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思念強化系少女轟天丸  作者: 下総 一二三
18/20

リベンジ

 ソレナリオ達は仲介役のパシリオからの連絡により、小樽のとある漁港の埠頭で待ち合わせていた。

 戦後は炭鉱から石炭を運ぶための貨物船が出入りして賑わっていたようだが、閉山された今となってはかつての名残もない。普段から人気が少なく、死角となる建物が数多く建ち並んでいるので取引には格好の場所で、ソレナリオが北海道に潜伏してからはこの場所を良く利用していた。

 波も僅かな静かな海からは朝霧が立ち込めて白い靄が漁港内まで入ってソレナリオ達の足元を覆っている。


 朝霧の奥に暗い巨大な船体の影が浮かび上がった。

 コンテナ船と呼ばれる貨物船の一種がコトコトと控えめな音を立て、海上を滑るように進んでくる。コワイネンが懐中電灯を船に向け点滅のサインを送ると、船からも点滅のサインが送られてくるのが確認できた。やがて船が埠頭に止まると舷側から縄梯子が降ろされる。


「これを上れってのかい」

 ソレナリオは呆れたように船体を見上げた。船員二名が下を覗いていて、一人がソレナリオに向かって上がれと手でサインを送って来る。仕方ないねとソレナリオは縄梯子を上っていったのだが、ふわふわと揺れ動く縄梯子に悪戦苦闘し、船体の上甲板に降り立った時にはぐったりと疲れ果ててしまっていた。

「すみませんね。ラダーを使うと時間もかかりますし、ヨワルスキーさんだと体力ないしコワイネンさんだと重さに耐えられそうにもなかったので」

パシリオが上っ面だけの調子で謝罪した。

「……それにしても、他に方法あるでしょ」

肩で息をしていたソレナリオはパシリオを睨みつけるだけだったが、しばらくしてから喘ぎながらやっとその言葉を口に出来た。

「いや、これが一番です。疲労困憊しているのは日頃から運動不足なんですよ。いくら軟禁生活状態に近いとはいえ、それなりの広さを持つ工場だ。腕立て伏せやスクワットくらい出来るでしょう?」

「するわけないでしょ?コワイネンじゃないんだから」

「ソレナリオさん。コワイネンさんだからとか関係ないんですよ。人の身体は加齢や運動不足で筋力が低下すると基礎代謝が低くなります。そうなると体調のバランスひいては……」

「ああ、わかったよ。軽めでも運動すればいいんだろ?」

 ソレナリオは手を激しく振って、パシリオの言葉を遮った。

パシリオという眼鏡を掛けた細面の男は、常にスーツ姿で物静かで怜悧な物言いはオフィス街のビジネスマンをイメージさせるが、一方でストレッチマニアでもある。

 食料の搬送も食事バランスを考えた食材を選んでくるし簡単な健康診断も出来る。有難い人材なのだろうが耳元でくどくどと言われると流石に鬱陶うっとうしいものがある。

「それよりも例のヤツを見せてもらおうか。アレなんだろ?」

 ソレナリオがアゴで示した甲板上にシートに覆われた巨大な物体がある。

 パシリオの目が鋭く光り、こちらにと甲板の中央に案内した。


 この機体は複座型でしてとパシリオが歩きながら言った。

「単純作業なら一人でも操縦可能なんですが、複雑な動きを必要とする戦闘で、かつ相手を轟天丸と想定した場合、人間で言えば脳と目と肉体と役割分担を行い、それぞれが最大限の能力を発揮して一心同体となって息の合った操縦をすることが必要とされます」

「……」

「ソレナリオさんから貰った岩淵博士ののA・Iの人工知能をベースにしたんですが、このシステムを円滑に動かすには三人の誰が欠けても闘えないようになってしまいました。一人が欠ければこの機体が持つ性能の半分も失われてしまう。まあ、あなた達専用の機体と言っても過言じゃないでしょうね」

 ソレナリオとパシリオがシートの前に並び立った。

 船員が機体に掛けられているシートを降ろすと、下から銀色に輝く人型の機体が現れた。

 体育座りする格好で鎮座している銀色の機体は、ゴーグルが装着された頭部が着ぐるみの頭のように後方に垂れて、胸部付近にはコックピットと思われる座席が三席設置されている。

「名前は決まっているのかい?」

「〝テンカサンブ″。本部の開発部によると、現在、アングランドが作りだせる最高傑作だそうですよ」

「……最高傑作か。轟天丸以外ならこいつ一体で充分、間に合いそうなんだけどねえ」

「珍しく気弱ですね」

「あいつには煮え湯を飲まされっぱなしだからね。出来れば避けたい相手さ」

「……」

「ま、それに今は轟天丸より岩淵が優先だから、テンカサンブの出番はまだ無さそうだしねえ」

 理由はまだ不明だが、轟天丸にはその行動に何らかのしがらみがあり、こちらから討って出なければ現れないだろうと考えている。轟天丸に負けたままなのは癪だし一糸報いたい気持ちもあるが、優先すべきは岩淵の居場所を見つけ、身柄を拘束することだった。

それなんですがとパシリオは苦笑いした。


「もしかしたら、いきなり轟天丸とやらなければならないかもしれませんよ」

 パシリオは内ポケットから一枚の写真を取り出すと、それをソレナリオに渡した。

「本部のサイバー班が一般人のブログから発見して写真用紙にプリントアウトものです。三日前のものなんですが」

 写真には男二人が修理中らしき戦車を背景にして写っていた。その奥には自衛隊員の格好をした黒髪の男がしゃがみ込み、隣には少女が佇んでいる。写りは小さいが誰かはすぐにわかった。

「昨日、確認したところ彼は神林町の合同対策本部にいるようです。近日中に彼は東京に移るとか」

 一人は音無奏というガキ。

 そして、もう一人。

 忘れもしない岩淵史郎の姿がそこにあった。


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