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白銀の魔法使いの愛弟子  作者: 緑青海雫
第2章 ある少年と猫の話し
19/23

小さな星の願い事 *後編*

 


「…この力の、リィルは知ってるの?」


「うん、知ってるよ・・・・・。 たぶん、白銀の君も知ってる。

 チャロは、…知りたいの? 」


「……う、ん…。 知りたい…。」


 クラトスは、チャロの力を在って当然としている処があった。チャロ自身が戸惑って使っているのに、クラトスは手や足や魔法を扱うことの一つのように、使い方を普通・・に教えてくれていた。


 チャロは、リィルステラに言われるまで、全く気が付かなかった。

 それは、あまりにも自然に、当然としてクラトスが接していたからに他ならない。


 自覚すると、チャロの心臓が嫌な音を発て始めた。


 クラトスは、明らかに『チャロ』の事で『チャロ』に関する秘密にしていることが幾つかあるのだ。


 ふと、得も云われない寂寥感が胸に押し寄せてきた。


「…ぼくが言っても良いのかな。

 今更でゴメンね…、やっぱり白銀の君がチャロに説明してないなら、きっと訳があるんだね。

 ぼくが其れを壊すのは、とってもいけないこと。

 本当にゴメンね、チャロ。

 君の持っている幾つかの偉大な力の事は、いずれ何かの機会に説明させてね。

 それで、良いかな…。」


 リィルステラは、しょんぼりと項垂れた。


「ぼく、喋りすぎちゃったみたいだ…。」


 落ち込んで眼に一杯の涙を溜めて、リィルステラが椅子の上で小さくなっていた。

 それを見て、チャロはふるふると頭を横に振った。


「そんな事ないよ、リィルステラ。

 ぼくが、ちゃんと自分のことを把握してなかったのがいけないんだから。

 お師匠さまがなんで教えてくれないかは、きっと理由があるんだって、ぼくも思うんだ。

 きっといつか話してくれるから、僕はただ、信じて待ってるだけ。

 だからリィルは、気に病む必要はないよ?

 取り合えず、ぼくが使える魔法とか能力がリィルも連動して使えるってことで良いのかな?」


「…うん。

 本当にごめんね、チャロ。ありがとう。

 …そうだよ、チャロが今現在出来ることをぼくも模倣して出来るんだ。

 魔法はもちろん、実体があれば体術も生活能力もね。

 ただ、守護の誓いの対価に、チャロの魔力が随時一定量、必要になるの。

 最初は、その違和感にちょっと慣れないかもしれないけど…。」


「あっ、それなら大丈夫!

 実はね、ぼく…魔力が多過ぎて体調を崩すから、常に魔力制御と貯蔵の魔法が施された装飾品アミュレットを着けててね!」


 そう言うと、チャロは袖を捲り上げて左の上腕を見せた。二の腕には、金環の緻密な細工の装飾品が着いていた。


「これ、もう八個目の金環なんだ。

 一月に一個は壊れちゃう。

 だから、リィルが魔力を貰ってくれるなら、それはとっても嬉しいし助かるんだよ。」


 ニッコリとチャロが微笑めば、リィルがホッとしたように口許を緩めた。


「良かった…、ぼくにもチャロの役に立てれる事が出来そうで…。

 それで、チャロに改めてお願いするのだけど。

 どうかぼくにチャロを護らせてくれないかな?」


 う~ん、とチャロは考えた。

 クラトスは昼間、チャロに使い魔ファミリアが欲しいと言っていた。

 授業で習った使い魔の役割とリィルステラの誓いの内容は、殆んど変わらないように思える。


 それならば、とチャロはコクりと頷いた。


「良いよ、リィル!

 これから宜しくね!」


 即刻決断を下すと、チャロはニッコリと微笑んだ。

 リィルステラは、ふにゃりと泣き笑いになってチャロを見詰めた。


「ありがとう、宜しくね! ぼくのシャロンっ!!

 では、早速、世界に宣誓をしないとっ!!


 世界樹の名において、御身に降りかかる障気災厄の穢れを祓いのけ、豊穣の恵みを約束し、尊きその命つき果てるまで御身を護り、また誠実な友であり続ける事を此処に誓う。


 シャロン、此処に盟約の誓いを。 」


 リィルステラは、静かに立ち上がるとチャロの前で右手を翳した。

 チャロも立ち上がると、リィルステラの手のひらに自分の手のひらをそっと重ね合わせた。


「白銀の魔法使いの弟子シャロン・ヴァイオレットは、此処に盟約の誓いを立てる。

 世界樹リィルステラへ、この命つきるその果てまで、誠実な友であり盟約主として高潔で在ることを誓います。」


 その瞬間―――


 金色と若草色の光が、二人の合わせた掌の間から生まれ、その光の帯によって部屋全体へ拡がる巨大な魔方陣が造り上げられた。


 驚いて固まるチャロに、リィルステラはクスクスと楽しげに笑った。


「チャロ、ビックリした?」


「う、うん、凄くビックリした!」


「ふふふ! 小さくてもぼくは世界樹だからね!

 宣誓の魔方陣も大きくなるよ。

 なにせぼくの本体は、世界に干渉する力を持ってるからね!

 あっ、そうだ!

 チャロにお願いがあるんだ!」


「うん? なぁに?」


世界樹ぼくの枝から、人形を造って欲しいの。

 ぼく、さっきからお願いばかりだよね、ゴメンね…。」


「良いよ、リィル。

 ぼくにしか、出来ないことなんでしょう?

 人形って、魔導人形ホムンクルスのこと? 何に使うの?」


「ぼくが宿るために必要なの。

 折角だから、チャロの側に居るときは、身体が欲しいなぁ~って思ってね。

 とっても難しいお願いだと思うから、無理そうなら断ってね。」


 眉を八の字にして、リィルステラは微笑んだ。

 チャロは、キョトンとしてリィルステラを凝視した。


「えっ? 無理じゃないけど、リィルは実体化が出来るってことなの!?」


「うん、たぶん出来そうなんだ。

 もう少し力がつけば、依り代の人形とか無くても人化出来ると思うんだけど。

 ぼく、チャロと一緒に生活してご飯を食べて町を駆け回ってみたいの!」


 未来を描いて、リィルステラの瞳がキラキラと輝いた。

 その可愛さと希望に満ちた綺麗な表情に、チャロはほっこりとした。


「うわぁ…、とっても素敵だね!」


「うんっ!

 あっ!えっと、それに……。」


「うん??」


「ディーと、また、お茶が、飲めるし…。」


 噛み締めるように、ポツリポツリと呟いた言葉に、チャロの胸が熱くなった。


「…裏庭の大きな木の下に、テーブルセットが置いてあるの。夕方のアフタヌーンタイムには持ってこいの、優しい場所でね。

 師匠にディオティマ殿にリィルとぼく。

 あぁ…、賑やかになりそうだね! 」


 ニコニコと笑えば、リィルステラの瞳が潤んで揺れた。


「うんっ! きっと楽しいお茶会になるよね!

 ぼく、みんなとお茶がしたいっ!

 それでいつか、叔母上も呼んでもっともっと賑やかで楽しいお茶会にするの!」


「ふふっ! それ、とっても良い案だね!

 じゃあ早速、魔導人形を造らなきゃ!

 リィルステラ、枝は持ってる?」


「持ってるけ、ど、って!

 えっ!? うえええぇぇぇぇっ!?

 チャロ、今から造る気なの!?」


 眼と口を限界まで見開いて、顔全体で驚きを表現したリィルステラの反応に、チャロは思わず声を発てて笑ってしまった。


「あははははっ! もちろん造るよ!

 だって速い方が良いでしょう?

 さっ、早く出してよ。」



 リィルステラは眼を白黒させながら、亜空間から子供一人分ほどある太さの世界樹の枝を取り出した。


「こ、これなんだけど。」


「あ、このくらいなら、ほんとにすぐ出来るや。

 朝御飯までになら、ギリギリで間に合うかも…。」


「…っ!? え"っ!!? 」


「あっ、リィルは本でも読んでてよ。

 ちょっと集中するから、たぶん話し掛けられても分からないかも知れないから、この部屋に有るものは好きに使ってね。」


 リィルステラは、茫然と驚愕の入り交じった表情のまま固まっていた。


 チャロのハイスペックさに度肝を抜かれ、頭の中では思考を停止させてしまっていた。


 普通の魔法使いが、三ヶ月掛けて魔力を組み込んで造り上げる魔導人形。

 魔法使いの生活や仕事を助けるため、自立型魔導人形はメイド型や執事型が多いのが特徴だ。


 その人形を作成する為には通常の魔法を扱うより、魔力の練度をあげなければ人形が動かない・・・・

 自立型魔導人形ホムンクルスは、主人が持っている魔力の密度を高めて造り込むのだ。その魔力の消費量は膨大で、一日で出来るのはほんの少しだけ。

 しかし、込めれば込めた分だけ有能さを発揮するのだから、魔法使い側は皆、張り切って造る。

 故に三ヶ月、また造り込む者は数年という時間と手間暇を使うことも珍しくない。


 それを朝食までと言うからには、およそ4、5時間で造り上げると云うことだ。


 チャロの魔力量の豊富さが解ると云うものの、リィルステラは、ただただ驚いていた。


 目の前で複数の魔方陣が展開される。

 時間短縮の術式魔方陣を背面に置き、緻密な細工を迷うこと無く風魔法で大胆且つ繊細に裁断を行い、細かな砂嵐を起こして粗いところを削り、艶を出すため炎魔法で表面のみサラリと焼く。


 余りの処理能力の高さに見とれると同時に、リィルステラは舌を巻いた。


 あっという間に、四肢と体幹と頭部が出来上がる。


「あは、あははは…、さすが賢者の愛弟子だね…!」


 リィルステラは、沸き上がるワクワク感と歓喜に体を震わせた。


 勇気を振り絞って、チャロの夢に干渉し目前に出ていった数分前の自分の健闘を多いに褒めてあげたい気持ちになる。


「"星海に たゆたいし 黒柱石、

 我が魔力と結び付き 紅へと転じて

 賢者の石へと昇華せよ。

 汝 臓腑と成り得て 命を巡らせよ。" 」


 チャロの宣言に従って、チャロの掌に乗せられてた黒柱石がチャポンと音を発てて黒い石から紅い粘性の液体に変化する。

 ぐねぐねと波打つと10の球体に分かれて、今度はお互いに22本の細い管を伸ばして繋がり会う。

 六角形に程近い繋がり方をしたそれらは、落ち着いたようで、その活動を沈黙し、空中へ留まった。

 チャロがそっと指先で押しやると、10の球体が連なって纏まった紅い黒柱石はそのまま、人形の腹の部分に吸い込まれていった。


 そしてまた、チャロが虚空から赤い液体の入った瓶を取り出して空中へ放り投げる。


 投げられた空中でピタリと止まると、瓶の中の赤い液体が煌々と輝き始めた。


「"暗き闇の底におわす 大地を司りし竜王の血よ、

 汝 熱き血潮と成り経て 循環し続けよ。"」


 ポンっと瓶の蓋が開くと、赤い液体は霧散してバラバラに造り上げた身体の各パーツへ吸い込まれていった。


 ふっ、とチャロは微笑んだ。


 モノ造りは、いつも楽しかった。

 素材が良いせいか、今日はとても良く進む。

 そして、はたっと気づく。


「リィル、君の紫水晶の欠片ってあるかな? 」


 クルリと後ろを振り向けば、ボーッと此方を見て惚けてるリィルの金色の瞳とかち合う。


「えっ?! あ、ごめん、聞いてなかったや…。

 もっかい言って? 」


「君の紫水晶の欠片ってあるかな?

 魔導人形の中に埋め込んで、魔法の媒介にしようと思うんだけど…。

 きっと、他の魔石の媒介とかより馴染みやすいから。」


「あ、うん、分かった! 有るよ! はい、これ! 」


「うわぁ…、綺麗だね…! うん、ありがと。」


 チャロは、両手からはみ出すほど大きな紫水晶の塊を受け取ると、頭上に掲げて呪文を幾つか唱えた。


「"汝 活動せしめて拍動せよ。

 世界樹を守護し 世界樹と共に世界を謳い

 大地を愛撫する紫水晶よ。

 汝 心の臓と成り得て 拍動せよ。


 しんに根をはり 四肢末端まで枝を伸ばし

 全てを繋げ 総てを支配せよ。

 魔法の言葉を 謳いたまえ。

 祝福の言葉を 紡ぎたまえ。


 汝 紫水晶より転じて 活動せしめて

 盟約が破棄されるまで 悠久に 拍動を続けよ。"」


 チャロが言葉を紡ぎ終わると、紫水晶が激しく光始めて形を変える。


 球体に変わった水晶の中に、金色に揺らめく光の帯と煌めく翠の帯、煌めく紅い炎の様な帯が閉じ込められていた。

 煌めく金褐色の炎が、揺らめく度に、硬いはずの球体になった水晶が拍動を打つ。


 チャロがスッと手を離すと、水晶は魔導人形の胸に吸い込まれていった。


 その刹那―――


 体幹から輝く紫と金色とみどりの光の帯が溢れて伸びて、各パーツへ繋がる。

 そのまま縮み始めると、バラバラだった身体が一つに纏まり始めたのだった。


 リィルステラの新しい身体が、徐々に完成に近付いていった。


 チャロは、全く疲れていないようで、ニコニコと楽しそうに微笑みながら製作に夢中になっている。



 チャロの横顔は輝くような笑顔で、リィルステラは、ボーッと見惚れていた。


 チャロから紡がれる魔法の美しさと鮮やかさは、驚嘆に値するし、他の魔法使いがみればきっと顎を床に落とすに違いないと、リィルステラは確信していた。


 この美しき天才と友人に成れた誇らしさが、じんわりと胸に染み渡った。


 魔導人形造りは、どんどんとヒトの形に変わっていく。


 チャロの鮮やかな手付きに見惚れつつ、リィルステラはベットに腰掛けてチャロが仕上げを施すその最後までをジッと見守り続けたのだった。








チャロくんの無茶ぶりにリィルステラは、驚いたようです。

チャロの力は賢者たちと並び立つほどですが、本人に自覚はありません。

さてはて、今回は使い魔契約をリィルステラと結びました。

チャロとリィルにしてみれば、親友宣言の認識でしょうけれど…。

世界中をいくら探しても、世界樹の神霊と魂を結び会う使い魔契約などやってみた人はいないでしょう。間違いなく発狂します。

チャロくんは、いろいろと常識がぶっ飛んでいます。明らかにクラトスのせいですねwww

チャロくんは、リィルが動きやすくなるよう、あえてホムンクルスを造りました。



そして!あと二話で本章は終了です。

次話は、ちょっとクラトスがフィーバーしちゃいますが…、意図せずBLっぽくなったので、苦手な方はスミマセン!

それでは、また明日~!


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