花が枯れる頃。
ずーっとひなたを避けてる私…。
学校ではクラスが違う事とひなたはバスケ部で忙しい事が救い。
一年の子がひなたに告白した事をまた耳にする。
告白…って聞くたびに、ひなたが私よりその子を選ぶんじゃないかとドキドキした。
でも今は、ひなたは私より告白した子達より、咲良ちゃん一人しか見えてないんだと知っている。
諦め…?が、あるからこんなに冷静にいられるのかな?
「なんか茜最近元気ないね」
「そう?」
「妻夫木と喧嘩でもしたの?」
「してないよ〜」
「あいつも最近元気ないらしいよ」
ひなた元気ないんだ…。
「あ、ほら、バスケ忙しいじゃない…疲れてるらしいよ」
「忙しいしモテル彼を持つと彼女は大変だね?」
「あはは…」
モテル彼か…。
他の女の子だったらどうなんだろう?他の女の子なら諦めはつかないのかな?
咲良ちゃんだからかな?本当の妹じゃない義妹だからかな?
もう訳が分からない。
そんな事を考え俯いて歩いてたら、誰かにぶつかった。
「痛っ。」
「あ、すみませ…」
謝り顔をあげるとぶつかった相手がひなただと知る。
「俯いてると危ないぞ!!」
「あ、ごめん」
「俺がお前の前を塞いだ事も気づかなかっただろう?」
優しく笑いながら言うひなたに私はドキッとする。
「うん…」
「ったくお前は。カバン持ってやろうか?」
「いい。あれ、ひなた今日部活は?」
「サボった」
「どうしたの、何かあったの、あっ、もしかして体の具合悪いの?」
ひなたはあれこれ忙しく聞く私をいつもの様に呆れた感じで微笑み、
「もう一度やり直そう」
「えっ?」
私は驚いてひなたから目線をそらした。
「っていうか別れたつもりはないけどね」
「私…」
「俺はお前が好きだから…じゃぁ」
真剣なひなたの顔、ひなたは手を振りまた校門へ入って行く。
「ひなた?」
「やっぱ部活行くよ」
それ言う為にわざわざ待ってたの?
諦めてたひなたを…少し…もう一回信じて…。
みよう…か…な?
そう思いかけた時、私の頭にふとある笑顔が浮かぶ。
それは、瞬の顔。
瞬に相談してみよう…かな?
自分で決められなかったら、瞬に相談…してみよう。
一学期終業式。
これから長〜い夏休み!
みんな朝からウキウキの気分でテンションが高い、一応テストの赤点も免れ補習も受けずに済んだ僕もちろん。
明後日、咲良と計画していた海に行く予定。
「では、羽目を外さずに…」
「は〜い」
「瞬くん帰ろう」
「うん」
「何処行くお昼?」
「マ○ドでハンバーガーでも食べようか?」
「うん」
「行こう」
今から咲良と水着を買いに行く。
瞬くんのタイプの水着を選んでと言うけど正直どんなのがいいかなんて…。
僕は、ビキニがいいなんて言えないし…。
ビキニなんて咲良に着させたら他の男にいや〜な目で見られるし…。
咲良と歩きながら咲良がいる事を忘れブツブツ頭で色々と考えてたら、
「瞬っ!」
茜ちゃんに声をかけられた。
「あわぁ」
「そんなびっくりしないでよ。瞬、今日暇?」
僕は咲良の顔を見ると、
「あ〜、咲良ちゃんと出かけるんだ」
「あ、うん」
「夕方は?」
「うん、いいよ」
「じゃぁ、後で」
「うん」
僕は不思議そうに頭を傾げ、咲良と目を合わせた。
「なんかあったのかな?」
「お兄ちゃんとどうかしたのかな?」
夕方部活を終え、学校から帰ると玄関のドアの鍵が開いている。
「咲良〜?」
あれ?返事が無い…。
靴を脱いだ足元を見ると、最近見ていなかったミュールを目にする。
まさかっ!。俺は嬉しくなりリビングのドアをおもいっきり開けた。
「母さんっ!!」
「お帰り、ひなたくん」
優しくニッコリ微笑む母さん、半年振りに会う。
大好きな咲良の…俺の大好きな八重子さんがアメリカから帰って来ていた。
「どっ、どうしたの、お盆に帰ってくるんじゃなかったの?」
いつもの俺と違って声が弾む。
「うん、ちょっと仕事でね。元気で安心したわ」
「母さんも元気そうだね。しばらくいれれるの?」
「うんん、仕事が済んだら早く帰るわ」
「…」
俺は愕然とした。
明後日からバスケ部の合宿で行かなきゃならない。
「お盆には帰ってくるんだろ?」
「うーん、分からない」
瞬くんと買い物を済ませ、いつもの様に家の門の前で手を振り玄関のドアの鍵穴に鍵を指し込んで回す。
あれ、鍵がかかってない。
あ、お兄ちゃんもう帰ってる。
私は靴を脱ぎいつもの様にリビングに向かった。
お兄ちゃんと誰かの声がする。
この声は…あっ、ママ!
私はドアを開けようとドアノブを握る。
「どうしてダメなんだよ?俺は八重子さんの事がずっと好きなのにっ!!」
えっ、お兄ちゃん?
「ありがとう。ひなたくんの気持ちは分かるけど」
「俺には八重子さんしかいないんだ」
どういうこと?
私は目の前が真っ暗になる。
お兄ちゃんはママの事を…?
自分に優しかったお兄ちゃんを思い出す。
優しく抱いてくれたお兄ちゃん…お兄ちゃんはママを?
そっとドアノブから手を離し、ガラス越しの二人を見ながら後ずさりし、靴を履き家を飛び出す。
「っはぁ…はぁ…」
どれだけ走っただろう?
今までの優しかったお兄ちゃんがウソに思えてくる。
お兄ちゃんは…お兄ちゃんは、私にママを見ていたの、だから私を抱いてくれたの?
それなら私を抱いてくれた事が…。
いくら血の繋がってない兄妹でもそんな関係…おかしいよね?
今、分かった。
悲しい…。
私は…。
家に帰ってすぐ茜ちゃんが来た。
「ごめんね」
そっとベットに座る、また元気のない茜ちゃん。
「どうしたの?」
「うん…」
俯き親指と人指し指を擦り合わせている茜ちゃん。
夕方なのにすごく暑くて、コンポから流れる歌をかき消そうとするぐらい鬱陶しく鳴く蝉。
「暑いね、アイスティーでも飲む?」
椅子から離れた僕の手を掴み、
「いい、あのね…」
「えっ、いいの?」
ずっと手を離さない茜ちゃん。
「慰めて…くれない?」
「…」
慰めて…抱いてくれないって言ってる?
『僕が慰めてあげるから』と茜ちゃんに言った僕。
だから僕は茜ちゃんを慰めてあげないと…。
僕は咲良の事を思い出す…今は咲良と付き合っている僕。
なのになんだろうこの感じ。
僕は茜ちゃんにそっとキスをする。
茜ちゃんを抱いてあげなきゃ…。
もうどうしたらいいのか分からない。
どうしてだろうすごいショックでたまらない。
どんな顔してママとお兄ちゃんに会えばいいんだろう?
瞬くんに会いたい。
ひき返し、また来た道を戻る。
瞬くんに会いたい…。
瞬くんの家の玄関のチャイムを鳴らす。
あれ、誰もいない、瞬くん寝てるのかな?
ドアノブをひねって見る。
「あ、開いた」
静かな家、誰もいない感じ。
「瞬くんいないの?」
いいや、あがっちゃえ。
「お邪魔します」
階段を昇る、瞬くんの部屋から流れる歌。
やっぱり寝てるのかな?
「しゅ…」
瞬くんの部屋のドアの隙間から…見えた部屋の光景に私は言葉を失い、
頭を金槌で叩かれた様な感じがした。
物凄く愛し合った恋人同士の様な切ない行為に見える。
なんて言ったらいいんだろう?
そっと気づかれないように階段を降り、瞬くんの家を出る。
瞬くんと茜ちゃんの抱き合う姿が目に焼き付いている。
家にも帰りたくないのに…行く場所がない。
私は、どうしたらいいんだろう?