6.不安と甘酸っぱさ
「最初の反応で決めようと思った。どんな人間か、第一印象が大事だからな。そして、そなたは私に期待にこたえる形となった-―この娘なら、と思ったのだ」
それが、正妃候補とした理由?侑家に対抗するための?それとも、他にも・・・?
「それだけなのか、と思ったか?他にもある。侑家の他にも、有力貴族たちが自分の娘を正妃にとその座を狙っている。家柄だけが良い娘たちばかりだ。そのような家の娘をあげても、父親が外戚として力をつけ、発言権が増すばかり。国事にまで、口出しされるようなことがあってはならぬのだ。わかるな?」
「ええ、多少政治の世界はわかるつもりよ。そのために、家柄と機転のきく娘がほしかった、というわけね?」
「それが大きいだろう。だが、それだけの娘なら探せばいるだろう。私は、鈴音だからこそ、そばにいてほしいと思っている」
-――私だからこそ、そばに?その意味は、どうとればいいの?勘違いしちゃうよ、紫蘭。もしかしたら、帰れるかもしれない日本。帰れるかも、という 一縷 の望みを持ってるのに、違う望みを持ってしまったらそのとき、私はどうしたらいいの・・・
「どうかしたか、鈴音?気分でも悪いのか?すまない、話を詰め込みすぎたか。今日はここまでとしよう、ゆっくり休むがいい。・・・不安に思うことがあるなら、相談くらいはしてくれ。そうしてもらえると、嬉しい」
「ありがとう、紫蘭。お言葉に甘えて、機会があれば相談させてもらうわね。今日は、一緒に食事ができてよかったわ。それじゃあ」
「鈴音、こちらをむいてほしい」
「え?」
紫蘭に背を向けかけた鈴音だったが、声をかけられふりむくと、頬に手をあてられちいさく額に口づけられた。くす、と笑みがこぼれる。不安がよぎった心を、彼はよんだのだろうか?小さな気遣いが、すこしずつ心の中に沁みわたっていき、大きくなっていった。