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思念強化系少女轟天丸  作者: 下総 一二三
10/20

薙ぎ払え! 轟天丸

「来ました! 奴です!」


 監視役としてレーダースクリーンで轟天丸を追っていたマシン部隊の一人が、コックピットのスクリーンに警告をしらせる赤い三角印を示して警告音が鳴ると悲鳴に近い声を上げてソレナリオに報告する。

 大地に寝そべったまま動かないでいるA・Iの状態を確認する時間も与えられず、全隊、用意をしろと短く指示をすると、兵士の間には緊張感が奔りマシン部隊と警備兵たちは一斉に銃口や砲口を上空に向けた。

 だが、A・Iを一撃で吹き飛ばした力を目の当たりにしてどの兵士の顔にも動揺と恐怖の色が浮かび向ける銃口はばらばらだった。


「奴の詳細な位置と距離を教えろ!」

「角度にしておよそ七五度。距離で高度約2000!あの雲の向こうにいます。到達時間はあと30秒!」


 警備兵が指示した先にはぶ厚い積雲が広がっている。ちょうどソレナリオの真上に近い。


「いいかい! 奴がどんなに強かろうと、今の奴はまっすぐ落ちてくるだけの完全無防備な状態だ! 向こうからわざわざ弾に当たりにきてくれてんだからね!」


「……」

「奴が雲から顔を出したら弾尽きるまで一斉に撃ちな! こんな大事な時にもったいぶるケチな男は女から嫌われるよ!」


 ソレナリオの軽口に、それまで未知の敵に対する恐怖に包まれていた兵たちの空気が一瞬だけふっと和みを見せた。そして監視役の兵士が残り一〇と告げると再び空気が張り詰め兵士たちは照準を雲に合わせる。

 だが、兵士たちの顔からは恐怖の色は消えている。アングランドの連中は、所詮は世の外れ者に過ぎない男たちの集団である。それを見事にまとめて見せた。コワイネンは夜の歓楽街にいる女にしか見えないソレナリオの横顔を眺めながら、内心大したものだと感心していた。


「来ます!」


 監視役が告げた一瞬の静寂の後、群青色の空にぽっかりと浮かんだ雲を掻き消し、轟天丸の巨体が姿を現した。ソレナリオが言い表したように文字通り「落ちて」くる。


「撃てい!」


 ソレナリオの努声が響くと、兵士たちの銃口や〝タイタン″から一斉にミサイルや弾丸が放たれる。銃弾は轟天丸の身体から弾かれ、無数のミサイル弾が襲いかかって轟天丸は動じない。


 轟天丸は身の内から溢れてくる力が、何十人、何百人もの人間を殺傷することが可能な兵器や火器を持つソレナリオらよりも、はるかに凌駕した力を有していることを確信していた。

〝スレッド″内に仕組まれた思念強化装置の情報が、轟天丸の脳へダイレクトに伝わり新たなる力の存在を告げる。

 轟天丸は右の掌を僅かに開いたまま力をこめる。周囲の大気が揺れると手の内に小さな光が生まれた。光は奇妙な歪みを見せながら肥大し膨大ぼうだいなエネルギーの塊となっていく。


「なんだ……?」


 ヨワルスキーが声を上げた刹那、轟天丸から〝轟掌波″と野太い声が耳に届いた。どちらかというと落ち着いた声色だったのにミサイルの発射音や銃声よりも鮮明に聞えた。光が広がり、高熱を伴ったエネルギー波がソレナリオ達の頭上に広がって行く。


「伏せ……っ!」


 近くでコワイネンの声がしたが、その声が途切れた。

 貫くような閃光で目が眩んだかと思うと荒れ狂う衝撃波が轟音とともにソレナリオや〝タイタン″などアングランドの兵士たちを次々と吹き飛ばしていった。ソレナリオの視界が土砂で遮られ急に真っ暗となった。だが宙に浮いているような感覚はまだ続いていて、ソレナリオ達は上か下かもわからないまま暗黒の濁流に流され続けていた。

 土煙が晴れ、焦土と化した地面に轟天丸がぽつりと佇んでいた。

周囲には大破した〝タイタン″の残骸がそこかしこに散らばっていて兵士たちは地面に突っ伏したまま一様に呻き声を上げている。見たところ骨折程度の怪我人が多数いても死者までは出ていない。轟天丸はそんな彼らの姿を確認すると、自分のパワー調整が上手くいったことに満足して『大成果』とひとつ大きく頷いてみせた。

 ソレナリオ達の姿を確認出来ないのが気になるところではあったが、今の爆音はおそらく麓の町にまで届いている。

 間も無く地元の警察や消防などが駆けつけてくるだろうと判断した轟天丸は、一刻も早く退散するべく岩淵が待つ崖の下へと静かに飛び降りて行った。

 ああ、もう悔しいと女の甲高い声でコワイネンとヨワルスキーは目を覚ました。

 目を開けるとそこは木の上で、一番上にいるソレナリオが泥と煤で顔を真っ黒にさせたまま駄々をこねるように喚いている姿が見えた。それから互いの顔を確かめるとソレナリオと同様に真っ黒で思わず苦笑いを浮かべた。


「大丈夫か? ヨワルスキー」

「ええ……、コワイネンも元気そうで」


 顔や服についた泥や草木を払いながら、ヨワルスキーは生きていたことに対する神への感謝や安堵感で深いため息を漏らした。

 幸い三人とも擦り傷程度で済んだのは森の木々が守ってくれたのだろう。気持ちがいくらか落ち着きを取り戻すとヨワルスキーは他の部下たちはどうなったのだろうかと気になり、通信機をしまったはずの下衣の後ポケットを探ったが、ヨワルスキーの尻を守る代わりに粉々に砕けて使い物にならなくなっていた。通信機を投げ捨ててコワイネンを見ると、意気消沈した様子で自分専用の通信機から顔を上げて首を振った。


「アンタら、いつまでぼんやりしてんだい!グズグズとこんなとこにいたら捕まっちまうよ?早く逃げて本部に報告しないと!」

「いや、ソレナリオ様。このまま本部に帰っても……」


 岩淵に逃げられ、圧倒的な力を持つ化物とはいえ一人の人間によって部隊を壊滅させられたという不始末を本部が見逃すとも思えなかった。無法者が集まるアングランドをまとめるには鉄の様な厳罰主義が必要とされる。おめおめと本部に戻れば見せしめとして三人ともども処刑されるのがオチだろう。


「〝帰る″なんて言ってないだろ?」


 よっこらせと言いながらソレナリオが降りてくる。


「このまま日本に潜伏して、あの〝ゴウテンマル″とかいうふざけた奴と岩淵を見つけ出して倒せばいいのさ。そうなりゃ少なくとも殺されまではしない。それにアングランド日本支部は大きな被害を受けたが全滅はしていないよ。私ら三人が残ってんだからね」

「しかし、我々だけでは無理でしょう」

「あんたらの通信機を本部につなげられるようにして兵器をもってこさせりゃいいだろ。大規模な援軍は無理でも一体くらいは何とかなる。交渉は私がやるから」

「……」


 三人の間にこのまま雲隠れという考えもなかったわけではない。

 しかし、アングランドは脱走を任務の失敗よりも重く見る。

 確実な死があるとわかっていても任務を遂行する者には組織もある程度の支援をするが、逃げれば岩淵の行方よりも力を入れてソレナリオ達を追い続け、拷問を加えた後に処刑が待っている。その苛酷さ凄惨さはソレナリオ達も関わった経験が何度もあるから身に沁みて良くわかっている。倒れた部下も日本で逮捕されても一応の保護が得られるが、それぞれの国に帰された後、彼らに何が待ち受けているか。できれば兵士の一人でも多く連れて行きたいのがソレナリオの本音であったが、今は自分たちのことで手一杯だった。

 部下の存在など忘れたように、ソレナリオは努めて明るい声でヨワルスキーにA・Iの面倒を見なと命じた。


「A・I?」

「アイツは動かなくなっても、頭の中にある人工知能までは壊れてないだろ?出来ればウチらで独占しときたかったけど、あれを本部のボスに渡して少しでもご機嫌をとっておかないとね」

「……」


 A・Iに搭載されている人工知能は、元が柴犬に使われていただけにそれほど大きいわけではないが、構造が複雑かつ繊細で下手に取り扱うと壊れてしまう。ヨワルスキーでも僅かな時間でA・Iから無事に取り出せるかどうか自信がない。眉を顰めたがその意を察したかのように、なに心配してんのさと高い声がさらに高くなった。


「壊れていれば直せばいい。機械は人間と違って、壊れていたってそれなりに価値はあるんだ」

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