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思念強化系少女轟天丸  作者: 下総 一二三
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冬のファンタジー(前編)

 陶酔劇もいったん終了し、気を取り直してジュースやケーキを口に運んでいた奏も、あまりの降雪量に今年の冬はどうなっているのだろうかと思いながら窓から外をちらちらと眺めていた。

「凄い雪だね……」

 由実も同様の思いらしく心配そうに外を眺めている。

「せっかくのホワイトクリスマスだけど、ちょっと降り過ぎだよね」

「おばあちゃん、大丈夫かな……」

 由実は小学生の頃に両親を亡くし、祖母と二人で暮らしている。

不安そうな顔で由実は身体を擦っている。あまりの寒さにエアコンを最高温度まで上げているのだが、この寒さでは充分機能せずにどこか肌寒さを感じていた。あまりに不安をかんじたのか、ちょっと家に電話してみるねと由実が携帯電話を取り出した。

「混線しているのかな……?不通になって繋がらない」

「メールは?」

「うん……」

 言われて由実は携帯電話を操作していたが、首を傾げた後で奏を見て首を振った。

「何か変。中断しちゃって送れないの」

「……」

 二人が顔を見合わせる中、外から〝ピーンポンパンポーン″と市の広報を知らせる音声が聞こえてきた。だが、その音は肉声で次の声を聞いた瞬間、奏は血の気が引く思いがした。

〝神林町のみなさん、こんばんは。クリスマスを楽しんでるかなあ?″

 聞き覚えのある女性の声。ソレナリオの声だった。奏は急いで窓を開け外に目を凝らした。だが、視界の先に広がっているのは闇と白く積もった豪雪に覆われた町ばかりでほのかに街灯が点々と頼りなく光っているだけである。

〝私達はアングランドと言いまあす。この付近で誘拐事件に遭った子も住んでいるから、みんな知っているよねえ?″

「奏ちゃんのことかな?」

「……」

〝前回はその子だけだったけれど、今回は神林町三丁目から六丁目の方々に人質となってもらいまあす。外に電話やメールしようとしたってもう駄目だよ。どこにも繋がらないようにこちらの電波で遮断しているからねえ″

「……」

〝私らの要求したいのはね、金じゃないんだよ。ちょっと会いたい奴がいるから出て来て貰いたいんだ。最近、ニュースでも話題になっている奴いるだろ?自分で『轟天丸』なんて名乗ってた野郎でさ。そいつにちょいと世話になったもんでね。お返ししてやりたいのさ″

 由実の息を呑む音が後ろから聞こえて来た。

〝今、この大雪は私らが〝テンコーン″という気象変化兵器を使って降らしている。出て来ないならもっと雪を降らして次はこの付近一帯を停電させるよ。この寒さじゃあ、朝までに何人か凍死しているかもね″


 そこでソレナリオの声が途切れた。同時に雪に紛れて暗い闇の奥にほんのりと淡い光が浮かび上がる。

 方向からして神林町六丁目の丘らしい。あの付近には広い公園があるからそこを占拠しているのだろうか。

 幾らなんでもあからさま過ぎる。誘っているのだろうか。だけど。

 岩淵の警告が奏の脳裏に過り、自責の念で胸が締め付けられる思いがした。自分が軽率な行為のせいで限定され始めている。自分のせいで町の人を巻き込んでしまった。

「どうしよう……。おばあちゃん、家で一人だけなのに」

 動揺してうろたえ始める由実に、奏は落ち着いてと由実の肩を掴んだ。

「とりあえず下に行こ。服は私のを貸すから」

 二人がセーターやジャケットを着込んで一階に降りると、居間では母が不安げな顔で受話器に耳をあて、弦太は画像が乱れて映らなくなったテレビのチャンネルを次々と変えている。

「駄目ね。こっちも全然繋がらない」

 奏と由実の顔を見て、力なく頭を振って母は受話器を置いた。

「さっきの放送の声て、奏をさらった連中なのか?」

 弦太が尋ねると奏は無言で頷いた。

 ちくしょうと弦太は恨めしげに窓の外を覗いた。

「弦太、奏。部屋からありったけ布団をここに持ってきて。とりあえず今晩はここで過ごすことにしましょ。私は懐中電灯とロウソク探してくるから」

 避難用具は階段の下の倉庫にしまってある。探しに居間を出ようとする母に、由実が近づいておばさんと声を掛けた。

「私……、家に帰らないと」

「何を言ってるのよ?こんな猛吹雪の中を外に出たら死んじゃうわよ?さっきの放送を聞いていたでしょ?単なる大雪じゃないのよ」

「でも、ウチの祖母は最近、身体の調子崩していて……。こんな寒さのなかを一人でいたら……」

 感情が抑えきれなくなり、由実の表情がみるみる崩れて両目から涙が溢れ出てくる。背を丸めてむせび泣く由実を母はそっと抱いて優しく背中をさすった。

 その時、灯りが消え室内が真っ暗となった。奏が窓に駆け寄ると近所の家々の灯りや街灯も消えて真の闇と化している。

 慌ただしい足音と待ちなさいという母の声が背後から響いた。

「由実ちゃん、駄目だよ!」

 奏が慌てて玄関に向かうも、凄まじい吹雪が玄関口から流れこみ立っているのがやっとだった。何とか目を開けると既に由実の姿は無く、開け放たれた扉から流れ込む吹雪だけが見えた。ゴンが吠えて外に向かって吠え続けている。雪の光に反射してぼんやりと玄関の様子はわかるものの、そこから先は闇の世界が広がっている。由実の靴は置いたままで、手当たり次第にある靴を履いて外に出たらしい。

「奏、戻りなさい!」

 母の叫び声に「由実ちゃんは近くにいるから!」と怒鳴り返して外へ飛び出した。足跡を追って吹雪が視界を覆い、由実と思われる足跡も雪と風が吹き消そうとしている。だが、それでも構わず奏は駆けた。


 由実ちゃんを絶対に助ける。

 みんなの幸せな時間を奪い、こんな目に遭わせたあの人達を絶対に許さない。

 怒りが炎のように心の内から噴き上がり、怒りはそのまま言葉となって闇を切り裂くように叫んだ。


〝轟天丸、ゴー!″と。


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