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天女の家系



注意書き


*BL予定


*ファンタジー


*守護霊的なもんが出る予定。


*気まぐれ更新。


*本来の主人公は寿ではなく、御劔。

本編の前の番外編のようなものなので、御劔と怜、ライアーと綾が目立つ。

本編じゃないのは何でかというと、本編はもうちょっと残酷になる(主人公の設定的な意味で)

しかし、展開次第で、表記を変えるという何が狙いか分からない行動をするかも。


*当然ながらフィクションだよ!


以上のことで引っかかることのない方のみどうぞ。

 僕の家にはずっと伝わる話がある。

 僕の祖先は、天女様だっていう話。

 川辺で羽衣を無くした天女様を娶ったのがうちの家系だという。

 うちの地元では、天女への信仰心が強くて、僕の家が村長に頼りにされているのも、そのお陰だと兄は言っていた。

 兄はずっと亡くなった母さんの形見である花嫁衣装の着物を、大事にしていて、僕に「これがきっと羽衣なんだよ」って言い続けていた。

 兄は母さんが、天女の生まれ変わりであると信じて、近所にも吹聴していた。

 僕の村は信じ切っていて、何かあると母さんの形見に祈っていた。

 僕は、天女の存在を信じ切っていたんだ。

 母さんはきっと天女だった筈だ――いつしか、僕も兄と同じ思想を持った。

 僕の顔立ちは母さんに似ていて、兄は何かというと亡くなった母さんを自慢する代わりに僕を、「きっと母さんのようになる」と自慢していた。

 僕の家は、道場で、むさくるしい奴らばかり集まっていたから、僕はとりわけ目立った。

 僕は、何もできなかった。勉強は馬鹿だからいつも0点だし、お作法は段取りが覚えられないし、ただの小綺麗な奴とされそうだった――竹刀に出会うまでは。

 僕は武道を習い、道場で一番の使い手だと称された。

 兎に角、覚えて欲しいのは、僕が一番この道場では見込みがあって、親父ですら注目していたってこと。


 その、僕が、だ――。


「どうしたの、寿。とっても哀しそうな顔をしている」

 目の前には、僕より綺麗な顔を持つ代わりに、鎖骨より上の位置に大きな目玉を持つ化け物――。

 真っ白な髪の毛、真っ白な肌、真っ白な髪の毛に着物――目の色だけは金色だった。

 金色の目は、僕の時代では特別だった――お山にある洞窟には、金色の大蛇が住んでいるから近づいてはいけないと言われていた。

 金色の大蛇は、金色の目で不吉を呼び込むからって。

「んー、心当たりは山ほどあるなぁ。君の道場の門下生全員を再起不能にしたから? 君の家族を殺しまくった恨みもあるね? 君を守ろうとしたお兄さんも、潰してやった。何より君の村は、炎に包まれている。どれも俺様にはめでたいことだけど、君には恨みたい程哀しい出来事だらけだなァ」

 ――こんな、こんな優男に村は……。

 いや、優男だけじゃない。優男の背後には、魑魅魍魎がいた。

 どいつもこいつも化け物で、僕が背中に隠している瀕死の兄の命を狙っている。

 化け物達は「天女」を探していた、「天女」の噂をしているのが判った。だから僕には一切怪我をさせようとしないのだろうと、察知できた。

「ねェ、恨むなら自分じゃなくて、君の家系を恨めばいいよ。力の足りない自分が悪いんじゃない、天女が祖先にいる君の家系が悪いんだって。そうすれば、とっても楽だぜ?」

「血は宝だ――我が家系に恥じ入る必要のある者なんてない!」

「――……気高いね。天女の血を持つ武士の家系……で、気高い剣士ときた。俺様は、君のことは嫌いじゃないぜ? それならいっそ、あの羽衣を着て、君が嫁入りしてこい」

 目玉を一つ多く頸に持つ白い化け物が、僕に触れようとした瞬間、僕は引っ張られて兄の腕の中にいた。

 兄は、僕を囲いながら、化け物に背中を見せていて、僕をぎゅっと抱きしめた。

「……力が敵わないなら、命を賭けても守るってことかい?」

「どのように受け止められても構わん。こいつさえ無事なら――」

「――いいね、気高いのは君もだね。だけど、寿みたいに美しくはないから、君はいなくてもいいや、死ねよ不細工!」

 白い化け物はそうして僕の兄に剣の切っ先を突き立てようとして――その一瞬で、兄は僕に遺言を残した。

「御劔の家に、花嫁衣装を持って行け」

 兄は、地下通路へと繋がる、昔から何かあったら避難経路とされていた落とし穴への通路へのスイッチを袖口に隠したまま押した。

 僕は落とし穴へ、兄の悲鳴を耳にしながら落ちていった。

「兄さん!」


 落ちた先で体を打ち、ぼんやりしていると、村を焼かれた悲しみや怒りが沸いてくる。

 でも、何もできなかった自分が――誰よりもあの村で強い僕が、怯えて何もできなかったのが悔しい。

 悔しさにいつまでも震えそうになっていた――だが、避難経路を歩いて、村を出て行かねば僕の命も狙われる。

 兄の声は、託す声だった。

 きっと、きっと御劔という家がどうにかしてくれると――。

「……母さんの着物……」

 どうしよう、着物は家の方に――と悩んでいると、目が暗さに慣れていき目の前に箱があるのが判る。

 古い古い木箱だ。

 そっと開けると、中には――羽衣が入っていた。

 羽根のように軽くて、それはとても美しい、桜の花びらと朝の空色をかき集めたような生地の布を、手にした。

 そうか、天女にとって花嫁衣装は、羽衣だ――。


 僕は――僕は、箱底に書いてある住所を頼りに、御劔の家を目指した。



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