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第一話


「起きてください。もう朝ですよ」


 誰かの声が聞こえる。


 陽だまりの中で寝転がっている様な感覚で、あまりに寝心地がよくて起きたくなかった。


「──また朝食の時間がズレてしまいますよ? 夜にお腹が空いて眠れなくなるのは嫌だと言っていましたでしょ?」


 一体なんの話をしているんだろう。それに、俺に語りかけるのは一体誰なんだろうか。


 微睡の中でそんな疑問を抱きながら、俺は唐突にある事を思い出した。


 ──そうだ、会社に行かなくては。


「やばい! 今何時だ!?」


 瞼を開いて飛び起きると、視界に見たこともない光景が映し出された。


「どこだここ……?」


 俺が寝ているのは部屋のベッドではなく、真っ白なキングサイズのベッドだった。部屋は恐ろしいほど広く、どこからどう見ても、独身用アパートの一室とは思えない。


「ようやく目覚められましたか? 今は朝7時ですよ」


 いきなり声をかけられ肩が跳ねる。


 嫌な動悸を感じながら声の主を見ると、そこにはメイド服を着た人物が立っていた。


「……誰?」


「まだ寝ぼけておられるんですか? 水をお持ちしましたので、ひとまず顔を洗ってください」


 メイドは微笑みながら桶に入った水を差し出してきた。


 とりあえず言われた通りに水を掬おうとしたが、視界に映る自らの手に強烈な違和感を覚えた。


「手ちっさ……というか身体も小さい? なんだ? 夢でも見てるのか俺は?」


「坊ちゃんは早く大人になりたいって仰っておられましたので、きっと大きくなる夢でも見たんですね」


 メイドの女性は口元に手を当てて笑いながら言った。


 メイド喫茶の店員とは全く違い、まるでこの役目が彼女の生き様そのものであるかのような、自然体な姿だった。


「いや、今はそんな事はどうでもいい。もっと重要なのは──」


 小さくなった自分の体があまりにも不気味すぎて、視界の端に映った姿見へと歩いていく。


「坊ちゃん?」


 呼び止めるメイドの声が聞こえるが無視した。


 いや、無視せざるをえなかったと言うべきだろう。


 なぜなら、姿見に映る自分の姿が、あまりにも荒唐無稽だったからだ。


「銀髪に、緑色の目だと……?」


 俺は、姿見に映った自分の姿に目を疑った。それは知っている人物──いや、キャラクターだ。


 それは昨晩までプレイしていたゲーム【巨神戦争ヴァルキリア】に登場する、あの主人公の幼馴染で、物語を動かす重要なキャラクターだった。


 主人公の幼馴染であり、そして愛すべきモブキャラ。


 物語において、主人公の心情に変化を与え、そして成長させる役目を持つ存在で、序盤に舞台から退場させられるキャラ──ヴァン・シュナイゼル。


 俺はどうやら、大好きなゲームの死にキャラに転生したようだった。


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