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2 桜に惑う

 朝食を食べるために居間へ行くと両親と6つ年上の兄がいた。

 皆んなに挨拶をして、席につく。我が家は明治維新で社家から華族に列し、暮らしは豊かで、父が新しもの好きなこともあって西洋の文化をよく取り入れている。

 なので、家具には西洋風のものも多く、みんなで並んで食べる食事の席も立派な椅子と机がある。

 正座をすると足が痺れるから椅子があるのはありがたい。


「もう体調は良いらしいな」


 父の言葉に頷く。


「はい、すっかり元気になりました」

「悪いものでも憑いてしまったかと思いましたが、治って安心しました」


 母の言葉に少しギクリとする。悪いものというのはあながち間違いでもない。

 憑いてしまったというか、呼び覚ましてしまったというか。


「きっと季節性のものだったのだと思います」

「最近は急に寒くなる日もありましたものね」

「ところでお父様、新しい女中さんがいらしたのですね」

「ああ、昨日突然神社の方にやってきて、女中にしてくださいと頼み込まれたんだ」

「昨日、突然」


 あからさまに怪しい奴じゃない。

 兄もその様子を見ていたらしく苦笑いした。


「すごい大騒ぎだったよ」


 父もその時の様子を思い出したのか、顔を顰める。


「行くあてもない、夜になっても帰る気配もないので、仕方なく。まあ、最近辞めた女中がいたからちょうどいいかと思ってな」

「あんなに小さいのにきっと苦労したのでしょうね……桔梗さんと同い年くらいでしょう?」

「ええ、先ほど挨拶した時に7歳とお聞きしましたわ」

「やっぱりそうだったのね」


 母はウサギの耳を垂れさせ、心を痛めているようだ。

 我が家は、母はアナウサギ、父はアフリカスイギュウ、兄はニシキヘビの種族だった。両親の獣要素は私と同じく耳や角、尻尾が生えているくらいだが、父は顔の骨格が牛に近く、普通にしてても怖い顔立ちだ。兄は一見獣要素がないように見えるが、皮膚に鱗のようなものがあったり、舌が長く先端が割れている。

 ここにはいないが、隠居している先代神主の祖父は烏天狗の種族だ。


「あの子は種族を持たない。我が家で預かることが吉となると良いが」


 父は神職というより魔界の門番をしているほうが似合いそうな顔でため息を吐いた。

 種族を持たないというのはこの世界では幻想種であることよりも重宝される。何せ、狙って生まれてくる子供の種族を決められるのだ。国や貴族からすれば、確保しておきたい存在だろう。

 ゲームでも主人公は度々誘拐などに遭う。それが攻略対象との好感度上げイベントにもなるのだが……この家にいるときに誘拐されたらたまったもんじゃない。父もそれを憂いているのかもしれない。



 朝食後、巫女服に着替えた私は箒を持って境内に向かう。

 境内の掃除も大事な巫女仕事の一つだった。

 と、後ろからパタパタと足音が聞こえたので振り返ると、桜が箒を持って追いかけて来ていた。


「桔梗様、私もお手伝いします」

「えっと、これは私の仕事だから大丈夫よ。小町の手伝いをしてあげて」


 そんなに私を監視したいのかしら。

 今の私は妖力もなくてか弱い存在。心配しなくてもまだ悪事はできない。

 桜を無視して箒を動かす。季節は春。桜が満開で境内には花びらがたくさん散っていた。

 花びらに罪はないが、視界のあちこちに主人公が散らばっているようでムカムカするから、早く綺麗にしてしまいたい。

 ざあ、と大きな風が吹き、花びらが吹雪のように舞う。

 思わず目を瞑り、風をやり過ごしてから目を開けると、すぐ目の前に桜がいた。

 あまりにびっくりして思わず後ずさろうとして、木の根に足を引っ掛けて転びそうになる。


「きゃ!」


 ──転ぶ衝撃は訪れず、代わりに優しく誰かに抱き止められた。誰にって、目の前の少女しかいないのだけど。

 状況が飲み込めなくて固まっていたら、桜は私の頭あたりに手を伸ばす。

 何?!何する気!?待って、私まだ何も悪いことしてないから!

 思わずぎゅっと目を瞑ってしまったが、いつまで経っても何も起きない。

 ふっと笑う声が聞こえて目を開けると、あまりに優しく微笑む桜の顔が近くにあった。


「お髪にたくさん花びらがついていますよ」


 そう言って、桜は私の髪についていたらしい花びらを見せる。

 え?髪についていた花びら取ろうとしただけ??


「あ、ありがとう……」

「桜に囲まれている桔梗様は、一際美しいですね」

「へ?」

「どうかお気をつけください」


 桜は一礼してから、来た道を戻って行った。

 取り残された私はただただ呆然とするしかない。私を監視するのが目的なのよね?

 どういうつもり?

 どういうつもり??

 どういう、つもり???

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