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・氷山
王都を出てから勇者は1ヶ月間、村に泊まったり野宿をしながら目的地であるブルースター氷山へとやってきた。
既に気温は氷点下であり、分厚いコートに身を包む勇者は寒気で体が震えていた。
「さぁ、いこうか」
勇者は剣を抜いて魔力を込めると炎を生み出し周囲の気温を上昇させながら氷山を登って行く。
拠点になる洞穴がないか探しながら登って行くがそのような物は見つからない。
かれこれ登り始めて3時間が経過し、一旦諦めて下山をしようとしたその時、急に雪嵐が発生し周囲の視界を奪うと同時に体温を奪っていく。
「まずい!」
勇者は剣に送る魔力の量を増やして火力を増やしながら、真っ白な視界の中で下山を試みる。
しかし、勇者の魔力も次第に尽き始めて体温も下がって行く。
「眠気、、が」
勇者は強烈な眠気に何とか抵抗しようとするが魔力の尽きた勇者はなす術もなく倒れてしまう。
その瞳はかすかに巨大な熊のような物を捉えていたが、どちらにせよ勇者は抵抗できずに意識を手放した。
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「はっ!」
勇者は突如覚醒し起き上がる。
周囲は洞窟のようで近くには焚き火が組んであった。
そして勇者の目の前には巨大な白熊がこちらを見ていた。
「な!」
勇者は考えるよりも先に剣を抜いて炎を纏わせる。
「やめて。
ソニアはあなたの命の恩人だよ」
白熊の背中からひょっと女性が顔を出すと勇者を止める。
その女性の容姿は水色の毛並みだが、髪は無造作で毛先が顎まで伸びている。
「君たちが僕を助けてくれたんだね。
ありがとう、、」
勇者は剣を鞘に納め女性と白熊に対して頭を下げて感謝を伝える。
「エレナは何もしてないわ。
ソニアが寝ているあなたをここに運んでくれたの」
エレナと名乗る女性はソニアという白熊の背から軽やかに降りる。
「どうやらもう動けるようね。
だったらすぐに下山しなさい。
何の為にこの山を登ってたのか知らないけど、ここにいたら厄介に巻き込まれるわ」
エレナは勇者に冷たい視線を向けると背に背負っていた狼を捌いていく。
「厄介?
この氷山には何かいるのかい?」
勇者の問いにエレナは暗い顔を見せる。
「おおい!
エレナはいるか!?」
すると洞窟の外からとても大きな声が響いてくる。
「い、イエティ!?
今日は来ないはずなのに!」
エレナは狼を捌く手を止めて急いで洞窟の外へと出る。
その背後を怯えた様子でソニアが歩いて行く。
その光景に勇者は驚きつつ後を追いかける。
洞窟の外に出ると目の前には全身を長い体毛に覆われた巨人が立っていた。
「あ?
見ない顔だな。
何だエレナ、男でも攫ってきたのか?」
イエティは勇者の存在に気づくと小馬鹿にしたような笑みを浮かべエレナに問いかける。
「そんなんじゃない!
こいつは遭難してたから助けただけ!
それよりも今日はなんの用!?」
エレナは足が震えており、恐怖を押し殺しながらも強気にイエティと話しているようだ。
「つれねぇなぁ。
ただ腹が減ったから、食いもんを分けて貰いにきただけだっつぅの」
イエティはお腹をさすりながら空腹をアピールする。
「今週の食料はおととい渡したはずよ!!」
エレナがイエティに対して反抗の意思を見せるとイエティは笑いながらソニアを指差す。
「おいおい、あれじゃ足りなかったからここに来たんじゃねぇか。
何ならその熊を食っても良いんだぞ?」
イエティがソニアに向かってその巨大な手を伸ばすと、エレナが回り込んで両手を広げる。
「ご、ごめんなさい、、
分かったからソニアには手を出さないで、、
さっき狼を狩ってきたの」
エレナの言葉に手を止めたイエティは豪快に笑いながら手を叩く。
「そうだそうだ。
お前が大人しく俺の言うこと聞いてるうちはその熊には手を出さないでやってるんだ。
最初からそうしてれば良いんだよ」
イエティは再び狼を取りに行ってるエレナを見るが違和感に気づく。
洞窟の前にはソニアが怯えた様子で座っており、エレナは洞窟の中に歩いている。
だが、今日は勇者が先ほどまでソニアの横でイエティの様子を伺っていたがその姿がない。
違和感に気づいたイエティが後ろを振り返るとそこには剣から放出される炎で宙を浮かぶ勇者の姿があった。
「なっ!!」
イエティはすぐさま巨大な拳で勇者を叩き落とそうと腕を振るう。
「火炎剣!!」
しかし、勇者の炎を纏った剣によりイエティの右手の手首が一刀両断される。
「ガァァ!!
この野郎!!」
イエティは痛みに悶絶しながら大きく息を吸い込み、凍てつく息を吐き出す。
それは氷山を登っていた時に遭遇した猛吹雪よりも強力であったが、勇者は炎の出力を上げて盾のように展開し防いでいる。
(くっ、これじゃぁまた僕の魔力が尽きてしまう、、)
勇者は迫る強力な冷気に身動きを取る事ができず、ただただ魔力を消耗する現状に焦りを感じていた。
「グルルル!!」
しかし、突如勇者が放つ炎の盾の前にソニアが立ち塞がると冷気を体で防いでくれた。
「ソニア、、ありがとう!!」
勇者はその隙にイエティの放つ冷気の範囲の外へと移動するとイエティの左の足首を炎の剣で切り裂く。
「いてーなぁ!!
こん畜生がぁぁあ!!」
イエティは凍てつく息を吐くのをやめると足元を左手で殴りつける。
寸前の所で交わすがイエティの拳は最初から勇者を狙ってはいなかった。
「アイスニードル」
イエティの拳が地面を叩きつけると勇者の避けた着地地点から鋭い氷の針が勇者目掛けて突き上がる。
「しまった!!」
勇者は完全に不意を突かれてしまい反応できなかった。
しかし、こちらに走って来ていたエレナが勇者に飛びついて氷の針を回避する。
その際氷の針はエレナの右腕を掠ってしまっていたようで、エレナの右腕から赤い血が滴り落ちていた。
「あなた馬鹿なの!?
私達に関わらず逃げれば良かったのに!!」
エレナは急いで立ち上がると倒れている勇者に手を差し伸べる。
「助けてもらった恩は返さないと気が済まなくてね」
勇者はエレナの力を借りて立ち上がるとすぐに目線をイエティに向ける。
「そうかそうか。
エレナ、、
お前は素直な奴だから重宝していたが、そいつを助けるならもういらねぇなぁ!!」
イエティは失った右手と左足の付け根から氷を生やして補うと同時に、再び息を大きく吸い込んだ。
「もうこうなったからにはあいつを倒すしかない!
私が道を作るからあなたがあいつを仕留めて!」
エレナはそう言うと両手に魔力を集め始める。
「しねぇぇぇ!!」
イエティは凍てつく息を再び吐き出す。
今度は先ほど放った息より広範囲かつ威力も強いものとなっている。
「ソニア力を貸して!!」
エレナが地面に両手を当てるとエレナの足元からイエティの胸元に向かって雪でできた橋が掛かる。
そしてエレナの呼びかけに呼応してソニアが二人の前に現れると、エレナと勇者はその背に跨る。
ソニアに二人が自身の背に乗った事を確認するとエレナのかけた橋を駆け上がる。
「はぁぁ!!」
「グルルルルル!!!」
エレナとソニアはイエティの放つ息吹をその身で防ぎながら前へとひたすら進む。
勇者も援護しようと剣を前方へと向けるが、エレナに睨まれてしまう。
「あなたは最大まで魔力を溜めてなさい!
道は作るって言ったでしょ!!」
エレナの力強い言葉に勇者は驚くが、すぐにエレナとソニアを信じて剣に魔力を溜め始める。
しかし、氷に耐性を持つはずのエレナの両手が徐々に凍り始める。
「エレナ!!」
その様子に勇者は心配の声をあげる。
「問題ないわ!!」
それでもエレナは冷気を防ぎ続け、ソニアもエレナの意思の強さに呼応してイエティの元へ続く雪の橋を駆け上がるスピードを早める。
ただ、イエティに近づくほどエレナの全身はどんどん凍りついていき、もはや体の半分が凍っている状態だ。
それでも勇者はエレナを信じて剣に魔力を溜め続ける。
「ここまで来れば!!」
イエティとの距離が残り10メートル程まで近づいたその時、エレナが勇者をソニアの背から突き飛ばすと足元の雪の橋から雪がせり出して勇者をイエティの頭上へと吹き飛ばす。
勇者は驚きながらもイエティの頭上で体勢を整えると剣を鞘から抜刀する。
「大炎断」
勇者の剣から勇者の溜めていた魔力が炎へと変換されて溢れ出る。
勇者が剣を振り下ろすとイエティの体の中心を両断するように炎が走る。
「ば、か、、な!」
イエティは顔を歪ませ悔しそうな表情をすると、左右に真っ二つで両断された。
同時にエレナの作った雪の橋が崩れ落ちる。
ソニアとその背に乗っているエレナは地面へと落下するが、ソニアは難なく着地をする。
しかし、ソニアの背に乗っているエレナは全身が氷に包まれてしまっていた。
「エレナ!!」
その様子を見た勇者は急いでエレナの元に駆け寄ると剣から炎を放出させて氷を溶かし始める。
「死なないでくれ!」
炎によってエレナを身を包む氷は溶け切ったがエレナは息をしていなかった。
「そんな!!」
勇者はエレナの心臓部に手を添えると心臓マッサージを始める。
そして、迷う事無くエレナの口に自身の口を重ねると息を吹き込む。
エレナの口は驚くほど冷たい。
「お願いだ、、」
勇者は必死の思いで蘇生措置を繰り返す。
「ゴホッ!!」
すると、エレナが急に咳き込みだし息を吹き返した。
「あり、、が、とう」
エレナは勇者の顔を見ると柔らかい笑みを浮かべながら感謝を伝える。
しかしすぐにエレナは力尽きて瞳を閉じてしまう。
「エレナ!!」
勇者は焦りを見せるがよく見るとエレナは眠りについただけのようだ。
「・・・良かった、、」
勇者はホッと一息つくとエレナを持ち上げてソニアの背に乗っける。
「ソニア、エレナを洞窟まで運んであげてくれ」
勇者がソニアに頼むとソニアは黙って頷きゆっくりと歩き出す。
「このままエレナの目覚めを待ってしまったら別れが惜しくなっちゃうな」
勇者はエレナとソニアの後ろ姿を見つめながら呟いた。
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