3 色彩魔法の譲渡
日が沈む頃。一回家に帰って報告した後、王宮の前に残っておいてほしいと女王様に言われたエンナ、ルーブ、サンは広場の中央にある噴水に腰掛けていた。
「――ってわけでさあ、母さんにすごい反対されたよ」
サンが話しながら首の後ろを掻いた。
「俺は弟と妹に説明するのが大変だった」
ルーブは脱力したように苦笑した。
「エンナは?」
サンが聞く。
「私はお母さんだけに報告したわ」
「エンナは一人っ子だもんな」
ルーブが言った。
「君たちかい⁉」
「⁉」
一人の青年が息を切らしながら三人の方へ走ってくるのが見えた。深い赤色の短髪に茶色い目をした、落ち着いた雰囲気のある青年だった。なかなかにハンサムだ。
「あなたは?」
「俺はアルバート。女王の側近だ。迎えが遅くなってすまない」
「いえ」
「今から女王様のところへ案内する。ついてきてくれ」
三人はアルバートに連れられ、王宮の中へ入った。入るとすぐ、三人は外と中の違いに気付いた。
エンナたちはアルバートに案内され、大広間にやってきた。部屋はものすごく広く、床には赤色をベースに獣のような柄が描かれた絨毯が敷き詰められていた。壁は白くプラチナのように輝き、天井は突き抜けるように高く、高価そうなシャンデリアがいくつもぶら下がっていた。
「あの、何で王宮の中は色があるんですか?」
ルーブの質問にアルバートが答える。
「女王様が言ってなかった?王宮には特別な水晶玉があってね、百年ほど前から世界に影響が出ない程度に色彩を吸い取って溜めてたんだよ。こういう非常事態に備えてね。その水晶玉の力で、王宮の中だけは色彩が保たれているわけ」
「それを解き放てばまた色が戻るんですか?」
ルーブは続けざまに質問する。
「んー……、そうしたとしても半分ぐらい色がつく程度だろうね。元の美しい色には戻らないだろう」
「じゃあ、何のために溜めているんですか?」
「それは、あとでわかるよ」
エンナたちが大広間の中央あたりに着くと、真正面の扉がバンと音を立てて開き、中からミルフィーネが姿を現した。
「まあ、勇敢な子どもたち‼ようこそいらっしゃいました、会えて嬉しいわ」
女王はいきなり三人にまとめて抱きついた。女王の豊満なバストが三人の顔に当たる。
「ちょ、女王さま⁉」
エンナは慌てて顔を女王から離した。大胆な人だな、とエンナは思った。
「勇敢な男の子たち、まだ名前を聞いていなかったわね。教えて?」
「ルーブ・スカイクロー。エンナと同じ、十二歳です」
ルーブはさり気なく女王の胸から顔を離すと何事も無かったように答えた。
「サン・エノワール……同じく、十二歳……」
サンだけが女王の胸に顔をうずめたままフゴフゴと答えた。
「こら、サン‼」
エンナはサンの背中のシャツを引っ張ると、女王から引き離した。
「ウフフ、いいのよ、子どもなんだし。母性を感じたいのよね?」
女王はニコニコと微笑みながら、右手を頬に当てた。
「子どもって、十二歳ですよ⁉赤ちゃんじゃないんですから!」
エンナはサンを横目で見た。微妙に顔を赤くしてにやけている。エンナはサンにしか聞こえないぐらいの小さい声で「スケベ」と呟いた。
「そろそろ本題に入りましょうか」
女王は両手にしている真っ白い手袋を引っ張り整え、綺麗なブルーの瞳でエンナたちを見た。
「えっと……調査って、主にどんなことをすればいいんですか?」
「俺たち子どもだけで、大丈夫ですかね?」
「装備して武器持って……戦いに出るってことですよね……」
サン、ルーブ、エンナの順に、不安や疑問をそれぞれ口にする。
「装備も武器もいらないわ。いるのは、あなたたち自身だけ」
『えっ⁉』
「まずは、話をしなきゃね」
女王は、今まで起きた出来事と三人に伝えるべき内容を、順を追って説明し始めた。
色が消えたのはダークネスの国王、ブラックの仕業だということ。
水晶玉はカラフィリアに三つあり、ブラックは王宮にあるものと同じ水晶玉を持っているということ。
水晶玉は色彩を吸収できる力を持っていること。
水晶玉をのぞくと、別の水晶玉が映したものが見えること。
「なるほど……だからブラックが色を吸い取ったことが分かったんですね」
ルーブが納得する。
「そして、これ」
女王は大広間の左奥にあるテーブルの方に歩いて行った。テーブルには大きな白い布がかかっていた。女王は品のある手つきで白い布を取った。
そこには赤、青、黄の直径三センチほどの三つの綺麗な珠が置かれていた。
「これは……」
不思議な魅力を醸し出す珠に見とれ、エンナは声を漏らした。
「色彩を吸い取った水晶玉から、色だけ抽出したものよ。これがあれば、色彩魔法が使えるわ」
「色彩魔法?」
「そう」
三人は怪訝そうな顔つきをした。エンナたちには魔法という概念は聞き慣れず、授業でも世界は科学の力などで発展してきたと教えられている。なので、三人にとって「魔法」は、空想や物語の世界のもの、というイメージが強いのだ。
「受け継いだ色の物を操ったり、創造したりできる。それが色彩魔法。あなたたちがこれから受け継ぐ力よ。あなたたちがこの力を得て、ブラックのいるアジトまで行き、色彩を封じ込めた水晶玉を破壊してきてほしいの」
「ブラック……」
サンが不安げに呟いた。
「本当は私が行ければいいんだけどね。王宮の水晶玉を守らなきゃならないから、城から離れられないのよ。だから、代わりにアルバートを護衛につけるわ」
「よろしく」
アルバートは三人に軽く頭を下げた。
「じゃあ、三人とも、覚悟はいい?」
ミルフィーネはエンナ、ルーブ、サンをしっかりと見つめた。
「ブラックは狡猾で自己中心な男よ。城に来るのが子どもだからって容赦はしないわ」
三人は唾を飲み込んだ。
「だから、しっかり色彩魔法を覚えて。あなたたち三人の力があれば、勝てないはずはないから」
「はい」
「わかりました」
「やります!」
エンナ、ルーブ、サンの順に答える。
「いい返事ね。じゃあさっそく、一人ずつ色の力を譲渡するわ。まずは三人とも、こっちへ来て」
女王は、右からエンナ、ルーブ、サンの順に横一列に並ばせ整列させた。
「エンナ、心に燃えるような情熱を秘めたあなたには赤を」
女王は赤い珠をとり、エンナの心臓のあたりにあてた。珠はエンナの胸に吸い込まれるようにして消え、エンナの体の中心が赤く光った。
「ルーブ、冷静さを求めるあなたには青を」
女王は先ほどエンナにしたようにルーブの胸に青い珠をあてた。
「サン、人の心を明るくさせる力があるあなたには黄色を」
最後にサンの体に黄色い珠を当てると、女王は三人の体にそれぞれの色が馴染むのを見届けた。
「気分はどう?」
女王様は額の汗を手で拭きながら訊ねた。疲れたのか、若干息を切らしている。
「なんか……体の芯が、熱い感じがします」
「俺もです」
「オレも。なんか、中でドクドクいって……」
サンが言い終わらないうちに、女王の全身がエンナたちの目の前で空を切った。そして、大きな音を立て大広間の床に倒れた。
「女王さま⁉」




