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・僧侶に精神修行をしてもらいにいく
勇者は王都の奥地にある寺へと足を運んでいた。
「こんなところに何のようだい坊や?」
勇者が寺にある鈴を鳴らし祈りを捧げている所を、背後から声をかけられた。
「あなたがここの管理人である僧侶様ですね。
ここには修行をつけに貰いに来ました」
勇者に話しかけてきたのは着物を着た30代程の女性であった。
背丈は女性にしては大きく、髪は茶色のショートヘアでその瞳は綺麗な水色である。
「修行だぁ?
そんなん受け付けた覚えは無いよ。
帰りな」
女性は勇者を冷たくあしらうと手に持っている箒で落ち葉を掃除し始める。
「そこを何とかお願いします!
僕は荒ぶる心を鎮める術を学びたいんです!」
勇者は頭を90度に綺麗に下げながら女性に頼み込む。
「はぁ、、
そんな薬なんかに頼らんくても真っ当な方法で力をつける方が身の為だよ」
女性は持っている箒を勇者の胸元に押し付けながら忠告する。
「この狂化薬のこと気づいていたんですか?」
勇者は胸ポケットから狂化薬を取り出した。
「そんな物騒な気が出てるんだ。
分からない訳無いだろう?」
女性は呆れたような表情をしながら寺の中へ入っていく。
「入りな、修行をつけてやる。
どうせ止めたっていつかあんたはそれに頼るんだろうからな」
女性は振り返り人差し指を勇者に突きつけながら話す。
「それと今日から私の事はアヤメ様と呼びな!
いいね!」
勇者は修行をつけて貰える事に安堵すると、狂化薬を胸ポケットにしまう。
「はい、アヤメ様!!」
-
それからアヤメによる勇者への修行の日々は始まった。
寺の雑務は全て勇者が行い、空いた時間で瞑想や滝行、読経など様々な修行を行なっていた。
寺の雑務が無くなったアヤメは基本的に寝ている事が多いが、深夜には何やら一人で作業をしている気配を勇者は感じていた。
「よし、今日はあんたにプレゼントがある!」
勇者がアヤメの元で修行を始めて半年が経過した頃、急にアヤメから勇者は呼び出され開口一番に告げられた。
「プレゼントですか?
一体何を?」
勇者は不思議そうな様子でアヤメを見つめる。
「私が長い時間をかけて作り上げたもんだ。
受け取りな!」
アヤメは大きな箱を勇者に投げつけると勇者は慌てたように受け取る。
「開けても良いでしょうか?」
勇者が問いかけるとアヤメは黙って頷く。
蓋を開けるとそこにはアヤメが着ている着物と色違いの着物が入っていた。
アヤメが赤なのに対し箱に入っている物は青色だ。
「これは」
勇者が感想を言うよりも早くアヤメが口を挟む。
「私とお揃いだ。
嬉しいだろう?」
アヤメは満面の笑みで勇者に問いかけるが、その表情の裏には肯定以外の言葉を口にしたら殺すと明らかに脅迫しているようなオーラがあった。
「は、はい!
アヤメ様とお揃いでとても嬉しいです!!」
すぐさま勇者は感謝を伝えると着物を箱から出して着替え始める。
しかし、着物など着たことの無い勇者は着方に戸惑いを見せる。
「はぁ。
不器用な奴だね。
貸しな」
そんな様子に見かねたアヤメが着物を手に取り着付けをしていく。
「何だか不思議な感覚です。
とても落ち着くような、、」
着付けが終わった勇者は何故か頭がクリアになってリラックスしたような感覚に陥っていた。
「それは私が呪いをかけながら作ってるからな。普通の着物と一緒にするんじゃ無いよ」
アヤメは満足気に勇者の問いに答えると勇者の脱ぎ捨てた服から黄色い瓶を取り出して勇者に渡す。
「飲みな。
アンタはもう十分精神修行をした。
今のアンタなら狂気に飲まれる事はないだろう。
それに私の呪いのかかっている着物も着ているんだ」
アヤメに渡された瓶をマジマジと眺めながら戸惑いを見せる勇者の額にアヤメは自身の額をくっつける。
「心配するな。
大丈夫だ」
アヤメはそれだけ言うと勇者から離れる。
「アヤメ様、、
ありがとうございます!」
勇者は意を決したように瓶の蓋を開けて一気に口の中へと流し込む。
すると勇者の全身から黄色いオーラが溢れ出すと同時に頭の中で次々と負の感情が溢れてくる。
(コロス・・・コワス・・・ツブス・・・
メニウツルモノスベテヲケシサレ)
湧き出る負の感情に対し勇者は苦しそうに頭を抱える。
「思い出せ!
ここでやってきた修行の数々を!!
そして自分の中の気を頭に集中させるんだよ!!」
頭の中が負の言葉で埋め尽くされていたが何故かアヤメの言葉はすっと頭の中に響いてきた。
「そうだ!
僕はこの狂気に耐えるためにここで修行をしてきたんだ!! 鎮まれ!!」
勇者が気合いを入れると左胸から青いオーラが生まれ、徐々に大きくなっていく。
青いオーラは頭に移動すると勇者の頭に響いていた負の感情は徐々に小さくなっていく。
そして勇者の体から溢れていた黄色いオーラは青色のオーラと混ざり合い緑色へと変化する。
「ふぅ、、」
勇者は完全に狂気を鎮めると小さく息を吐き出した。
「上手くいったな」
アヤメはどこか優しい瞳で勇者を見つめていた。
「はい、ありがとうございます。
アヤメ様の言葉が無ければ狂気に呑まれる所でした!!」
勇者はアヤメに感謝を伝えるがアヤメはとぼけた顔を見せる。
「言葉ぁ?
私はアンタがその薬を飲んでからさっきまで一言も話しちゃいないよ。
まぁ良い、アンタは狂気を鎮める事が出来たんだ。
今まで以上の身体能力と魔力を手にした事だろう」
アヤメは身に覚えが無いと一蹴した後、庭の端っこに位置する小さな祠へと足を進める。
「今からここに封印している中位の魔物を解き放つ。
アンタの手に入れた力、見せてみな!」
アヤメは祠に付いている札を勢いよく剥がす。
すると、祠は壊れ中から黒い魔力が大量に溢れ出し形を成していく。
最終的に黒い魔力は三つの角を持つ黄色い鬼へと姿を変化させた。
「アァ?
やっと外に出られたかと思えば俺を封印しやがった 小娘じゃねぇか!!
ふざけやがって殺してやる!!」
鬼は出てきたや否や真っ先に目に入ったアヤメに向かって棍棒を持ちながら突進していく。
「バカだね。
アンタの相手は私じゃ無いよ」
アヤメは向かってくる鬼に対して身構えもせず腕を組んでいた。
鬼の棍棒がアヤメに振り下ろされるその瞬間、鬼の棍棒を持つ手が斬られて地面へと落ちる。
「ガッ!
アァァァ腕がぁぁ!!」
鬼は腕を失い動揺するが、勇者は立て続けに鬼の背後に回り込み追撃を仕掛ける。
「ふざけんじゃねぇ!!」
鬼は勇者背後に移動した勇者に反応して回転蹴りを見舞うが既にそこには勇者はいなかった。
「流石だね」
アヤメが呟いた次の瞬間、鬼の真上から勇者が剣を振り下ろし鬼を真っ二つに両断した。
「ば、、か、な」
鬼はなす術も無く勇者に倒されてしまったのだ。
「合格だ。
上手く力をコントロール出来てるよ。
これでアンタのここでの修行は終わりだよ」
アヤメは勇者の頭を撫でると帰路へと歩み出していく。
目的であった狂気に耐える為の精神力は身についた。
アヤメの言う通りここにいる意味はもうないだろう。
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