表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の魔法使いの愛弟子  作者: 緑青海雫
第2章 ある少年と猫の話し
22/23

ある少年と猫の話 エピローグ

ディオティマ視点のエピローグです!

 

 ふと、意識の浮上を感じた。

 ゆらゆらと揺れる振動は心地好く。

 抱きかかえられている人肌の暖かさに、そっと溜め息をつく。

 我輩は、うっとりとした。

 優しいハーブとお日様の香り。

 お嬢様の体臭と混ざって、本当に柔らかく甘やかで。

 思わず、ばれないように小さくすり寄る。


 まるで何処ぞの子猫のようで、良い年をした成獣おとなの我輩らしくもないが、この暖かな誘惑には抗えなかった。


 うっすらと目を開ければ、美少女の儚い輪郭が見えた。

 真っ白く透き通りそうな肌。

 頬は薔薇色で、砕いた薔薇の花の結晶を筆で掃いたようにうっすらと色づいている。

 うなじを隠した柔らかそうな黒髪が、風に遊ばれてふわふわと揺れている。

 美少女が我輩を抱く腕に少し力を入れた。

 パッと目を閉じると、お嬢様が着地したようで小さな振動が伝わった。


「はぁ……、師匠に何て言えば……。」


 低くも高くもなく、聞き取りやすい音程の優しい声が我輩の頭上から降ってきた。


 どうやら、空中で拾った我輩の処遇を案じているようだった。

 大丈夫です、お嬢様っ!!

 我輩、なにがなんでも貴女様にお仕えする所存でありますっ!!


 ぐっ! と、腕を立てて拳を握りたかったが、我輩はまだ寝たふりを続けた。


 ……なんてったって、お嬢様の腕の中、心地が好いのだもの!


 お嬢様の腕のなか、誠に至福・最高・極楽浄土っ!

 誇り高き我輩ども星猫は、主にしか抱っこはねだらないのである!

 いま、この栄えある瞬間、存分に甘えるのだっ!!


 ゴロゴロと鳴りそうになる喉をグッと我慢し、我輩は脱力した。


 そしてまた、そっと目を開ける。



 真っ白な壁造りの家。

 壁は夕陽に染まって、赤くなっていた。

 既に夜が忍び寄って来ているのか、影になっているところは本当に暗い。

 それだからか、オレンジ色のランプが玄関先を照しているのが、何とも言えない安堵感を誘う。


 家の周囲に所狭しと薔薇シュラブローズやハーブ、クラブアップルの若木や真っ赤に染まった楓や紅葉が植わり、デイジーや風鈴草カンパニュラにポピーなど、様々な花たちが色とりどりに咲いている。


 木と白い煉瓦で出来た家は、暖かな雰囲気を内包するように佇んでいた。


 玄関前の白い石階段には、クローバーや苔がそれぞれの階段の片隅に弁えたように棲みかを構えているからか、雑草特有の野暮ったさは感じない。


 一言で言えば、全体的にとても素敵なお宅なのだ。


 我輩の帰る場所になるのかもしれないと思うと、人の気配のある家の暖かさに目頭がじんわりと熱くなる……。

 我輩の胸は、期待と希望に膨らむばかりである。

 緑色に塗られた玄関ドアのドアノブへ、美少女が手を伸ばした。



 キィ……パタン



「師匠……、只今、帰りました。」


 お嬢様の胸も我輩の鼓動もドキドキと音をたてながら、するりと静かに家の中へ滑り込んだ。


「あっ、チャロ君!お帰りなさい。

 ご苦労様でした〜。」


 窓際から低くて静かな声が聞こえてきた。

 薄目でそちらを見ると、ギョッとするほど美しい青年が座っていた。

 ニコッと、微笑む姿に尻尾の毛がぶわりと逆立った!


 この青年が恐ろしいほどの実力者だと、頭の中で警告音が鳴り響いている。


 コノヒトニ 逆ラッテハ イケナイッ!


 我輩は、本能に従って目をつむったのだった。

 するとお嬢様が脇の下から持ち上げて前へとつきだしました。


「師匠……、あ、あの……実は、えっと……ね、猫を拾いました……っ!」


 あ、この方は、お師匠殿なのですか。

 気絶したふりのため、力なく口を半開きにする。

 ぶらぶらと力無く、我輩の尻尾が振り子のように揺れた。少しだけ出した舌が渇いてくるのが、ちょっと苦痛だった。


「………猫?」

「……猫、です……。」


 ちょっと驚いた顔をして、お嬢様の顔と我輩へと視線を行ったり来たりしている。

 しかし、うっかり薄目の我輩と目が合ってしまい……すぅ……と、その視線が冷たくなった。


 …………これは、ヤバイかもしれん。


「……これは……。……チャロ君……。

 この子は、何処で拾ったのかな?」


「……えっと……く、空中で、拾いました。」


「……え? 」


「うぅ~……、か、帰り道に箒で飛んでたら、上から降って来て…悲鳴をあげて助けを求めていたので、その……」


「……空から、落ちて・・・来たの?」


 お師匠殿の麗しいかんばせが、徐々に険しくひんやりと冷たくなる。


「……はい、落ちて来ました。」


 ジッと、お師匠殿が我輩を睨みつけている。

 思ったより、かなり恐い。 めちゃくちゃこわい。

 き、気絶したふりを何時解けばいいのか悩む。

 肉球から、冷や汗が出てきそうだ……。


「師匠……、その……勝手な事して、ごめんなさい……」


 お嬢様のお声が涙にぬれて、お鼻がぐずぐず言い出すのが後ろから聞こえた。


 それを受けて、我輩の心臓が嫌な音を立て始めるのと同時に、お師匠殿があわあわと慌て始めた。

 す、すこぶる慰めたいのです!


「あわわっ!泣かないで、チャロ君!

 ち、違うよっ!

 チャロ君に怒っているワケじゃないからね!

 お、落ち着いてぇっ!!」


「ぐすん……ぐすっ……、ぼくの事、怒ってないなら……師匠は、なぜそんなに、険しいお顔をされてたんですか?」


「……はぁ~、……チャロ君、此処が天空に浮かぶ島だという事は、分かっているよね?」


 お嬢様が、頷いたのを振動で感じた。


「島の空には、侵入者妨害の為の結界が張ってあるのは、以前に教えたね?」


「はい、師匠。

 "学問や技術、人材が最高峰である天空の城は、世界の中の憧れであり……行えていない"……でしたよね?」


 さすが、我輩のお嬢様! なんという聡明さ!!

 スラスラと諳んじる声の美しいこと!!

 お師匠殿は、満足げにニッコリと微笑んだ。


「そう。でも、この猫は"不可侵の空から降ってきた・・・・・・・・"。

 つまり、これが何を意味するところか分かるね?チャロ君。」


 ハッとして、お嬢様が我輩の背中を凝視しているのがわかる。

 そうです、ぐったりと力無く気絶している我輩は、お師匠殿が言うとおり不審猫なのであります。

 さすが、我輩のお嬢様のお師匠殿です!

 万能結界の張ってあったはずの空から落ちてきた異物。

 持ち物は、何もないですしね。

 妖精属ですからね、我輩たち星猫は亜空間倉庫を持っているのですよ。

 お嬢様が、ごくりと息をのんだのが聞こえる。

 いやはや、大変申し訳ない。

 説明したいのですが、いかんせん、タイミングが掴めないのでございますよ……お嬢様。


「チャロくん、取り敢えずその不審猫さんを起こして事情を聞いてみようか~?」


 我輩は、お嬢様に気を取られていて、うっかりお師匠殿から意識をそらしていた。



 ぐにぃ~……



 いたいっ、いたい、いたいっ!!

 お、お止め下されっ! あっ、ちょっ!?


「し、師匠……! その起こし方は、なんというか、理不尽な気もしなくもないのですが……」


 お師匠殿は寒気のする微笑みでニコニコしながら、我輩の頬を左右に伸ばす。

 いや、わりとマジでほっぺが痛いのでありまする。


「大丈夫、大丈夫~! 猫~、起きろ猫~!

 起きなきゃその髭、ちょんぎるぞ~!」


 あはは~、とにこやかに笑うお師匠殿に、我輩の全身の毛が逆立った。


「師匠、それは、可哀想です……」


「大丈夫、大丈夫~!

 ほら猫~、切っちゃうぞ~?」


 パッと我輩の頬から手を離すと、何処からともなく出したハサミを構えて、シャキンッシャキンッと打ち鳴らす!


 ………ぅ、ひいぃぃぃぃぃぃっ!!?



「にゃ、にゃにゃにゃっ!?

 すこぶる悪寒が走ったにゃっ!?

 にゃんだっ!?」


「なんだ~……、起きちゃったのかぁ~……。」


 お師匠殿が、心底ガッカリした声を出す。

 これは、わりとマジですね!!

 わ、我輩、ホントにヤバかったな!!

 気絶してたのがバレバレでありましたか、そうでしたか!!

 だがしかし、気絶していたということにして演技させて頂きます!!


「こ、ここはどこにゃ!?

  ま、まさかっ、我輩は、死んだにょかっ!?」


「い、いえっ! 死んでなんかいませんよっ!」


 バタバタと、手足を振るとお嬢様がそっと力を緩めて離してくださいました。

 床に着地すると、ブルブルと体を揺すって体毛を震わせる。おもむろに、顔を前足で擦ったり毛繕いしたりと、気持ちを落ち着ける。


「いやはや、恐ろしい目にあったにゃ!

 どうやら、貴女(あにゃた)に助けて頂いたようで……。」


 そう言いながら、背中を反らせてグッと背伸びをすると、我輩は改めてお嬢様に視線を移した。

 バッと毛が逆立ち、体が膨らんだ。


 ヤハリ コノ方 ニ

 オ仕エスルタメ 産マレテキタノダ!

 ナントイウ 美シサッ!!


 またもや、ビシビシと電撃のような衝撃が全身を駆け巡る。

 我輩は、確信した。なんとしてでもお仕えして見せるっ!!


「こ、これは麗しいお姫様っ!?

 いや、まさか彼の物語の漆黒の天使かにゃっ!?

 おぉ……、にゃんたる眼福! 」


 キラキラと目を輝かせる我輩に、お嬢様は苦笑いした。


「……ぼくは、男です……。」


「………っ!!??」


 はにゃっっっ!!??

 いや、しかし我輩の獣の鼻のセンサーは、間違いなく『女性』と判断している!

 せ、性に疎い方なのかにゃ?

 そっと、お師匠殿に視線を逸らせば、小さく首を横に振る。

 はぇ!? そ、それはどっちの首振りでありましょうか…?


「にゃ、にゃんとっ!? ……はっ!? 」


 あっ、なるほど!! わかったのであります!!


「やはり漆黒の天使かにゃっ!?

 天使には、性別は(にゃ)いと聞く……っ!

 いやしかし、失礼を致しました……。

 我輩を助けて頂いたようで、誠に感謝しております。

 この恩は、必ず身をもってお返し申し上げるにゃ!」


 人間族であろうと天使族であろうと、亜人族であろうと!!

 我輩はこの身を持って、一生お仕え致しまする!!

 我輩は、鼻息荒くお嬢様を見上げた。


「……はぁ……、別にお気になさらず。」


 ぶにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?

 そう言わずっ、お断りにならないでっ!!


「いえっ!!

 我輩は、騎士の系譜たる由緒正しき星猫ほしねこっ!!

 礼儀忠節、折り目正しく生きるべしが信条にゃ!!」


「……"星猫"!? 君は、"チシャ猫"の一族か!」


 ハッとして、お師匠殿がポーンと手を打った。

 我輩は、エッヘンともふもふの胸を張った。


「師匠、"星猫"と"チシャ猫"とはなんでしょう?

 不審猫では無いのですか?」


「あれ? チャロ君は、猫獣人の一族にあったことがなかったっけ? たしか"チシャねk"……」


「にゃにゃっ!? にゃんとっ!?

 我輩の一族をご存知にゃいとは、残念至極っ!!」


 わ、我輩をっ、我輩の一族をご存じないとは、大変に残念であります!

 我輩は細くてたおやかな足に縋りついた。

 どさくさ紛れというやつですが、役得であります!

 うっかりお師匠殿の言葉とかぶってしまった!

 だがしかし気にせんわぁっ!!


「我輩たち一族は、"智者猫(チシャねこ)"という種族にゃのです。決して、其処らにいる猫とは全く進化の仮定が違うにょです!!

 この世界に居る"智者猫一族"とは、基本的に二足歩行。

 また知能指数も高く、にゃかには荒事に精通している者もおりますにゃ。そして星ねk…」


 喋っている途中、空気が凍った気がして瞬時に口を閉じる。

 刹那……我輩の首が強引に捕まれて、そのまま持ち上げた。

 お師匠殿の氷の様に冷ややかな瞳に、『さぁー…』と血の気が引く。


 こ、これは、調子にのってしまったようだ。


「…馴れ馴れしく、チャロ君に触らないで。」


 絶対零度のお言葉に、我輩の全身の毛が反応する。


「ひっ! か、畏まりましたっ!!

 御無礼を御許しくださいぃぃぃぃっ!!」


「……次に許可なく触ったら、楽器の皮にしてやる……」


「ぅひいぃぃぃぃぃっ!! お、御許しをぉぉぉ!」


 お師匠殿が手を離すと、即座に我輩は床に這いつくばり、挺身抵当、土下座して謝った。


「……師匠、あんまり苛めないで……?」


 お嬢様の麗しい言葉が耳にするりと入り込む。

 お、お嬢様っ!!

 わが、我輩をかばって下さってる!

 なんというお優しい方なのだ!!

 我輩は、プルプルと震えた。

 ちらりと顔を上げると、お師匠殿とまた目が合ってしまい、思わず体がビクリと震えてしまった。

 ……この方は、我輩のにゃん生で2番目に恐い方として認定させて頂きたいと思う……。


「……猫くん、続きを丁寧に説明してくれるかな?」


「……っ!? は、はぃにゃあぁぁっ! 説明しますにゃっ!」


 一瞬、考えていたことが読まれたかと思い、体が跳ね上がった。

 我輩の持ちうる速さで立ち上がり『 ビシッ! 』 と敬礼すると、我輩はお嬢様に膝まづいた。


「猫型獣人と呼ばれる二足歩行の我ら"智者猫一族"。

 その大部分は…………。」


 我輩は、丁寧に説明をした。

 お嬢様もお師匠殿も静かに我輩の話に耳を傾けて下さった。

 飛竜殿の事故は、同情のまなざしを交えて聞いてくださった。

 そして、我輩は力を振り絞って我輩の願望をぶちまける。

 ……少しだけ、足が震えた。


「にゃので、貴女には本当に感謝しても足りないくらいにゃのです!

 本当に本当にっ! 助けてくださってありがとうございました!

 お礼に、しばらくの間、貴女あにゃた様にお仕えさせて頂けないでしょうか!!」


「えっ!?」


 お嬢様はびっくりして、チラリとお師匠殿を仰ぎ見た。

 我輩も窺うように、すがるようにお師匠殿を見やる。

 たぶん、かなり情けない表情をしているとおもう。


「んん~……、いいよ?」


「「ええっ!?」」


 あっさりと許可を出すお師匠殿に、我輩とお嬢様は驚きの声をあげた。


「チャロ君に、常々、使い魔ファミリアが欲しいなぁ~と思ってたんだよね~。

 しばらくは、代用ということで、猫くん。

 仮召し使いファムルスとして、チャロ君を頼んだよ~?」


「えっ!? ……なんとも豪華な代用ですね……。」


 その言葉に、全身を駆け巡るのは歓喜の渦っ!!

 我輩は、はしたなくもぴょんぴょんと跳ね上がって喜んでしまった。


「う、嬉しいですにゃっ!!

 仮とはいえ、頑張って力の限りお使い致しますにゃ!

 こんなにも麗しい姫君にお使い出来るとは騎士の誉れ! 騎士冥利につきますにゃっ!!

 どうぞ、宜しくお願い致しますにゃぁぁぁ~!」


 再度お嬢様の前で、正式に片膝を付いて忠節を誓う形を取る。

 お嬢様を見つめれば、苦笑しながら訂正の言葉を口にされた。


「だから、ぼくは男です……。

 はぁ~、もぉ……まぁ、師匠が良いというなら……」


 と、右手を我輩に出した。


「宜しくお願いします、猫くん。

 ぼくは、シャロン。師匠たちは、チャロと呼びます。

 魔法使いの弟子です。」


「なんとっ! 魔法使いのお弟子様とは、賢そうなお顔立ちな訳ですにゃ!

 あっと、申し遅れましてそうろう!

 我輩は、ディオ。

 ディオティマ・スティフェルと申します。

 誇り高き星猫一族が筆頭、長靴家スティフェルの直系がひとりであります。

 どうぞ、良しなに! 」


 主と仰ぐ方に名乗りを上げれる誇らしさに、我輩は胸を張った。

 そっと、お嬢様の手に右脚を差し出して握手を返す。

 感動に目が潤む。

 暖かく嫋やかな手が、我輩の前脚を包んでくださった。

 これが我輩の主の御手みてなのだ。

 我輩は、"今度こそ” 『 あるじ 』 の小さな手を護って見せると心に誓った。

 首にしているリィルステラ坊ちゃまの石が、ほんのりと暖かくなったような気がした。


『……ディー、見つかって良かったね。

 ホントに良かったね、ディー……』


 耳の奥で、坊ちゃまがクスクスと微笑む声が聞こえた。


 はい、坊ちゃま……。

 ディオティマは……。

 やっと、帰れる場所が見つかったようです……。





 **********




 パチッと、暖炉の火が爆ぜて、我輩は微睡から目が覚めた。


「……でねっ、チャロ!

 その時に、ディーが剣を振り上げて旅人を庇ったんだよ!魔物の鋭い爪をはじいてっ、返す刀でやっつけてしまったの!

 もうっ、ぼくったら、ドキドキしちゃって! 」


「はわぁ~! ディオティマ殿って勇敢なんだね! かっこいいなぁ~!

 あ、リィル。 そこはもう少し荒めに縫ってみて。」


「えっと、……こうかな?」


「うん、上手だね。 そうそう、いいよ。そしたら今度はこの布で。」


「はぁーい。 うふふ、楽しいね、チャロ! 」


「ふふふ、そうだね、リィル。 出来上がりが楽しみだね! 」


「うんっ!」


 我輩は、まだ幸せな夢の中にでもいるような気分だった。

 いや……、これはまさに『 夢 』に見ていた光景だった。


 我輩はいま、暖かな暖炉の前、ふわふわとした重厚な絨毯の上で丸くなって寝ている。



【 ……暖かな深い橙色の灯りが灯る玄関先。

 夕食ゆうげの美味しそうな香りと、暖炉の優しい香りが漂う窓辺。

 楽しげな家族の団欒の声が家中に広がり…。

 食後には、暖炉の前の絨毯に家族みんなで座って、お茶や珈琲を嗜みながら今日の出来事を報告し会う。

 眠りの精が訪れる頃、欠伸の後に頬に甘やかなキスを落としあって床につく。

 ブランケットなどの寝具から漂う、ラベンダーとお日様の香りに満足して、幸福な一日を終える……。 】


 何度も何度も、過酷な旅先で夢を見ていた光景が、そこに広がっていた。


 揺り椅子に腰かけるお師匠殿は、分厚い魔導書を読まれながら、椅子のそばの小さなテーブルに置いてある珈琲に手を伸ばしている。

 チャロお嬢様とリィルステラ坊ちゃまは暖炉の前の絨毯に仲良く座りながら、坊ちゃまのブランケットのパッチワークを一緒に縫っている。

 まるで姉弟のような癒される風景に、我輩の心に充足感と幸福感が広がって沁みわたる。

 あまりの幸福感に目頭が熱くなり、視界が潤んだ。

 ふあぁ~……と、坊ちゃまが欠伸をすれば、チャロお嬢様が坊ちゃまの頭をそっと撫でた。


「リィル、眠たいの? もぉ、眠る? 」


「うぅ~ん、まだ起きてたいのに眠たぁ~いぃ……。」


「クスクス、リィルくんもチャロくんも、明日もあるんだから、そろそろ寝なさい。」


「「 はぁ~い。 」」


 お師匠殿の優しい声に、二人は素直に返事を返した。

 さて、我輩も起きなければ……。


「ディーは、もう熟睡だね~。」


「あれ? ふふふ、ホントだね~。」


「そうですね、疲れちゃったのかな? 」


「ふふ、可愛いね~! 起こすの可哀想だね。」


「じゃあ、ぼくが運ぶよ。」


 そっと、体の下にお嬢様の腕が差し込まれて、我輩の体がふわりと浮き上がるのを感じた。

 暖かい腕に抱きかかえられて、さらに幸福感に包まれる。


「では師匠、ぼくたち寝ますね。」


「うん、おやすみ。」


「「 おやすみなさ~い! 」」


 ゆらゆら揺れる、優しい腕の中。

 ふわふわ香る、甘くて柔らかいご主人様の匂い。

 じんわりと暖かな暖炉の火のぬくもりの残滓。

 安堵感が漂う寝具の太陽の香りと心地の良い柔らかさ。


 これが、我輩の帰れた場所。


 ここが、我輩の帰る場所。



「じゃあ、また明日。 おやすみ、ディー。」


 チュッと、頬に坊ちゃまがキスを落としてくれる。


「ディオティマ殿、おやすみなさい。 いい夢を。」


 ちゅっと、おでこにお嬢様がキスを落としてくれた。


 瞑る瞼の裏で、じんわりと涙が溢れている。

 あぁ、なんたる幸福。なんという幸せ………。

  キィ………と、ドアが閉まる音が聞こえた。

 我輩は微睡みの中、眠くて……口が重たくて、上手く開けなかった。


 だから、心の中で。





 おやすみなさい。


 どうか、みなさまに……。


 我輩の家族に、幸せな良い夢を……。



















【 ある少年と猫の話の章 完 】







うはぁぁ~!

長かったぁっ!!

これで、主要人物たちがほぼ出たので、まったりのほのぼのターンに入れます!


では、ここまで読んでくださりありがとうございましたっ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ