなくし、それでも生きている。十分だ」
「貴方が頷かなければ十分じゃないんです!」
僕の言葉に、御劔様は目を丸くしてから、小首かしげた。
「己が頷いたとて何になる? ――ひとつ問うが、御劔家が大変な折、道明寺家は何をしてくれていた?」
「……――何も、何も知りませんでした。木崎家との婚姻も、化け物との取引も……ライアーから聞いて知りました」
「何もされなかったそなたの家に、己が何をできるというのか教えてくれないか」
僕には、何もない。
化け物に対する知識もないし、健康な体くらいしかない。
健康だからって、それでじゃあ何ができるのかって言われたら分からない。
でも、絶対に何か似たような言葉は言われるだろうなって思っていたから、強い意志を込めて、御劔様を見つめる。
「僕も――僕も、剣をとります。僕の村から化け物がいなくなったら、次は貴方の番だ。貴方を江戸から解放する術を探します」
「――ふ、面白い言葉よな。それは、この国に逆らうと言っているのを自覚しとるか? そなたの村を助ける行為に繋がらんぞ?」
「でも仇が討てます……我が家に受けた屈辱を晴らせます……。僕は、兄に託されました。兄の悔しさを晴らしたいんです」
「……復讐を願うのか?」
温和だった瞳が冷徹な光を帯びる――嗚呼、僕はきっと間違えた……。
望む答じゃなかったからか、ライアーはその場に残って、怜さんが僕についてきて帰路を命じられる。
どこへ帰ればいいのか、分からない。
もうあの村は焼き討ちされた、それならどこへ行けっていうんだ!
「さぁ、参りましょう」
怜さんが薄暗い外へ一歩踏み出す。僕は嫌だと、首をふった。
「何が、何が悪いんだ!? 身内を殺されたら、仇を討ちたくなるでしょ!?」
「――寿さん」
「僕にはもう何もない! 家族も、村も、お金も! 見てよ、お金なんて五円しかないんだよ! これだけだよ、他には何も――……」
「その五円で助けてくださる方を見つけてはいかがかと。物好きな人がいる時代ですし」
怜さんは笑顔で爽やかに提案してくるけれど、からかっているんだと分かる。
からかって徹底的に諦めさせようとしている目だ。
僕はその場から逃げ出したくなって、走り出そうとした瞬間、人にぶつかる。
――不思議だ、周囲には誰もいなかったはずなのに。
ぶつかったのは、ミルクティー色の髪色を持つ人だった。
つなぎを着ていて、瞳は人工的な赤。カラコンだとすぐに察した。
ただ、人工的な色なのに、不思議とその瞳を何時間でも見つめ続けていたい感覚に襲われる。
みとれてしまったんだ――。
「――……もしかして、さっきの人、偽物?」
不思議な瞳を見続けているうちに、この瞳は神秘的な物だと気づいた――もし、もしも化け物が惚れ込むほどの人間がいるとしたら、これくらい美しい人ではないかと。
先ほど、置いてきた羽衣を思い出し回収しなくちゃと思いながらも、この人に渡さなきゃとも変な気持ちが同居する。
「貴方が、御劔様――?」
美しい人を前に、僕は、吃驚した――僕の疑問に頷いたからだ。
「御劔! 頷かないで!」
「最初から約束だっただろ、オレを見抜いたら、道明寺家の願いを聞くって」
「だからって! 君が危険な目に遭うのは反対ですよ!」
「じゃあオレが頼むよ。寿の五円で、オレを守ってくれよ。物好きな人」
美しい人の言葉に、怜さんはぎょっとして黙り込んで嘆息をついた――。
御劔様は僕に向き直って、そっと手を両手に握ってくれた。
「復讐したくないっていっていたら嘘だと思って、見捨てた。何より、君はオレのために、世界に逆らっても剣をとってくれると言ってくれた四人目の人だから」
ぽかんとする僕へ、にこっと笑いかけて、本物の御劔様は挨拶してくれた。
「初めまして、御劔です。下の名前は教えられない、事情があって。よく頼ってくれた、道明寺寿。この刀、君のために奮おう」




