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白銀の魔法使いの愛弟子  作者: 緑青海雫
幕間 白の邂逅 青の慟哭
11/23

山頂に佇む十字架

御機嫌よう〜!

さて、幕間です。

第1章の続きではなく、完全に独立した短編となります、が…。

幕間は、クラトス視点でお贈りします。

時々、挟ませて頂きます!

 

「なんだ…白、おまえか…。

 珍しいでは、ないか…。

 何の用だ…?」


 下腹に響く、少し掠れた低い美声。

 その声の主は、岩の上に座り片膝を抱えていた。

 すっと、流し目を僕にくれるが、この目付きの悪さなら、他の人から見たら睨んでいるようにしか見えないだろう…。

 僕は、ふぅ…と溜め息を吐いた。


「青の…。貴方はまだ、此処にいるのか…」

 ふぃっ、と青の賢者が顔を背ける。

「俺は、待つと決めたのだ。」

 ボソリと、聞落としてしまいそうなほど小さな声で、彼は苦々しく呟いた。


「待っていても、あの人は帰って来ないだろうに…。貴方は、なぜ此処に居続けるの?もうすぐ…300年になるよ…?

 諦めて、降りといで、青…。」

「だまれっ、クラトス!!

 お前がっ! !

 お前が其れをいうのか!?」

 ぎりっと、音がしそうなほど奥歯を噛み締めて、彼は憎々しげに、僕を睨んだ。

「クラトスっ!お前は見つけたのだろう!? 数百年もの間、地上の穢れに時狂いの身を投げ出して、お前は成したではないか!!

 俺は知っているぞっ!!

 鳥達が話しているのを聞いたのだ!!

 お前が血反吐を吐きっ、身を削り…!

 絶望に泣き喚きながらも地べたを這いつくばって探していた者を!!

 恋い焦がれて待ち続けた者を!!

 だから、俺とて見つけるのだっ!!

 俺は約束を反故にはしないっ!!」

「…エヴァンジェリ…」

 ぐっと、僕は言葉を飲み込んだ。

 そうだった。

 僕だって、ずっと待ち続けて、ようやくあの子に出逢ったのだ。

 青の賢者、エヴァンジェリの慟哭に同調し、あの頃を思い出して、僕は身が引き裂かれるような気持ちになった。



 天空の城「太陽の翼」。


 此処は、僕たちの城。

 僕たち、時狂いの七人が創り上げた最後の楽園。

 岩の上から、エヴァンジェリが小さく…咽び泣く声が聞こえた。

 僕は、ジッと足元を睨み付けていた。


 青の賢者エヴァンジェリ・セトは、美しい男だ。

 流れる水のような、青く透き通った長い髪。

 腰まである髪を頭上で一纏めにし、朱い紐で結っている。

 サラサラと、髪が肩を流れる様は、河を覗き込んだ錯覚に陥るほど艶めいて綺麗だ。

 しかし、目付きの悪い男だった。

 アーモンド型の眼は、吊りあがり気味で涼しげだ。深い紺色の瞳は、魅入りそうになるのに、なんとも冷酷な光が宿っている。

 鼻は高く、肌は褐色。

 ただ座っているだけでも、全体的に色気の漂うのが、このエヴァンジェリと言う男だった。


 冷静で冷酷で…。

 周りにも自分にも厳しいが、僕の知っているエヴァンジェリは、一途だ。

 疑っても、哀しくても寂しくても、何があっても…ずっと彼の友人を待ち続けている。

 それが、亡くなった友人との最後の約束らしいのだ。

 必ず転生して彼の元に戻る、と友人が死の間際に約束をしたというのだ。


 エヴァンジェリは、300年間…。

 独りで、ずっと此処で待ち続けている。




 此処は、島の最西端の山頂。


 山頂には、友人の墓が建っている。

 2メートルはある、大きな十字架。


 金に輝く十字架が霧の中に、静かに佇んでいる。

 其れは、とてと幻想的で神秘的で。

 冒しがたい何かをまとっている。

 雲と霧に囲まれた黒く鋭くて険しい岩山の山頂。


 十字架に寄り添う、美しくも憐れな男は今も希望を捨て切れず、根気強く待ち続けている。


 僕たち七人の時狂いは、何処か大事な何かが欠落している。

 僕らは紛れもない、化け物。


 僕も色々、酷いものさ…。


 ふふん…っ、と自嘲した瞬間…。


( 師匠…、師匠…)

 ふと、チャロ君の可愛らしい声が聞こえて来た。

 必死に、僕にくっ付いて歩く姿。

 本を真剣に読む姿。

 とても美しい顔をしているのに、頭は寝癖だらけで服もヨレヨレで、自分の容姿に対して、とても大雑把で無頓着。

 耳に優しい音程で、甘えるように僕を呼ぶ声。


 僕の可愛い、一番の弟子チャロ。

 僕の大切な養い子、チャロ…、シャロン・ヴァイオレット。


 煌めく紫の瞳を思い出して、トクリと胸が高鳴った。


 岩の上にゆっくりと飛翔して移り、未だ咽び泣くエヴァンジェリに、そっと近寄り肩を抱いて慰める。

「エヴァンジェリ、さっきはごめんね…。そうだよね、僕も逢えたんだ。

 きっと貴方だって逢えるよ。

 ただ、…独り寂しく待ち続けないで欲しかったんだ。時々で良いから、僕のアトリエにおいで?

 僕の愛弟子が作るシチュー、本当に美味しいんだよ?

 暖かいシチューも焼き立てのパンも、香りの良い珈琲も用意するから。

 ねぇ、エヴァンジェリ。

 貴方の大切なヒトは、きっと君が少しでも笑っていてくれる事を…、どんなに小さくても得られる祝福を、きっと望んでいるよ。

 お願いだから、自分を無碍にしないで…エヴァンジェリ。」


「クラトス…、俺は、愚かだ。」


「…どうして?」


「あいつを待つ事が、罪の償いだと思ってしまっていたんだ!

 違うんだっ! 本当は違うっ!

 待つと約束したのは、俺だっ!

 自分を忘れて幸せになれ、とあいつは言った!!

 きっと転生して、私が貴方を見つけるからと、言った言葉に、哀しくて寂しくて狂いそうになるくらい嬉しくて、俺は、俺がお前を待ち続けてやるっ、何があっても待ち続けると!!

 俺がそう言って、約束したんだっ!

 俺は、愚か者だっ!!

 俺は、本当にっ…!!」


 ぐっと、エヴァンジェリの背中が大きく持ち上がった。

 身体を折り曲げて、号泣する。

 僕は、何度も背中をさすった。



 世界で持て囃され、伝説と謳われる僕たちの実態は、みんな似たり寄ったりだ。


 狂った獣を身の内に飼っていて、時折、制御が効かなくなる。

 何処か(いびつ)で思考がねじ曲がっていて、其れなのに揃って力が巨大で学問や策略に優れ、容姿が恐ろしく美しいせいか、酷く人目を引いてしまうのだ。


 だからか、より孤独感を味わうのだ。


 賢者と言う名とて、ヒトから一線を引かれてしまったという事。


 ふふ、と自嘲する。

 時狂い…。

 そうだ。何百年と生きる化け物は、やはり僕ら七人しか居ないのだ。

 しかし…、その長い永劫の狂った時間の中で、少しの間でも寄り添ってくれるナニカは、本当に貴重で得難い宝物で。


 時狂いの僕らは、みんながみんな、形こそ違うけれど、その宝物を既に手に入れていた。


 至高の宝玉。(まこと)の宝。

 しっかりと胸に抱いて、大切に、大切にしまい込んでいるのだ。


 僕の真の宝は、僕らの家で暖かいご飯を用意して待っていてくれているだろう。

 ただいまと言えば、嬉しそうに顔を綻ばせてお帰りなさいと返してくれる。


 僕の、大切な宝もの…。



「エヴァンジェリ…。

 葛藤して反省し、必死に生きる者は、愚か者だなんていわないんだよ?

 其れは、悪い事じゃないよ。

 格好悪い事でも、見苦しくて情け無い事でもないからね。

 エヴァンジェリ、古き友よ。

 どうか、自分を蔑んで貶めないで。

 僕の掛け替えのない旧友を、これ以上、虐めないでおくれ…。」


 エヴァンジェリは、何度も袖で涙を拭っていた。


「クラトス…、すまない…。

 そうだ…、俺は大切な約束を、寂しさや悲しみで拗らしたんだな…。

 俺は…、時が進むに連れて、俺が己を許せず許そうともせず、荒み…。

 そうやって俺の心が、これは罰だと…己を責めてわざと罪の雫を生み出して、巨大な湖を作り上げていたのだな。

 その湖を覗き込み、ただ待ち続け、反省するだけなら良かったのに、俺はいつの間にか…贖いたいと意固地になり、足を滑らせ自ら作った罪の湖で溺れていたのか…。

 そうだ、あいつはそうじゃない…。

 逆に、俺が無理して待ち続けているなら、やっと逢えた時に問答無用で蹴り飛ばして来るだろうさ!

 そうだ…!

 あいつは、必ず俺の元に還って来る!

 其れは、この墓標ではないっ!!

 俺と言う魂の元へ還って来ると約束したのだっ!!

 俺は、墓標という物質にしがみ付いて、縋ってしまっていたんだな…。

 クラトス、すまないっ!

 俺の大切な古き良き友よっ!!」


 エヴァンジェリの慟哭は、叫びに変わり、苦しげな表情も泣いてはいるものの、今は少し落ち着いていて。

 どうやら無事、拗れが解消されて、正しい道に戻った様だった。

 すまないと、謝って僕にしがみつく友人に、ふふふ、と笑みが零れる。

 ポンポンと、優しく彼の背中を叩いてやった。


「気にしないで、エヴァンジェリ。

 持ちつ持たれつってヤツだろ?

 こちらこそ、なかなか踏み出せずにいてゴメンね…。

 ああっ!

 でも、ホントに家においでよね!

 今回のお詫びとして、僕の愛弟子の自慢、しぃっかり聞いてってよね〜っ!

 ホントにすっごくすっご〜っく!!可愛いんだから!僕のチャロ君は!!」


 抱き付いていた身体を離して、エヴァンジェリは怪訝そうな顔を僕に向けた。


「クラトス…、いつからそんなに弟子馬鹿になったんだ…。」

「…あぁ〜…たぶん一目惚れして…その瞬間から…かな?」


 残念なヤツを見る眼で、こっち見んな!

 僕は、ぷぅっ!と頬を膨らまして眉間に皺を寄せた。

 睨み合う僕ら…。



「ぶっふぅっ!!」

「ぷはっ!!」



 可笑しくて、僕らは笑い合った。

 エヴァンジェリが笑うのは、本当に久しぶりだ。

 僕は嬉しくて、更に笑い声をあげる。

 すると、エヴァンジェリも目尻に涙を引っ掛けながら腹を抱えて笑った。


 スッと、顔に陽の光が当たる。


 霧と雲の隙間から陽が射して、大きな光の階段を創り上げた。


 光の階段が、十字架に降り注ぐ。

 霞む景色の中、光によって浮かび上がり、ひっそりと静寂を抱いて佇む十字架の幻想的な美しさに、僕らはジッと魅入っていた。


「…僕のチャロ君は、精霊や幽霊がみえるんだ。」


 エヴァンジェリは、ジッと十字架を見つめ続けて、静かに僕の話しを聞く。


「時々、縁で結ばれるヒトの魂の軌跡が、光として見えるらしいよ?」


 ハッと、青が息を飲んで僕を凝視する。

 そっと、視線を合わせると、エヴァンジェリの瞳が揺れていた。

「あの子が言うには、縁と言う光が見えるのは稀らしいけれど…、もし…嫌でないなら、僕の愛弟子に君の話しをしてみてよ。

 きっと、力になってくれるから。

 エヴァンジェリ、僕も君を助けたいんだよ。」


 エヴァンジェリは、ぐっと顔を歪めた。

 ボロリと、大粒の涙が落ちると、破顔した。

「クラトス…腹が減った。

 とても…暖かいシチューと焼き立てのパンが食べたい…。」


 僕は微笑んで、うん、と頷いた。

「挽きたての珈琲もあるよ?」

 くくっ、とエヴァンジェリが笑った。

「俺は紅茶派だよ、クラトス。」

「そうだっけ?

 ふむ。紅茶派なら、チャロ君と話しが合うね〜!

 チャロ君の事だから、お客さんが来るとなると、張り切ってパイも焼いてくれると思うよ〜!」

「おぅ、…それは凄く楽しみだな。

 …パイは、リンゴか?」

「うん、この時期だからね、リンゴだろうさ。」

 そう言って、クスクスと僕らは笑った。

 そっと、笑い声を納めると、エヴァンジェリが泣きそうな微笑みで、僕と目を合わせた。

「ありがとう、クラトス…」

「お安い御用だよ、エヴァンジェリ。」


 300年…。

 この静謐に佇む十字架のそばで、己の全てを犠牲にして待ち続けた男が、やっと一歩、未来に踏み出した。

 友人の、大きな一歩が本当に嬉しい。


 チャロ君に逢うまで、僕は彼を見守っていた。

 彼に、なにも出来ないだろうと歯痒く思い、なにも言えずに見守り続けていた。

 僕は、彼の心の深い所に、関わってしまう事が怖かったのだ。

 それは、他の時狂い達とて同じ。

 僕らは互いに無関心を装う。


 だけど、今日。

 僕は、旧友のために大きく踏み出した。

 慟哭し、叫び続ける剥き出しの心に触れる恐怖に、四肢が震えながらも。


 これは、僕にとっても大きな一歩。


 チャロ君と言う存在が、引き起こしてくれた切っ掛けという奇跡の一つ…。


 さぁ、行こう…と声をかけると、本当に嬉しそうに彼は笑った。



 僕らは、山頂にひっそりと佇む十字架を背に、東へと飛び立った。




第2章には、続きませんが、いつか…とある章の中へと続く予定となっています。

乞うご期待っ!!

次回もどうぞよろしく!!

読んで頂き、感謝感激雨あられ!

風邪など召されないよう、皆様お大事に!

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