8 アーサー実家を出奔する
載せてって、だとまるで野菜を載せるみたい。それを言うなら乗せてって、だよ。そう思ったが、商人は驚いてしまってそれどころじゃなかった。
「あ、ああ。ここから一泊したところの農家に丁度寄るからそこでいいかい?今夜は野宿になるけれど……」
この長男、まだ十歳だよな……なんて礼儀正しいんだ……それになんかいい匂いがする……商人代表は奥さんも子供もいるごくごく普通の男だったけどそう思った。もうちょっと髪の毛がふさふさ欲しいお年頃。
「はい。お手数をおかけしますがよろしくです」
商人たちはすっかりアーサーにメロメロになってしまった。
辺境伯も素晴らしいお人柄だし、もっと中心地に近ければ、わざわざここまで来なくても頻繁に取り引き出来るんだがなぁ。商人たちは残念がった。
仕方ない。
あと半日も馬で北上を続けたら、魔物の森と魔物の国(New!)だからだ。
辺境伯領の宿命でもある。ただ、魔国の脅威があるおかげ(?)で周辺国はラザナキア国に攻め込んだりはしない。魔国に接してる国をそのままにしておけば勝手に防衛してくれるんだから滅ぼすわけない、って理由みたい。父から学んだことはなんのかんのいってしっかり身についている。
父の持つ派生スキル【教育 Lv2】
これが遺憾なく発揮されているのだが、辺境伯一家はそのことを知る由もなかった。
もう雨漏りは大丈夫!アスパラガスを売ったお金が修復代として使われることを父から聞いて、アーサーは胸をなでおろした。
雨の日のタライが大合唱になってたので本当に良かった。
そうと分かれば自分の持っている銀貨を有効活用して肉を手に入れようと心に決めた。
それも一時しのぎの食肉を買うんじゃなく、今後もずっと肉に困らないように。
出てくる時も心配はされなかった。でも、それでよかった。僕は、やると決めたから。
こうして肉を切実に欲した結果、アーサーは商人の馬車に乗って領主館を出奔した。
誰も家出だと思わないのがアクアオッジ家である。
「アーサーが見当たんない。どっか行っちゃった」
カーラがそう言うも、弟のレイファはしっかり予想していて、「父さま、厩舎を建てておいたほうがいいです」と伝えることも忘れない。
十歳の子供が家を出たのに、いつも通りご飯が出て、いつも通り父は畑を耕していた。
誰も慌てない。だって、アーサーはやると言ったらやる子だから。
それがアクアオッジ家の“通常運転”だった。
とはいえ、この大らかさ。アクアオッジ家だけの話じゃなかった。
実は、国ごとそんなノリだったりする。
【スキルツリー】
女神の加護を与えられてきたラザナキア王国の国民の気質はとっても大らか。
さすが川に囲まれた美しい城と王都を持つ国。
地形の厳しい場所に建ってないってことは、その国が平和ってことだもんね。