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二階層

 翌日、ソフィーと死神の二人は朝に宿を出ると一度道具屋で買い物を済ませてから、ダンジョンへと出発した。

 

「ふわぁ…」


「…なんでしっかりしたベットで寝たお嬢様の方が疲れてるんですか?」


「うっさいわね…昨日は色々とあったの」


「あそこから何があるって言うんですか…」


 結局ソフィーは中々寝付けず結局睡眠不足になっていた、その為道中では大きな欠伸をしているのだが、それを隣にいる死神が注意していた。


「全く、ちゃんとしてくださいよ」


「まさかあんたにしっかりとした注意を言われる日が来るとはね…」


「自分をなんだと思ってるんですか…そんな事よりそれは?」


 死神はソフィーの手元へ視線を移す、彼女は歩きながら道具屋で買った物を弄っている。


「これが空気を浄化する道具よ、口元に付ける感じだから付けてる本人しか効果は無いし、魔力を流し続けないと使えないわ」


 そう言ってソフィーはソレを死神に見せるように一度手首を捻った後、再び弄り始める。


「へーなんかガスマスクみたいですね」


「ガスマスク?」


「知らないなら大丈夫です、それで一体何を?」


「まぁ試用してみてる感じよ、どれくらい魔力を吸われるのか、とかを確かめてるの」


 ソフィーはそう言うとまた大きく欠伸をする。


「まぁそれはいいですけど…転んだりしないでくださいね」


「あんたじゃないんだからそんな失敗しないわ」


「お嬢様一体自分にどんなイメージ持ってるんですか?」


「そりゃあ……ねぇ?ああ、ほら、見えてきたわよ」


 死神がソフィーのイメージに首を傾げている間に、目的の場所が見えてくる。


「…ふぅ、それじゃあ小休憩を挟んでからさっさとあの小部屋まで戻りましょう」


「了解でーす」


 ソフィー達はそう決めると、それぞれ前回休憩した場所へ移動して休み始めるのだった。






 ---------------------------------------------





「さて、ここまで戻って来たわね」


 マスクによって遮られたソフィーのくぐもった声が部屋に響く。

 小休憩を終えた二人は、遺跡を進み、前回引き返した小部屋まで順調に戻って来ていた。

 部屋には戦闘の形跡が残っているが、石像の残骸は跡形もなく消えていた。


「もうゴーレムの姿が無いですね、」


「それじゃあ早速下に行きましょうか?」


「そうね、奥に行くほど危険になるはずだから、気を引き締めていきましょう」

 

 軽い会話をして二人は部屋の奥に伸びる、下への階段に足を伸ばす。


「しかし、少し薄暗いわね」


 ソフィーが目を細め、ゆっくりと階段を下りながらそう呟く。

 ここの壁にも青く光るタイルが埋め込まれているが、所々途切れた物が存在しており、下に行くほどソレが多い。


「下の階層の方がオンボロってことでしょう、階段も所々欠けてますし、壁も崩れて瓦礫が散らばってたりしますからね」


 死神は前を向いたままいつもの音調でそう言いながらひょいひょいと階段を下りていく、ソフィーとは真逆だ。


「…アンタ、よくこんな危なっかしい道を軽々行けるわね」


「えぇ、自分召喚されてから夜目が効くので」


「ふーん…」


「もし落ちたとしてもお嬢様には自分がいますよ」


「…へぇ、頼りにしてるわ、泥船に乗った感じでね」


「全然安心してないですね」


 そんな会話をしながら二人は順調に階段を降りて行き、暫くするとようやく次の階へと辿り着く。

 そこは今までの場所と同じような造りだが、明りは少なく、瓦礫が所々に散らばっている。


「ここは更に強く、罠を警戒しないといけませんね」


「ええ、また昨日みたいに罠で帰ることになるなんて結果で終わりたくは無いし」


 ソフィーは昨日の事を思い出して顔をしかめる。

 別にこの遺跡の探索に失敗しても、一度学校へ帰還して他のダンジョンを終わらせられる程、日数には余裕がある、しかしそれは彼女にとっては許されず、なんとしても成功で終わらせたいのだ。


「まぁ暗い分、自分は更に動きやすいので、リラックスしましょう、そんな肩に力入れてると最奥まで持ちませんよ」


「あんたはあんたで能天気すぎるのよ、いいから早く行って」


「ハーイ」


 死神が軽い声でそう言いながら歩を進め、ソフィーがその後に続く。


(…)


 暫く歩いたところで、ソフィーは深く息を付く。

 彼女は周囲に強く目を光らせて進んでいる、昨日の失敗がまだ尾を引いており、渦巻く小さな不安がソフィーを精神的にも身体的にも蝕んでいる。


「…あんた」


「?どうしましたお嬢様?」


 そしてその負担は不安だけが原因では無いだろう。

 ソフィーは首を傾げながら振り返った死神を睨みつけ、口を開く。


「子供じゃないんだから、手ごろな瓦礫があるたびにわざと踏んで歩くのやめなさい!」


 先ほど死神が踏んだ瓦礫を指さしながらソフィーは叫ぶように怒る。

 彼女の言うように、彼は道を逸れず、丁度いい大きさの瓦礫が道にあると、それを踏む付けながら歩くのだ。

 ソレのせいでソフィーは床や壁を注意深く見ているのに、たまに上下する彼へと視線がチラリと向いてしまい、そのたびイライラが募っていた。


「まぁまぁ、落ち着いてくださいよお嬢様」


「アンタがそれを言うと、余計腹立つのよ!それとも何か理由があるというの!?」


「瓦礫踏んずけて何が起こると思うんですか?あるわけないでしょう?」


「っか…くっ…」


 至極当然といった声調で答える死神に、ソフィーは怒りのあまり、頭に浮かぶ単語が口に出てくる前に押し流されて行ってしまう。

 

「ふぅぅぅ…はぁ…とにかくやめなさい…」


「あ、はい」


 ソフィーは考えるのをやめて、気持ちを切り替えるように深く息をすると恐ろしいほどの真顔で死神に警告を送る。

 流石の彼もそんな表情を浮かべられたら素直に従うのが吉だとわかったようで、短く返事をして頷く。


「ん…」


 そこから数歩もしないところで死神は拳サイズの瓦礫を足先で踏む。


「…」


 ソフィーが小さく目を見開いて死神を見るが、彼はそのまま足を動かして瓦礫を小さく浮かせると、通路の先へと蹴り飛ばす。

 そしてその次の瞬間、暗闇の中から一本の矢が飛び出し、小さな火花を散らして両方共、地面へと落ちる。


「敵襲…!?」


 ソフィーは死神から目を離して通路の先に向けて構え、死神も脚を抑えながら、広げた影を戻し始める。


「…来るわよ」


「いっつ…わかってますよ」

 

 暗闇の中で四つの赤い光が、鈍い音をたてながら近づいてくる。

 ソフィーは手に力を込めて、魔力を練り始め、死神は足を庇いながら立ち上がり、大鎌を影から取り出して両手で握る。

 そして、その四つの赤い光が瞳とわかる位の距離まで近づいてくると、ソレは勢いよく飛び掛かってくる。


「ギャギャ!」


 その姿は剣と盾を携えたゴブリン二体だ、その内一体は弓を背負っている。

 上の階に居たゴブリンとの違いと言えばその肩や胴など、広い面の部位に古ぼけた防具を付けている事だろう、剣や盾などを見るに落ちた物を拾って身に着けたというような姿だが、それでも単純な強化だ。


「ふん!」


  刃を大きく振り上げた彼らを、死神が一歩前に踏み出し、大鎌を横に構えて受け止める。

 キィィン!!と金属同士がぶつかったような甲高い音が鳴り響き、少し遅れてドスンと重たい音が響く、死神の大鎌はまるで豆腐でも切ったかのように滑らかに彼らの武器を受け流し、その内の一体を斬りつけながら、彼らを弾き飛ばしたからだ。


(いい調子、罠にさえ気を付ければここも行けそうね)


 ソフィーは後ろでその様子を見ながら勝ちを確信し、次の事へと意識を向けながら、魔法を唱える。


(ライトニ)…」


「…!?お嬢様!」


「え!?何…」


 ソフィーが右腕を引いて魔法を放とうとしたその瞬間、狙ったように一本の矢がゴブリン達の後ろに広がる、暗闇の中から飛び出してくる。

 死神が慌てて斜め後ろへ飛び、彼女の射線上に入ると、体を回転させながら大鎌で矢を弾く。


「ギィィ!」


「いっ…!」


 その大きな隙を見逃さずゴブリン二匹は死神へ向けて飛び掛かる。

 一体は怪我で動きが鈍り、無理やり体を捻る事で回避するが、もう一体の刃が死神の左腕へと突き刺さる。


 「っく、(ライト)…いや…風弾!」


 ソフィーは急いで魔法を放とうとするが、雷だとゴブリンの剣が突き刺さる死神も巻き添えをくらうと判断し、急いで魔法を風系に切り替え放つ。

 二つの不可視の弾丸はゴブリンへと向かって飛び、怪我をしている一体を貫くが、もう一体は死神を蹴り飛ばし、剣を引き抜いて後ろへと下がる。


(…判断が遅れた…!)


「シャドー!」


「ギャ!」


 ソフィーは自分のミスに歯噛みし、直ぐに詠唱を始めようとするが、目の前で死神が右腕を地面に付けて叫ぶ、通路の奥へと広がっていた影は波打つ絨毯のように揺らぎ、暗闇の中からもう一体のゴブリンをはじき出す。

 そのゴブリンは弓を持っておりその背には矢筒を背負っている。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「え、ええ、あなたは?」


「まぁ痛いですけど、問題は無いです」


 死神は影を盾にするように起き上がらせると、半身を隠しながらソフィーの元へと下がり、体勢を整える。

 ソフィーはチラリと彼を見る、半透明なその腕から血は流れていないが、透明なキラキラとした何かが外へと出てしまっている。

 

「ボケっとしてないで魔法を構えてください」


「なっ…言われるまでも無いわよ…!」


 しかし彼はそれを気にする様子も無く、ゴブリンを見据えたままソフィーに指示を出す。

 そんな彼の態度に一瞬驚いたソフィーだったが、すぐに気持ちを切り替えて、魔力を練り始める。

 二人の前ではゴブリン達がそれぞれの得物を握りなおして、再び構えていた。


「なかなか知的な戦闘方法だったよ、だけど影が戻って来た今、自分はちょっと怪我してても万全なんだ」


「…あんたなんでゴブリンに話しかけてんの…?」


 ソフィーの言葉を無視して死神は左腕に影を巻き付けて、その怪我を塞ぐと、大鎌を両手に構えて、駆け出す。


「ギィア!」


 先に動いたのは弓を持ったゴブリンだ、矢筒から一本の矢を取り出すと、弓につがえて引き絞る。

そしてギリギリという音と共に狙いを定め、放った。

 その矢は真っ直ぐに飛び、一直線上に居る死神へと向かう。


「シャドー、ゴー!」


 死神の声に反応するように影が伸びると、向かってくる矢を影が掴む、そしてその次の瞬間影は己の形を弓へと変化させると、弓を持つゴブリンへと撃ち返す。


「ギャァ!」


「いいね、行くぞ!」


 矢は一寸も狂う事無く、ゴブリンの手に突き刺さり、弓を落とさせる。

 その隙に死神は更に加速し、距離を詰める。


「ギャギャ!」


 弓のゴブリンを守るように剣と盾を持った者が死神の行く手を遮る。

 死神は受けて立つとばかりに大鎌を大きく振り上げると、ゴブリンへ向けて振り下ろす。

 キィィン!と彼の大鎌とゴブリンの盾が甲高い音を響かせる。


「ギィィィ!!」


 押し負けたのはゴブリン側、その勢いに任せた一撃は重く、踏ん張った足は滑るように宙へと浮かび、しりもちを付く。


「お嬢様!強力なのを!」


「ええ!雷靄(ライトニングミスト)


 死神は大きく上へと飛ぶとソフィーへと合図を送り、彼女はそれに応える。

 ソフィーの手からバチバチと電気が溢れ、次の瞬間には雷がゴブリン二体を貫く、そしてそのゴブリン達を包むように雷は広がり、肉の焼ける音と断末魔が鳴り響く。


「…ふぅ、終わりましたね」


 雷が消え、煙を上げながら動かなくなったゴブリン達を見て、死神は手ごろな瓦礫へと座り、一息つく。


「死神、怪我は調子は?」


「少なくともいい方ではないですね、まぁ悪いわけでもないですが」


 死神は左腕に付けていた影を取ると、バッグから包帯を取り出して巻き始める。


「それにしても、この世界に来てからまともな攻撃を初めて受けましたけど、ゴブリンの攻撃であっても平気で貫かれる体とか、思ったより弱くて悲しいですね」


「まぁそうじゃなかったらもっと当たりな使い魔だったでしょうからね」


「酷いなぁ、助けてもらった相手にそんな事いいます?」


「あんたの普段の行動がちゃんとしてればもっと感謝するんだけれどね」


 ソフィーは少し呆れたような顔で死神を見ると、彼へと近づき、左腕の怪我を見る。

 左腕には細長い穴が空いており、今も血の代わりにキラキラとしたものが流れ続けている。


「やっぱり血は流れないのね」


「まぁそうみたいですね、痛いもんは痛いですけど」


 ソフィーの言葉に死神はあっけらかんと答える。

 実体を持たない彼らに血は流れていない、その代わりに体を構成する魔力が流れ出るのだ、当然血液と同じく、流れ過ぎれば死へと至ることになるだろう。

 ソフィーはその怪我を見ながら、立ち上がる。


「応急処置は自分でできるようね?」


「見ての通り」


「そう、それなら済んだら出発しましょう」


「人使いが荒いですなぁ」


 死神はぼやきながら包帯で傷全体を巻き終え、他の道具を取り出すように再びバッグを漁る。

 その様子を少し見てから、ソフィーは彼から視線を外し、通路の先を見ながら口を開く。


「まぁ…あの矢を防いでくれて助かったわ…」


「え?感謝の言葉にしては声が小さいですね、もっと大きくお願いします」


「一瞬で調子に乗るな!」


 肩を竦めながらへらへらとした様子でそういう死神をソフィーは睨みつけ、怒鳴る。

 そしてその声は通路の奥の暗闇まで響き渡るのであった。

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