7 トウモロコシの種を手に入れたぞ!
そんな善良な商人にアーサーは大事に持っていた銀貨を取り出して交渉する。
「トウモロコシの種を持ってませんか?あったら銀貨一枚分売って下さい」
それを聞いた商人はしょんぼりしてしまう。持っていなかったからだ。
「銀貨一枚分なら三千粒くらいになるんだけど……あいにく売り切れちゃっててね」
商人の馬車は、領主館に着く頃にはほとんど空だった。
アクアオッジ領は貧しいと噂されていたから、あまり多くの商品を持ち込まなかったのだ。
何とかしてやりたい。そう思わせる何かがアーサーにはあった。
派生スキル【フェロモン Lv1】
多分、いや間違いなくこれのせいだぁ!
そのときアーサーの【スキルツリー】がピコンと鳴った。
長男(10)アーサー:
┗【動物スキル?】
├ 【フェロモン Lv2↑】(LvUP!)
└ 【動物交流 Lv1】
あらら。何とスキルがレベルアップしちゃった。
そこで一番若い商人がハッとして叫んだ。
「……あ!俺、確か見本品持ってたわ!ニ十粒くらいしか入っていない小袋だけど!ちょっと待ってて!」
そう言いながら御者台に置いてあった麻袋の底の底から、ずっと忘れ去られていてヨレヨレシワシワになった手の平サイズの布袋を持ってきてくれる。
それにしてもよく覚えててくれたもんだ。袋がへにゃへにゃになってても関係ない。種だ!種だ!なにそれ嬉しい。
「はい、これあげる。だいたい九十日で収穫出来る大型品種の粒なんだ」
アーサーは嬉しくて、飛び上がりたくなった。フゥ―!
「あ、ありがとうございます…!これでトウモロコシ問題は解決です!」
あとですぐ下の弟のレイファに粒を渡さなきゃ。きっと僕が考えるより最適な場所に植えてくれるだろうから。
商人たちは目配せしあう。ん~?トウモロコシの種はもういらないってこと?
三人が真っ先に思い浮かべたのは、アスパラガスがフサフサ生い茂る光景だった。もしかして、あの見本品のトウモロコシのニ十粒が、あんな光景になるなんて、こと、は……
ま、まさかねぇ~……。
アスパラガスの神秘を体験したばかりなので、そんなバカな、と思ってもこれまでの常識は一切通用しないのはよく分かった。
向こうから何か言ってくるまでは黙っていよう。そうしよう。
よし、トウモロコシ問題は解決した。
お次は、そう――肉だ!肉問題。
穀物は育てた。次はタンパク質だ。アーサーの挑戦は続く。
「通りがかりの畜産農家まで、銀貨一枚で馬車に載せて行ってくれませんか?次は、肉です!肉問題なんです!」