ある少年と薔薇のお話。 エピローグ
これにて第一章完結です。
ありがとうございました~!
まだまだ、チャロ君のほのぼの成長物語は続く予定です!
つたない文章ですが、今後ともよろしくお願いします~
【あるとき、食いしん坊の魔物が薔薇の谷を食い荒らしに来ました。
ちょうど、薔薇姫が精霊に生まれ変わろうと眠りについた時。
魔物は、これ幸いと薔薇姫を食べようとしました。
しかし、死して尚、薔薇姫を愛し続け、お墓に腰かけて見守っていた幽霊の旦那様が、必死に戦ったのです。
勇敢に身を挺して姫を護る旦那様。
あわや、魔物に食い殺される瞬間。
そこに薔薇姫の友人の、白銀の賢者さまと其の愛弟子さまが舞い降りたのです。
魔物は驚いて飛びのきました。
あっと言う間に、賢者さまは薔薇姫を魔法で護り、その隙に旦那様と愛弟子さまもあっと言う間に魔物をやっつけたのでした。
そうして精霊となって目覚めた薔薇姫と幽霊の旦那様は出逢いましたが、悲しいことにお互いの種族が違うため見れず触れず…。
不憫に思った白銀の賢者さまは、その類いまれぬ奇跡の魔法を使って旦那様を精霊に変え、愛する二人を巡り逢せたのでした。
慈悲深い賢者さまは二人を祝福すると、更に結婚指輪を与えました。
そこには、人化の魔法がかかっていたのです。
「なぜですか?」と、旦那様が不思議に思うと、賢者様と愛弟子様は優しく微笑みました。
最愛である人間の息子と、直接言葉を交わし抱きしめあうことが出来るようにと、指輪に古の秘術を彫りこんだのだと、賢者様は静かにおっしゃいました。
精霊の夫婦は驚きましたが、賢者様のお心遣いに感動して大きな声で泣いてしまいました。
賢者さまは、泣いて喜ぶ精霊の夫婦に微笑むと愛弟子と共に空へ飛び立ちました。
こうして、白銀の賢者さまに祝福された薔薇姫と精霊の旦那様は、共に数百年もの間、麗しい薔薇の谷を護り続けたのです。
今も尚、薔薇の谷は幾百、幾万と言う薔薇の花が咲き誇り、気高くも瑞々しい香りを風に乗せています。
そして助けてくれた賢者さまのお城へは、友人の風の精霊に頼んで、毎日のように薔薇の花びらを届けているそうです…。
めでたし、めでたし…。】
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ぱたん…と、チャロは静かに本を閉じた。
最近、本屋に入荷された“薔薇姫”のお話の続き。
巷で人気がうなぎ上りの“精霊になった薔薇姫”のお話。
まるで、その場を見たように、なかなかに事実と似通っている事に、チャロは内心舌を巻いていた。
作者は不明。
すごいな…と苦笑しながら、ふと窓辺を見ると水晶で出来ている薔薇が光を受け、乱反射してキラキラと輝いていた。
自然、口元が緩むと薔薇の谷の夫婦を思い出す。
そして思い出しては、本の一番初めに挟んでいる、薔薇の香りのする封筒を手に取った。
シャルロットから手紙が来たのは一昨日の事。
封筒の中から三枚にも渡る長文の手紙を取り出して、始めからまた読み直す。
この本が出て、数日後。
薔薇の精油を貿易品として扱って、あちこちの国々を巡る多忙な貿易商となった彼の息子が、突然、薔薇の谷に飛んで帰ってきたそうだ。
文字通り、小さな飛竜に乗って飛んで帰ってきて、初めて父親と対面したそうだ。
アルバさんは、ずっと見守っていたから息子の事は良く分かっていたが、息子は初めて会う父に万感の思いで男泣きし、無言で泣きながらお互いを抱きしめて、感動の再会だったようだ。
息子はそれから、母の若返った姿に驚きを隠せないようで、反面、とても嬉しそうにチラチラと何度も見ていたらしい。
三人家族で一晩中、今までの事、これからの事を泣いて笑って話をしあって、尽きることが無く。
それから三日後の朝、放り投げてきた仕事があるからと息子が帰っていたと、文面に嬉しさがにじむようだった。
ふふふ、とチャロは微笑んだ。
三枚目の最後の文に眼を通して、チャロは窓の外の風景を見つめた。
【チャロ様、また薔薇の谷へ遊びにいらしてくださいませ。
今度いらっしゃった時には、家族が増えている事でしょう。
慌ただしく帰って行った息子から、その日のうちに連絡が来て、身重になったお嫁さんと薔薇の谷に帰ってくるとのことでした。
あぁ! わたくしのこの喜びが、お分かりになられますか? チャロ様!
ずっと憧れ、しかし叶わぬと夢に見た情景が、まさかまさかっ!
本当に近い将来、目の前で叶うのです!
どうか、わたくしの新しく増える家族に会いに来てくださいませ。
わたくし、たくさん自慢がしたいのです。
白銀の君とチャロ様には、わたくしの家族を!
わたくしの家族には、得難い大切な友人たちを!
長い文になって申し訳ございませんわね…。
鈍色の雲の隙間から、そっと光の階段が差し込む今日。
冷たい北風が、静謐な冬のマントを纏って訪れているようですが、どうぞお二人ともお風邪など召されませぬようご自愛くださいませ。
それでは、また、お会いできるのを楽しみにしております。
薔薇の谷より親愛なる魔法使いの愛弟子様へ シャルロット 】
こうやって、縁が生まれヒトの輪が広がり、なにも持っていなかったチャロの宝物が増えていく。
幸せな気持ちが溢れる。
チャロは、大切な手紙を丁寧に封筒に戻し、本に挟んで机に置いた。
物語の本の最後には、薔薇の花びらを色紙に貼って、精霊の繭から紡いだ紐を通した栞が覗いていた。
そっと本の表紙を撫ぜて、チャロは部屋を出た。
今日もこれから、師匠の仕事の依頼について行く。
今度はどんな出会いが待っているのだろう。
小さな胸をドキドキと弾ませて、待っているだろうクラトスの元へと、チャロは一歩を踏み出した。
【 ある少年と薔薇のお話の章 完 】




