夏の終わりと共に…。
最終話です。
次の日の朝、玄関チャイムが鳴る。
「んん?」
慌しくなる鳴るチャイム。
隣でスースー寝てるお兄ちゃんを揺すって起こす。
「お兄ちゃん、誰だろうお兄ちゃん?」
「んん、今何時?」
時計を見ると、朝の十時。
「わっ、もうこんな時間 」
「俺が、出てくるよ」
お兄ちゃんは服を着ると、下に下りていった。
私も急いで服に着替え、耳を澄ました。
「なんだ、まだ寝てるのか?」
パパの声だ。
「どうしたの?急に」
二人の会話を聞く。
「この家が売れた。香港に行く。こっちの学校やなんだかんだの手続きをしに帰って来たんだ。」
「はぁ?」
お兄ちゃんの驚く声が聞こえる。
(えっ?)
何それ?私、知らない…。
「咲良は?」
「上にいると思う」
急な展開で訳が分からない。
この家が売れた?
「起こして来い。」
「あ、うん」
私はお兄ちゃんが上に上がってくると同時に部屋から出た。
「お兄ちゃん?」
「聞こえてた?だってさ、はぁ〜」
お兄ちゃんはため息をつき引き返す。
「パパ、おはよう」
「咲、おはよう」
ニッコリ微笑むパパ。
「パパ、私達香港に行ってパパと暮らすの?」
「聞いてたのか?」
「八重子がいなくなった以上、家族別々に暮らす必要がないからな」
「…」
「アメリカの八重子の荷物はもう向こうで処分してもらったし、急で悪いが…二学期から香港の学校に通ってくれ」
「…」
私とお兄ちゃんは顔を見合わせた。
私は、お兄ちゃんと一緒なら…。
お兄ちゃんとの関係を新しい土地で、パパに認めてもらえれば…。
私は、「いいよ」と頷く。
お兄ちゃんはしばらく考え、ちょっと戸惑った感じだけど、「分かった」と、返事した。
「すまんな」
パパはそう言うとまた出かけていった。
「ほんとにあの人たちはいつでも急だな」
お兄ちゃんは苦笑いをした。
再婚も、ママのアメリカ転勤も、パパの香港転勤も、子供に何一つ相談なく決定した後に報告。
「ほんと、勝手だよね」
「今度は俺達が振り回してやろうぜ」
お兄ちゃんは私の顔を見つめ言った。
「お兄ちゃん…」
昨日、心に決めた事、私とお兄ちゃんは同じ事を考えてくれてるんだと確信する。
「驚くぞ、親父」
「だね」
言わなくても分かってくれる。
ずっと、一緒にいようね、お兄ちゃん。
これからまた忙しい日が続きそう。
咲良と別れてから、一週間後ぐらいに咲良からメールが届く。
明日、日本を発つことになりました。
連絡しようか迷ったんだけど、友達として連絡しておきます。
突然の事に驚いた僕は慌てて咲良の家まで走った。
気づかなかった。
引越しセンターの車が止まっている。
次々と出される荷物。
「咲良っ!、いる?」
僕が呼んだ声に、咲良はニッコリと顔を出す。
「瞬くん来てくれたの。どうしたの、汗びっちょり」
僕を見て、笑う咲良。
「あっ、びっくりして走ってきたから」
腕で汗を拭く僕に咲良は自分のタオルで僕のおでこを拭いてくれる。
「ほんと、瞬くんのそういうとこ好きだな」
咲良の言葉に胸を締め付けられる。
「ごめん」
俯く僕のおでこからタオルをそっと離し、
「明日、十時頃、ここを出るから茜ちゃんと一緒に見送りに来てくれる?」
「あ、うん」
「お兄ちゃん今いないし、茜ちゃんと会いたいと思うから」
「うん」
「じゃぁ、今日は忙しいから明日ね」
「うん」……
次の日、僕は茜ちゃんと咲良の家を訪ねた。
今日は、この夏で最高気温らしい。
朝から僕達四人の会話をかき消す勢いで蝉が鳴いている。
もうじき、九月なのにな…。
僕は咲良と、茜ちゃんは咲良の兄貴と咲良の家の前で握手をする。
「ありがとう瞬くん」
「元気でね咲良」
ニッコリ笑う僕達。
「ひなた、元気でね」
「ああ、お前もな」
二人もニッコリ笑う。
「さ、行こうか?」
「うん、パパ…」
「ああ」
咲良の親父は僕と茜ちゃんに一礼すると三人はタクシーに乗り込んだ。
「また会えたらいいね、みんなで」
咲良が言う。
「うん、そうだね」
「ひなた、バスケがんばってね」
「ああ、茜も砺波とがんばれ」
「えっ?」
咲良の兄貴は僕を見てニッコリ笑う。
初めて、咲良の兄貴の顔を見た感じがする。
僕は茜ちゃんの手をぎゅっと握る。
「じゃぁ」
「うん」
タクシーが動き始める。
僕と茜ちゃんはタクシーが見えなくなるまで見送った。
「あの二人、ずっと一緒にいられるよね」
僕は茜ちゃんの手をぎゅっと握り締める、僕の気持ちに答える様に僕の手を握り返す茜ちゃん。
「うん」
「なんか不思議な兄妹だった」
「あは、そうだね」
暑い暑い夏はまだ続きそう。
「夏休みの終わりの日、二人で何処か行こうか?」
「いいね、瞬おごってよ」
「任せとけよ」
僕は隣のお姉ちゃんの茜ちゃんが好きだ。
色々あったけど、茜ちゃんを大事にしていきたい。
夜、僕の部屋の北側の窓から今はもういない咲良の部屋の窓を見る。
春の夜、この窓から始まった不思議な恋。
人生に起こるすべての事を全部経験したような感じが、オーバーだけどする。
ベットに入り、春の事の懐かしく思う。
咲良…幸せになるんだよ。
僕は眠りにつく…。
朝早くに茜ちゃんの電話で起こされる。
「んん?」
携帯電話を探す。
「もし、もし…」
『瞬、私、行きたくないっ!!』
何がだよ?朝から大泣きの茜ちゃん。
まだ半開きの目を擦る僕。
「は〜何処へ?」
まったく朝からなんなんだ?
『お父さんの仕事の都合で、家族みんなでドイツに行くことになったの。ふえ〜ん。』
「えっ?」
な、何、言ってる?
これは夢だよ、僕は夢を見ている???
慌ててパジャマのまま茜ちゃんちへ走り、玄関チャイムの存在を忘れ玄関ドアをどんどん叩く。
「茜ちゃ〜ん」
「あら、瞬くんどうしたのパジャマで…?」
のん気な顔で茜ちゃんのお母さんがドアを開き僕を見る。
「おばさんっ、ド、ドイツ行くんだって、本当?」
「あらっ、情報早いわね。ふふっ、本当よ」
「あ、茜ちゃんはいる?」
「二階よ」
「お邪魔します」
慌てて茜ちゃんち階段を上り、「痛っ」足を踏み外し脛を打つ。
すごい痛いけど…痛いけど、でも僕はそんな事はどうでもいい。
痛いのなんかどうでもいいっ。
今は茜ちゃんが先だ。
「茜ちゃんっ!」
「瞬っ!」
「うわぉ…」
ドアを開けたと同時に茜ちゃんが抱きついてきた。
「一ヶ月後だって〜、ふえ〜ん。嫌だよ〜」
一ヵ月後…?。
後、一ヵ月後?
「茜ちゃん…」
この間からバタバタと次々と…僕はもう…何がなんだか分からない。
泣いてる茜ちゃん…。
泣きたいのはこの僕かも…。
僕はどーなるんだよ?
慌しく一ヶ月も見事過ぎようとしている。
季節はあっという間に秋。
制服が冬服変わり、この制服のグレーと同じで僕の心はどんよりしている。
明日は茜ちゃんがドイツに発つ日。
僕達は別れを惜しむ様に、何度も愛し合った。
多分もう二度と会えないと思う。
茜ちゃんは何度も『離れたくない』と言う。
僕も『放したくない』と言う。
でも、時間は無情にも僕と茜ちゃんの別れを待ってはくれない。
朝、茜ちゃんちの前で僕は両親と近所の人達と一緒に茜ちゃん家族三人を見送る。
茜ちゃんと僕が好き合ってる事は誰も知らない。
知らないから、僕と茜ちゃんは握手をして
「瞬、仲良くしてくれてありがとね」
「うん、向こう行ったらたまには手紙ちょうだいね」
そんな他愛もない会話でさよならをする。
僕は茜ちゃんも咲良達と同様、見えなくなるまで見送った。
結局、僕は一人になった。
ゆったりと、でも、足早に過ぎていった様な日々…。
甘いような酸っぱいような不思議な日々。
僕は静かにゆっくりと歩く。
まだなんとなく生暖かい十月の風が僕の横を吹き通る。
僕はふと足を止め、振り返る。
誰もいない…。
「あっ、雨が降ってきた」
空を見上げると霧雨が僕の顔を濡らす。
僕は忘れない…あの二人の兄妹と隣に住んでたお姉ちゃんを…。
最終話まで読んでくださった方ありがとうございます。感謝いたします。
ゆっくり丁寧に書こうと決めて書き始めたこの物語も結局早く雑に終わらしてしまったかも?と思います。
(相変わらず描写が…)
もしよろしければ感想など…。
希凛希