初夏…霧雨のナカ…。
花水木の季節も終わり、制服は冬服から夏服に変わる。
僕達男子にはちょっと嬉しい時期が来た。
女子の白い半袖のブラウスから透ける身体の線がなんともたまらなく、後姿でも制服の中を想像してしまう。
「瞬くーん。」
僕の名前を呼び咲良がかけて来た。
「どうしたの、咲良?。」
「一緒に帰ろうよ。」
「うん、いいけど。」
ニッコリ微笑む咲良。
最近、クラスの男子の中では咲良の話で持ちきりだ。
夏服を着た透き通るほど色の白い綺麗な咲良。
みんな咲良とやりたいと思っている。
僕は…。
「なんかこの時期って嫌だなぁ…。」
咲良は曇った空を見上げ、気だるそうな顔で言う。
「どうして?。」
「汗…かくし、雨があまり好きじゃないのね私…。」
「雨か…そうだね。」
僕もあまり好きじゃないな。
「私、春が一番好き。ねぇ、瞬くん、私の部屋のカーテン桜色なの知ってる?。」
「えっ?。」
咲良が聞いた桜色のカーテンの事に、僕は動揺しそうになったがそれを必死で隠す。
…咲良の部屋のカーテンが桜色なのは知ってる。
「綺麗な桜色のカーテンなんだよ。」
ニコニコ微笑む咲良の顔を見て僕は、咲良の部屋の桜色のレースのカーテンが夜風に靡く事も咲良と咲良のお兄さんとの行為も知ってる、と心の中で呟く。
げど、
「ふーん、そうなんだ。気づかなかった。」
僕は知らないフリをする。
「ねぇ、瞬くんちょっと寄り道していかない?。」
「ん?。」
咲良は僕が返事をする間もなく僕の手を握りしめ走り出した。
僕はまた、咲良に手を引っ張られ どれだけ走っただろう?。
咲良は隣町のある公園で足を止めた。
「はぁ、はぁ…ここ。」
「んはぁ…咲良、意外と足が速いんだね。」
僕は唾を飲み込み辺りを見回す。
公園を囲むようにして綺麗に植えてある藍色の紫陽花が見事な花を咲かせている。
「綺麗…。」
「でしょ?、私この時期は嫌いなんだけど、この時期に咲く紫陽花はすごく好きなんだ。」
瞳をキラキラさせ、嬉しそうに話す咲良を見て僕もなぜか嬉しくなる。
「雨に濡れるともっと綺麗に見えるんだろうね。」
「そうだね。雨は嫌いだけど、雨に濡れるここの紫陽花…瞬と一緒に見てみたいなぁ。」
「…。」
僕と見てみたい?どうして僕なんだろう?…僕はふと、そう思った。
咲良ならいい男すぐできると思うし…なんで、僕なんだ?そんな疑問が沸いてくる。
こんな勉強しかできない男。咲良の兄貴とは比べ物にならないくらい背は普通だし、顔もカッコ良くない、ただ普通の僕。
「瞬くん。」
「…。」
「瞬くん?。」
僕を呼んでいる咲良の声に気づかないで、ただ黙って紫陽花を見ながら考え事をしている僕の顔を不思議そうに覗く咲良しのドアップの顔に僕は驚いた。
「わぁぁ…。」
「ひどい、そんなに驚かなくてもいいのに…。」
少し膨れた咲良の顔。
僕は、ある事が気になり、咲良に聞いてみる。
「咲良は、好きな人…いるの?。」
「えっ…?。」
「あっ、ごめんっ、ごめん。」
咲良はまた不思議そうな顔で僕を見てる。
なぜか知らないけど無性に恥ずかしくなった僕はその場を離れようとした。
わ、どうしよう?…変なこと聞いた。
なんで聞いたんだ…。
歩き出した僕の手をぎゅっと握り締める咲良。
「瞬くんっ。」
「あ、雨が降ってきた。」
空を見つめる僕…。
空から優しい霧雨が僕と咲良を濡らす。
「瞬くん。」
(あ…。)
僕を呼んだ咲良の顔を見た僕に咲良は、そっと、キスをした。
足のつま先から頭の天辺まで走る、痺れのような感じ。
なんなんだろう?…この感じ。
15年間生きてきた中、初めて感じたなんとも言えない感じ。
僕の産まれて初めてのキス。
「咲良…?。」
「瞬くん切ない顔…してる。」
微笑む咲良…。
白いシャツとブラウスから…透けるふたりの肌…。
僕と咲良は手を繋いだまま、公園の片隅にある運動場の備品庫に向かう。
その後の事はあんまりよく覚えていない。
ただ覚えている事は、人の身体がこんなにも温かくて、こんなにもサラサラして、気持ちがいいんだという事…。
高校生の男の子ってどんな感じなんでしょうか?。
よく分からない…。
きっと、瞬のような感じの男の子はいないんだろうなぁ…。
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PS.霧雨、季、秋でした。(失敗)