花水木。
僕の家の前には白色の花水木が街路樹として植えてあり、咲良の家の前には赤色の花水木が植えてある。
春、4月から5月の終わり頃まですごく綺麗に花を咲かせる。
僕は小さい頃からなんとなく花水木の花が好きでこの時期になると、家を通り越しよく寄り道というものをした。
それは高校生になった今でも変わらない。
青い空と花水木。
僕はゆっくりと眺めながら歩く。
「砺波くん、何してるの?。」
目線をさげ、声の方を見ると、薄い桃色のワンピースを着た咲良が不思議そうな顔で僕の顔を見ていた。
「妻夫木…。」
「なに…してるの?。」
「あれ、見てる。」
僕は花水木を指差し、咲良はその指の先を見た。
「あ、花水木見てたんだぁ。」
僕達ふたりはしばらくの間、花水木を見つめた。
「好き…なんだ、小さい頃から…綺麗だろ、あの花。」
「うん。私も好きよ。でも、花水木の花って本当は真ん中にあるあの緑色の目立たないのが花なんだよ。」
「えっ、そうなの?。」
咲良は目を細め、切なそうな顔で教えてくれた。
僕はそんな咲良の顔を見てると、咲良がとても近親相姦なんて事をするような子には思えなかった。
人は見かけによらない…。
そんな言葉が頭に浮かぶ。
「なんか、この道隔てて白色と赤色の花水木なんて、けして触れ合う事のできない男の人と女の人みたいだね。」
と、咲良は言う…。
「あー。」
「なんてね。」
「はは…。」
咲良の意味深な発言と咲良。
けして触れ合う事のできない男女…。
僕は咲良という女の子がミステリアスに感じ、僕の頭はまた変になりそうになった。
一緒に花水木を見てから、僕と咲良は会えばよく話し学校へもよく一緒に行き帰りするようになり、呼び名もいつしか『砺波くん。』から『瞬くん。』、『妻夫木。』から『咲良。』へと変わる。
きっと、普通なら近親相姦をするような人間を不潔と思い、一緒にいるのも嫌だと軽蔑、敬遠する。
けど、僕はなぜか違う。
あのふたりの行為を美しい芸術の様に感じ、不潔、なんて言葉で片付けたくないと思った。
僕は変わってるのか、オヤジか?。
まぁ、そんな事はいいや。
「なんか喉乾いた、ジュースでも買いに行こっ。」
机の引出しを開け、財布をジーンズのポケットに入れ、僕は窓の外を見た。
「あっ。」
春の夜風に揺れる桜色のレースのカーテン。
「咲良…。」
実の兄に愛撫される咲良。
咲良は…あのふたりは、何を思い、何を感じて、世間ではタブーとされる行為の海に身を泳がすのか?僕は知りたいと思う。
あの時の様にまた窓から消えていくふたり…。
「あ、そうだ…ジュース、飲みたかったんだ。」
僕は、何も見てなかった様に部屋を後にした。