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そう言えばこんな友達がいた。
その子はシネラリアを育てるのが好きだった。庭にいくつもの鉢植えがあって
それを見て私が「きれいなフキザクラだね」と
言ったら「フキザクラじゃない、シネラリアだもの!」と頬を膨らませた。その子はシネラリアという名前が縁起が悪いというのをすごく気にしていて、だからこそ、その名前で呼ぶようにしてあげてたらしい。
「誰が付けたか知らないけれど私はシネラリアという名前が好きなの。この子たちもきっとそうだと思う」
いつかそんな事も言っていた。
あれから数十年、あの子は故郷を離れ、住んでいた家には別の家族が住んでいる。それは
仕方ない事だと思うが、気になったのはあの子が育てた庭中のシネラリアである。
全て枯れてしまったのだろうか、捨てられてしまったのだろうかと私はずっと不安でたまらなかった。しかし、この前、ふらっと行った街でシネラリアがたくさん咲いている家を私は発見したのだ。
まさかと思い、ガラスの向こうを覗くと、閉め忘れたカーテンの部屋に大の字になって寝ているあの子がいた。あの頃と顔は変わっていたが、確かにあの子だった。
隣にはあの子よりずっと小さな女の子が下着の裾をはみ出して寝ていた。その胸の辺りに花が置かれていた。
それをしばらく眺めて私は雨が降る前にそこから去った。鼻の先にシネラリアのにおいがまだ残ったまま