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人間発電所

作者: Kyo ASAHINA

この国に着いてからずっと同じ仕事に携わっている。やってることは至って単純、人力で発電所のタービンを回すってこと。

イメージが湧きづらいか、じゃあ地面に直径1kmほどのアナログ時計みたいなのがあるとする。でその『時計』には長針のみがあり、それを300名ほどの労働者たちが朝9時から夜6時まで押し、回し続けるのだ。

そこには所長がいて、サボるやつは鞭で打たれる。

そもそもなんで俺がこんな理不尽な職場で働いているかと言うと、ある情報を盗み出すためである。

この発電所の親会社はこの国の国営研究所だ。この国は、ホゲトニア王国と言うのだが、そこの皇太子自らが所長であり、ホゲトニアが世界連合の盟主であり続けられる秘密は皇太子が核の数百倍の威力を持つ大量殺戮兵器、『ドザエモン』の設計、開発を行ったからと言われ、ホゲトニアが世界の警察、番人のような顔をしていられるのである。



てなわけで俺はまさにその情報を盗み出すため送り込まれたのである。

そもそも何でこんな仕事をやっているかと言うと元々俺は派遣で暗号解読の仕事をしていて、現場の社員の人にも「うちで社員にならないか?君の実力なら二年目からは年収1000万円は行くぞ」なんて言われ、実際そこの社員たちはそれくらいの収入をもらっていたわけで、「はい、こちらこそよろしくお願いします」なんて言いたかったのだが、全くあのファッキンな派遣会社と来たら、現場と面接をする際、『暗号解読をは6年やってました』って言ってね、などと指導するのである。つまり経歴詐称。

それまで何をやっていたのかと言うとレンタルビデオ屋の店員をやりながら劇団員、つまり役者を目指していたのだ。って言っても役者で成功するには年を取りすぎた。今からなれるものは何かと思い、求人雑誌を見てると暗号解読員の仕事があり、入社してみると派遣の安月給な生活になり、さらに納得行かないのは、現場の社員と自分との収入の差であり、そんな時、社員登用の話があったのである。

正式に社員になろうとする場合、社会保険の履歴やら何やらを会社に提出しなければならず、となれば偽の職務経歴もばれてしまい、非常に都合が悪いのである。

ああ困ったなと思っていたある日、劇団員時代の仲間、猿田が「今週末ヒマ?」と電話をよこして来た。


窓からはスーパーが見えて、その向かいには喜多方ラーメンの店。梅雨のムッとした空気が世界にヌメッとした覆いをかけたようにも見える。

で、俺はと言うと窓際でドリンクバーのアイスココアを飲んでいる。二階にあるファミレス。

「よお」テーブルに背の高い影が落ち、振り向くと約10分遅れで猿田が現れた。

俺も猿田も「もういい年だから」ってことでほぼ同じ時期に劇団をやめた。そして俺は暗号解読員に。猿田は陸軍に入隊した。

俺と猿田は劇団時代の昔話からお互いの近況など話してるうち、こんなことを言い出した。

「そっかあ、おまえもいろいろ大変なんだなァ。でもうちの情報部隊のやつに頼めば、保険やら何やらの履歴を書き換えるくらいわけないぜ」

「じゃあぜひお願いしたいな」

「そのかわり」

そらきた、と思った。ようするに正規の軍人ではない者でホゲトニアに侵入し、機密を取得して来れる者を猿田は探しており、多少暗号解読などの知識のある俺が頼みやすいと思ったのである。

そんな感じでホゲトニアに潜入した俺ではあるんだが、日々の発電作業にすっかりうんざりしてきた。

んで、俺は労働組合を結成したわけ。国同士のごたごたとかね、もうどうでもいいの。

「発電なんてやめちまおうぜ」俺はみかん箱にのぼり労働者たちに向かって訴えた。

手始めに俺たちは発電所の所長を倉庫に閉じ込め、発電作業を止めた。

発電タービンは24時間体制で回していた。少なくともこの10年は。

それが今夜止まり、俺たちは詰め所で酒を飲んだり、コサックダンスを踊ったりそりゃ楽しいぜ、って感じになった。

で、そのまま朝になったんだけど様子が変だ。

太陽が昇らないのである。というかうっすら黒い丸いものが上空に見えるのである。

そいで気がついたんだが俺たちが発電してたのって太陽のエネルギー源を発電していたのである。

だから部屋の蛍光灯もチカチカいってやがて切れて行って、やがて切れてしまった。だからろうそくなんかをどっかの引き出しから出してきて火を着けた。

そんな具合で数年が過ぎてすっかり世界は氷河期みたいになっちゃったんだが、あのファッキンなタービンを回すよかマシ。




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