10.待つという歯がゆさ
斉蓮が拘束されたのち、紫蘭がもう一度謁見を申し入れている間、鈴音は自分にできることをしよう、と斉蓮が留守の李家に連絡を密かにとった。表立っては動けないため、連絡方法は琉香に任せた。この国の民にしか、わからぬ方法もあると思ったからだ。
数刻後、鈴音の自室に一羽の鳥が舞い込んできた。迷い鳥だろうか?と手を伸ばすと鳥は足元をしきりと気にするそぶりを見せた。何か括り付けてある・・・手紙だ!しわにならぬよう、ゆっくりひらいていく。それは、斉蓮からの文だった。紛れもない、直筆であることがわかる。手紙には、こうなることはある程度把握済みで、ただ捕まったわけではないこと、無事であることが書いてあった。
「よかった、斉蓮様。。無事とわかれば安心だわ。紫蘭がきたら、知らせましょう。何か連絡がいっているかもしれないわ」
「そうですね、鈴音様。旦那様のことです、無策につかまったりなどしませんとも。意味あってのことなのでしょう?」
「ええ、そう。ある程度予測済みでつかまったとのことよ。さあ、おまえを解放してあげないとね。返事を書きたいけど、どうしたら・・・」
鳥をじっとみつめていると、ぴぃ、と一声なくと、行ってしまった。王太子宮からみて東の方角のようだった。東に何かあるのだろうか?そこへ、紫蘭が戻ってきた。鈴音を安心させるかのように、微笑を浮かべるとゆっくりと、近くにきて座るように促す。
「どうだった?紫蘭。私、ずっと気になって。鳥が一羽入ってきて手紙がくくりつけてあったわ。あれは、斉蓮様からの直筆だったわ」
「こちらは、父王に再度謁見をして、斉蓮をすぐに解放するよう、圧力をかけることにした。早期に解放されるはずだ。奴らとて、馬鹿なだけではない。何か、計算あってのことであろう」
「そう・・・すぐに解放されるのなら、いいのだけれど。私のせいだもの、窮屈な思いをさせてしまって。斉蓮様に謝らなくちゃ。迷惑をおかけしました、って。。」
うつむいて、ほっと安堵の息をはきながらも、もやもやしたものが胸の内に残った。この国にきて、最初に優しくしてくれたのは、他ならぬ斉蓮だった。早く斉蓮が解放されてほしい。そう思って、目を閉じ斉蓮の姿を思い浮かべる。安心なさい、といっているかのような、優しい笑顔だった。
「安心しろ、すぐに解放される。もう、知らせがくるはずだ。解放されたという、な」
「紫蘭―――ありがとう、安心する。本当に、ありがとうね」
「ああ。・・・泣くな、鈴音。どう慰めていいか、わからなくなる」
ぐす、と涙ぐみながら、紫蘭の胸に体を預け、その暖かさに安堵していった。その後、遙翔王子が、斉蓮が無事解放された、と息せききって連絡をくれたことに対し、心からの微笑を浮かべた。
「申し上げます、ただいま李 斉蓮様解放されたとの由にございます。ご安心くださいね、鈴音様。もう自宅に帰られ、明日こちらに赴きます、と聞いておりますゆえ」
「ありがとう、遙翔様。よかった・・・」
くた、と力をぬいたとたん、床に崩れ落ちそうになるが、紫蘭が抱き留めた。よほど、緊張していたのだろう。もう意識がない鈴音を、寝かせに行き体を横たえさせ、布団をかけて、紫蘭は遙翔と鈴音の自室を辞したのだった。