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プロローグ


 部屋で俺は一人ゲームに没頭していた。


 薄暗い部屋の電気は一週間前に切れたままでまだ取り替えていない。


 ゲーム画面が映るモニターの光量だけが部屋を照らし、コントローラーを操作する音だけが響いている。


 今プレイしているのはつい最近発売されたRPGだ。


 綺麗な3Dグラフィックは現実と見間違う程の精巧な風景を描写していて、キャラクターはまるで生きているかのように滑らかに動く。


 PC専用のゲームで尚且つダウンロード版しかないため、世間では思ったより反響がないが、俺はこのゲームが気に入っている。


「あーやっぱ主人公最高だわー」


 俺はPCのモニターを見ながら独り言を漏らす。


 今プレイしているゲームの主人公であるベロニカ。


 彼女は俺の好みどストライクである黒髪のミディアムヘアに赤い目を持つ美女であり、一眼見てこのゲームを衝動買いしてしまった原因のキャラクターでもある。


 俺は現在25歳。


 大学を卒業してスムーズに就職したはいいが、特技もなく、運動神経がいいわけでもなく、ただゲームが趣味であるというだけのどこにでもいる男だった。


 特に社交的という訳でもなく、学生時代はまだよかったが、就職してからは見事に馴染めず孤立した。


 仲のいい同僚なんて一人もいなかったし、俺自身、趣味はゲームくらいで他の事には関心もなく、興味を持とうと努力する事すらしてこなかったのだから、話が合う人間がいないのは当然の事なのだが。


 このままではだめだ、と思った事もあったが、行動に移せるだけのエネルギーもなく、会社から帰って家でゲームをするだけの日常を繰り返すつまらない人間になってしまった。


 俺はなんのために生きているんだろう、と自問自答を繰り返す毎日を送っていた。そんな中、今プレイしているゲームに出会った。


 タイトルを【巨神戦争ヴァルキリア】といって、主人公がロボットに乗って人類に仇をなす巨人族と戦うというストーリーだ。


 最初は暇つぶしにでもなればいい、などと始めたゲームだったが、これが思っている以上に面白くてのめり込んだ。


 今まで目的もなくただ日々を消費していくだけだった人生が、唐突に色を持ったように感じたのだ。


 このゲームはストーリーも勿論よかったのだが、一番はやはり主人公であるベロニカだ。


 彼女は可愛さと格好良さを兼ね備え、何より俺にはない気高さを持っていた。どこか遠くて、でも手が届きそうな、そんな存在だった。


 彼女のセリフにハッとさせられた経験も多く、いつしか俺はベロニカの人生を見守っていたのが、共に戦っている様な気分を持つ様になった。


「もう終わっちゃうのか……」


 このゲームはもう佳境だ。エンディングまで秒読みの段階で、それが寂しくもあり、けれどベロニカの今までの頑張りが報われるのだと思うと満足感もあった。


 だからこそ、それはまるで青天の霹靂の様だった。


「──え……? は? ベロニカ死んだんだけど……?」


 大好きな主人公が、最後の最後に死んだ。


 笑みを携えたまま、炎に包まれ、主人公ベロニカの命は失われた。


 呆然としたままの俺の視界に、流れゆくエンドロールが映し出される。寂しくもあり、それでいて壮大なBGMと共に。


「いやいや……嘘だろ? ふ、ふざけんなよ!!」


 俺はコントローラーを床に投げつける。


「なんであそこから死ぬんだよ!? 主人公が死ぬことで、世界が平和になるなんておかしいだろ! こんな結末って、ありかよ! このクソゲーがっ!!」


 俺は肩で息をしながらPCのモニターを見る。


 エンドロールはほぼ終わりかけで、俺はそれすら見ていたくなかったため、部屋のベッドにダイブする。


「なんで……こんなのバッドエンド以外のなにものでもないだろっ!」


 俺の中ではベロニカが全てだった。このゲームにおいて、最高のカタルシスを得るにはベロニカが幸せになる事以外はなかった。


 それだけ俺はベロニカの苦悩や、努力、そして悲劇を見てきたのだ。


 なのに、その結末が死だというのか。主人公が死ぬことで完成するハッピーエンドだと言うのだろうか。


 結局、ベロニカは最初から最後まで報われなかった。


 精神的に凄まじいダメージを負った俺は、枕に顔を埋めながらヤケクソ気味に瞼を閉じる。


 まだモニターの電源はついているが知ったことではない。明日も仕事だし朝は早いのだ。もうこれ以上クソゲーに構っている暇はない。


「ベロニカ……」


 思わず漏れた名前を最後に、俺はそのまま微睡の中に沈んでいった。





 ――――――――――――


 薄暗い部屋でエンドロールが終わる。


 モニターが一瞬暗転し、その後、不自然にノイズが走る。やがて、そこに映し出されたのは──。




『これは一度目の世界の話』


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