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白銀の魔法使いの愛弟子  作者: 緑青海雫
第1章 ある少年と薔薇の話し
2/23

ある朝の風景。

連続投稿です〜

主人公チャロ君、初登場で〜す。


 

 目が醒めると、朝陽が眩しくて、少年はぎゅっと目を瞑った。



 強烈な光に少し慣れてくると、何度も瞬いて、朝陽を受け入れる。


 ベットの上で、ゆっくりと身体を伸ばすと起き上がり、朝の支度を始める。

 机の上に畳んで置いておいたリネンの白いシャツと藍染の綿のズボンを着る。

 袖に腕を通せば、石鹸と太陽の清潔な香りに、思わず口元が緩んでしまった。


 顔を整えるため、洗面所に向う。

 鏡の前に立つと、自分が写り込んでいた。


 柔らかい黒髪はボサボサで、毛質が細すぎるため、あっちへこっちへと好き勝手に伸びている。


 いわゆる猫っ毛というやつだ。

 手に水を付けて、簡単に手櫛で整えると、寝癖と癖っ毛が良い感じに混ざる。


 顔を洗い、鏡で目ヤニが付いて無いか確認する。

 紫色の大きな瞳が、鏡の中からこちらを見つめているのを確認すると、ニッコリと笑う。


「よしっ! 今日も頑張るぞ!」


 自分に言い聞かせるように小さく呟くと、次に台所へ立つ。


 簡単に、サラダと野菜スープを作り火を止め、カウンターの上に置いてあった籠を持って、中にお財布とお金の数を数えると、家を飛び出した。






 天空に浮かぶ島、太陽の翼国。




 巨大な白いお城の城下に栄える町は、今日も陽の光を浴びて活気付き、とても美しかった。





 少年の住む小さな家は、木や草が生い茂る小高い丘の上にあった。


 丘の上から石壁の間に造られた白い石階段を下り、蔦や木と白い石壁の境界線が曖昧な家々が建ち並ぶ間の細い裏道を抜け、商店街に躍り出る。


 大きくて、四角く加工された白い石を積み重ねて造られた、白い石壁。


 その石壁の上に、猫たちが気持ち良さげに丸まって寝ている。


 チャロが通ると、決まって何匹かが挨拶をしてくれた。


 商店街に軒を連ねる家々は、思い思いの花や草をベランダや窓辺、玄関先や家の前の道に飾り家の個性を引き立てている。


 花や草の爽やかな甘い香り。


 焼いたベーコンや卵の香ばしい香り。


 そして、色んな果物の爽やかな香りと、パンの焼ける甘い匂い。

 家々から立ち昇る、朝食を作るための甘い薪の香りと珈琲や紅茶の香りに、嬉しくなる。


 少年は、パン屋の扉を開けると、レジスターの前に居る、恰幅の良い女性に声をかけた。


「エイラさん、おはようございます。」


「はい、おはようさん! 今日も可愛いわね、チャロ!」


 少年、チャロは顔を顰め、肩を落とした。


「エイラさん…ぼくは男だよ…。 可愛いは誉め言葉にならないよ…。」


 ニヤリと、エイラは人の悪そうな顔をした。


「あら、事実でしょうに。 チャロはそこら辺の美姫なんかに負けない程、美形じゃないかい。」


「うえぇ〜…だから、なんで女の子と比較されるのさ…それもお姫様って。」


 むっつりと不貞腐れながら、クロワッサンを4つと食パンを一斤籠にいれ、レジスターの横に置く。


「あっはっは! ごめん、ごめん!ほらほら、可愛い顔が台無しだよ!

 このジャムをひとつおまけするから、早く帰ってあの唐変木に食べさせてやんな!」


「えっ! うわぁ〜っ!

 エイラさんの特製ジャム、いいんですか!?

 ぼく、大好きなんです。

 ありがとうございます!」


 ニッコリと笑うとエイラが、暖かな眼差しをチャロに向けた。

 ニコニコと笑うチャロは、照れながらも真っ直ぐエイラを見つめていた。


 フワフワと柔らかい猫っ毛の黒髪は、肩の上で切り揃えてあり、艶艶としていて天辺に天使の輪が出来ている。

 くりくりと大きくて形の良い透き通るような紫の瞳は、大粒のアメジストの宝石の様で、見たものに神秘的な印象を与える。

 鼻筋はスッと通り形も良く、肌は白くて肌理が細かい。

 サクランボの様な赤みの強い唇は、瑞々しくて、何処からどう見ても人形の様に容姿の整った見目麗しい美少女であった。



 エイラは、チャロを保護している例の唐変木を思い出した。


 全くの生活力がないあの男は、見た目だけは絶世の美男子だ。

 チャロへの溺愛ぶりに、呆れながらも良い傾向だと呟いて笑っていたのは、この商店街に軒を連ねる商売人達のうち、誰だったか?


「ほらほら、早くお行き。チャロ。」


 エイラは、よりいっそう笑みを深めて、チャロを急かした。


「あっ、はい!

 また宜しくお願いします!」


 チャロは急いでお金を渡すと、お釣りをもらってパン屋を後にした。


「あぃよ! またご贔屓に〜!」


 威勢の良い声に、振り返ってニッコリ笑うとチャロは早足で来た道を戻った。






 家に着くと、籠からクロワッサンを取り出し、石窯の中にいれ軽く温め直す。


 その間に、珈琲豆を挽く。


 挽いた粉を、ポットの上に用意していたフィルターに入れ、沸騰したてのお湯を上から回しつつかける。

 ふんわりと漂う香ばしい香りに、小さな幸せを噛み締める。


 温め直したスープと氷室に入れておいたサラダをテーブルに用意し、石窯からクロワッサンを取り出しパン用のバスケットに並べる。


 マグカップに珈琲を注ぐ。


 それから、2つの大きなお皿をランチョンマットの真ん中にそれぞれ置き、スプーンとフォークを配ってお膳立ての準備完了。


 自分と師匠の分を四角いテーブルの90度向かい合わせに準備し終わると、チャロは素早く、師匠の部屋に向かった。





 コン、コン、コンッ



 いつもと変わらず、木の扉を叩くが返事はない。


「師匠、入りますよ〜?」


 声をかけつつ、ゆっくりとドアノブを下げドアを開けるが、返事はやはり無く、ドアの隙間から広がる部屋の景色はいつも通り、本やら書類やらで散らかっていた。


 部屋は、手前が書斎で奥が寝室となっていた。


 チャロは、器用に散乱した本やら書類やらの間を縫って進み、開け放しの寝室ドアの前に立ち、もう一度、ノックした。


 服やら小物やら何やらで散らかっている部屋のベットの上に、その人はいた。


 ふぅ…と小さく溜息をついて、チャロは毛布に包まって何処が頭だかわからない師匠の身体を優しく揺すった。


「師匠、師匠。おはようございます。

 朝ご飯の用意が出来ましたよ。

 そろそろ、起きて下さい。」


「う〜ん…、あと少し…。」


 モソモソと毛布から頭を出すと、掠れた低い美声が聞こえてきた。

 毛布から銀髪が、サラサラと音を立てて零れ落ちた。

 いつもと変わり無い師匠の姿に、クスクス笑いながら、またゆっくりと身体を揺する。


「師匠、師匠。

 早く起きないと、せっかくの焼き立てのパンと出来立てのスープと珈琲が冷めてしまいますよ?

 それに、今日は薔薇の谷へ行かれるのでしょう?」


「あ…。そうだった。」


 毛布からゴソゴソと顔を出すと、寝惚けた顔をした男が、蕩けるような表情でニッコリと微笑んだ。

 チャロもニッコリと笑うと、男が手を伸ばして来て頭を撫で回した。


「おはよう〜。

 さすが、僕のチャロ君!

 さぁ、今日も忙しくなるね。」

「はいっ!

 では、ぼくは先にテーブルに着いてますから、師匠はゆっくりといらしてくださいね。」

「うん、分かった。ありがとう。」


 チャロは部屋から出ると台所へ向かい、ベーコンを焼き始めた。

 二人分のベーコンをカリカリに焼き上げ、皿に盛ると丁度良く、師匠が台所にある四人掛けの食卓へと着いた。


「あぁ〜…、すっごく良い匂い〜!

 もうっ、本当にチャロ君が、お嫁に来てくれて幸せだよ〜!」


 クスッと、チャロは苦笑いを浮かべる。


「クラトス様、何度も言いますがぼくは男ですから。それに弟子ですよ。」

「ふふふ、そうだね。

 あぁ、でもチャロ君の場合、弟子でもお嫁さんでもあんまり変わんないよ〜。

 なんて言ったって、僕のチャロ君は史上最強に可愛いからね!」

「う、… し、師匠… 」


 ぶわっと、頬に熱が上がり、照れながらチャロは俯いた。


 チャロが、嬉しさと恥ずかしさに、もじもじと体を揺らしているのは、いつもの光景であった。


 興奮しながら、愛弟子をベタ褒めする師匠は、本日も絶好調であった。


 そう。彼は、大変残念な美形である。


 クラトスは、三度の飯より可愛いモノが大好きと言う、やや危険な香りのする性癖を持っていた。

 実は、先程の寝室にも大きなクマのぬいぐるみやら兎やら猫やらと小さなぬいぐるみがゴロゴロと彼方此方に飾ってあった。




 チャロは捨て子であった。



 数ヶ月前、ボロ雑巾の様な姿でチャロは河原に落ちていた。

12歳くらいの発展途上であっただろう体は、ガリガリに痩せていて、文字通り傷だらけ骨折だらけで、生きているのが不思議なくらいボロボロであった。

 死の淵を彷徨っていたチャロを、偶然、クラトスが拾い保護したのだった。


 クラトスにより手厚い看護を受けたが、内臓にまで達した傷は深く、やっと意識が戻り喋れるようになった時には、其れ迄の己のみの記憶が全く無くなっていた。


 途方に暮れたチャロだったが、美少女な容姿のチャロに、すっかりベタ惚れしてしまったクラトスからの熱望により、記憶が戻り落ち着くまでクラトスの家に留まることになった。


 ただ飯食いは嫌だと、勝手に家事を担い始めたが、とある出来事の諸事情により魔法使いのクラトスの弟子という形に納まった。


 ちなみに、チャロもなんだかんだと言って師匠大好き、…師匠史上主義に染まりつつあった。




 フライパンを片付けながら、こっそり見た師匠の相変わらずの美しさに、チャロは思わず、見惚れてしまった。


 席に着いて揃って挨拶しご飯を食べ始めたが、チャロはこっそり師匠を眺る。


 プラチナブロンドに輝く、サラサラとした癖のない髪は、簡単に纏められて、左の耳の下あたりでリボンで一つに結っている。

 切れ長の目は灰色がかった青色で、いつもキラキラと輝いている。

 薄い唇は桜色で、顔の造形が全体的に儚さを漂わせている。

 一見、儚げな美女の様だが、背が高く細身ながらガッシリとした体格は、やはり男性のそれであった。


 しかしながら、まるで名のある彫刻家が氷で作った像の如く、儚げで美しい師匠の姿に、毎朝の様に口をモグモグさせながらチャロは見惚れるのであった。



「チャロ君?」


「は、はい!」


 突然の呼び掛けに、盗み見がばれたのかと驚いて背筋を正す。

ふにゃっと、クラトスが相好を崩して微笑む。


「今日の依頼の事なんだけど、君も一緒に付いておいで。」


「……えっ…!? は、はい!

 …い、良いのですか…?」


「うん、今日行くところでね、君の力が必要になるからね。それに、今後の良い経験になると思うよ。」


 そう言って微笑む師匠の美しい面差しに、ボーッと見惚れながら、大きく頷いた。


「うん、それじゃあ、僕が片付けておくから支度しておいで。」


クラトスは立ち上がると、空になった皿を纏めはじめた。

 ハッとして、チャロは首を横に振る。


「だ、大丈夫です! 片付けなら直ぐ終わりますから、ぼくがやります!

 あっ、師匠は食後の珈琲を召し上がってお待ちください!」

「えっ、でも…」

「お構い無くーっ!」


 パタパタと素早く動くチャロに気圧され、クラトスは、そそくさと元居た席に着く。

 あっと言う間に片付けられて、綺麗になったテーブルに、クラトス用の珈琲と豆菓子が置かれた。


 不器用で生活力が絶望的なクラトスが、洗い場に立つと、瞬く間に欠けた皿や割れた皿の山が出来上がる。

 その信じられない光景を始めて見た時、チャロは驚き慄き、二度と師匠を台所に立たせない…いや、立たせない様にすると決意した。


 珈琲と豆菓子は、チャロからの無言のお願いであった。


 クラトスも、自分の不器用さに幾らか気付いていたので、チャロに文句も言わず素直に従う。

 むしろ、ゆったりと座って可愛いチャロを眺める。

 子リスの様に、ちょこまかと動き回るチャロの一生懸命な姿に、大いに萌えるのが最近の密かなマイブームなのであった。


皿洗いをするチャロの小さな背中に、暖かな眼差しを送りつつ、クラトスはニコニコと微笑んだ。






思ったよりクラトス様が大人しい…?

拙い文ですが読んで下さり、ありがとうございます〜

宜しくお願いしま〜す。

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