群青罠の遺跡 入口
誤字報告が届いてました、たかが五話位で何誤字してるんだって話は置いておいて、報告ありがとうございます。
「はぁはぁ…ふぅ…」
肩で息をしながらソフィーは歩みを進める、群青罠の遺跡は山の中腹に存在し、山登り初心者で運動をあまり得意としないソフィーにはとても厳しい道のりだ。
「この程度で音を上げていたら遺跡の探索なんてできませんよお嬢様」
「はぁ…あんたは…楽できるから…ふぅ…いいわよね…」
ソフィーは目を細めて、後ろを付いてきている死神へと視線を向ける。
彼は飛び出した自身の影の上で寝っ転がっており、足まで組んでいる、その姿は余裕そのものだ。
「いいですかお嬢様山を登る時は上体をまっすぐ起こし、腕は胸の前で組んで足裏全体で地面を踏むんですよ」
「それは何度も…聞いたわ!はぁ…」
影から起き上がって実践しながらアドバイスをする死神だが、ソフィーはすでに何回も同じことを言われている為、見ようともせずそのまま歩みを進める、その足取りはとても荒々しい。
「やれやれ…まぁでもほら、そろそろ見えてきましたよ」
肩を竦めながら死神は己の影にまたがって肘を付き、空いている手で指を差す。
そこには少し大きめの洞窟があり、入口を整備していただろう石畳が朽ち果て、苔むしており、奥からは冷たい風が流れてきている。
入り口の前は少し広い平らな地面があり、草は生えておらず、何かの広場として利用されていたようだ。
「あれね…ふぅ…」
ようやくたどり着いた目的地を前にして、ソフィーは立ち止まり、深呼吸をして心を落ち着かせる。
「さぁ行きましょうか」
そんな彼女の横を通り過ぎて、死神はスタスタと遺跡の中に入っていく。
「待ってって!…少し休憩しましょう」
「全く…自身の魔法にかまけて体を鍛えないからそんなんなんですよ、魔法使いだって体力は大事なんですから」
「言ってる事は正しいけど貴方はただ影に乗ってただけじゃない…!」
彼の言葉には一理あるのだが、ソフィーとしては納得できないらしく頬を膨らませて抗議する。
しかし死神はそれを無視して、仕方ないなぁっとばかりに木の根元で座り、背中を預ける。
「ほらほら、早く休憩して出発しないと今日の探索できなくなっちゃいますよー」
「あーはいはい!わかってるわよ!」
煽るような言い方をする彼に、少々腹を立てながらもソフィーも地面に腰を落とし、水筒を取り出して水分補給を始める。
そのまましばらくお互いに口を開く事無く、静かに休憩をしていたが死神が口を開く。
「そういえばお嬢様」
「何よ?」
言葉と態度からソフィーが身構えている様子が感じられる。
「そんな警戒しなくてもいいじゃないですか」
「なんで警戒されてるのか自分の胸に聞いてみなさいよ」
ソフィーはジト目で睨み付けるが、死神は全く気にしていない様子で肩を竦める。
「やれやれ…まぁそれはいいとしてお嬢様はなんで魔法使いに?」
「なんでわざわざあなたに…ああ、言うから、余計な事は言わなくていいわ」
死神の疑問にそっけなく返そうとしたソフィーだが、彼が右腕を上に動かしたのを見て諦める。
彼が会話中に右手を肩近くまであげるときはネチネチとした意地の悪い問い詰めの前兆なのだ。
「…まぁ別に理由は無いわ、私には魔法の才能があったってだけでなんとなく」
「ははぁ…周りにすげーってチヤホヤされて、言われるがままに魔法使い目指したって感じですか」
「うるさいわね…!誰もが崇高な心を持って何かを目指してるわけではないでしょう!」
図星を突かれて思わず声を大きくしてしまう。
そんなソフィーを見逃さず、仮面越しにでも死神の表情がニヤッとしたのを感じる。
「しかし…」
「ああはいはい!休憩はもうおしまい!さっさと行くわよ!」
再び口を開いた死神を制するように、ソフィーは立ち上がり、死神の腕を掴んで遺跡の方へと引っ張っていく。
そして遺跡の入り口に差し掛かる前に、彼女は一度振り返り、背後の死神を前へと押し出す。
「ほら、作戦通り貴方が前を行って!」
「はいはいわかりましたよー」
ため息混じりの返事を聞きながら、ソフィーは死神の後に続いて遺跡の中へと入っていった。
群青罠の遺跡の内部は、壁や天井の所々に青いタイルのようなものが埋め込まれており、それが微かに発光している為、視界は良くは無いが、少し先まで見える位確保されている。
「へぇ……結構雰囲気出てますねぇ」
「そんなことどうでもいいでしょ、それより影伸ばして」
「わかってますよ、逃した罠はしっかり処理してくださいよ?」
死神は影を伸ばしながらゆっくりと歩みを進める。
この影は足元だけではなく、壁にも張り付いており、物理的な接触で発動する罠は事前に起動できる。
「言われるまでも無いわ、罠でポックリ逝くなんて情けない死に方ごめんだもの」
ソフィーは探知の魔法を展開させる、彼女にだけ見える円が広がり、周囲の状況を教えてくれる。
流石に今のところ危険は無さそうだ。
「まぁ影が起動したおかげで大岩が転がってくるみたいな罠で潰されない事を祈りましょう」
「縁起でも無い事言わないでくれる?」
そんなやりとりをしながら2人は遺跡の奥へと進んでいく。
ソフィーは特に発光する部分を注視している、光を放つ部分は影が侵入する事はできず、罠があっても発動させられないからだ。
「おっと、さっそく何かあったみたいですね」
道の置くから何かの風を切ったような音がすると、その直ぐ後に金属音が響く、二人がそのまま進むと、道の端に矢が落ちているのが見える。
「想像通りの古典的な罠ね」
「まぁチュートリアルみたいな物でしょう、影で起動できるのはわかりましたし、気を引き締めていきましょうか」
「当然でしょ」
2人が話している間も、罠は次々と起動していく。
落とし穴、天井から降ってくる毒針、床から突き出てきた槍と次々と二人の目に起動後の罠が目に入る。
しばらく進み、ようやく一区切りついた頃合いで死神がソフィーに話しかける。
「地図によると、ここを曲がったら広場が見えるはず、モンスターが居るかもしれないから影を戻して」
「了解です」
広がっていた影が死神の足元に集まり元の大きさへ戻る。
影は彼の主戦力、広げるほどできる事は減るうえ、分裂させることは出来ない、その為広げていると戦闘中に直ぐに使えないので、戦闘する可能性が高い位置では先んじて影を使用可能にしておくのだ。
「できました」
「ええ、それじゃあ行くわよ」
曲がり角の前で二人は小声で呟き、身をひそめながら進んでいき、ソフィーの探知で小部屋まで罠が無い事を確認できる位置まで進んで二人は止まる。
二人は集中して目を研ぎ澄まし、小部屋に人型のような影が数体動いている光景を目に移す。
「ゴブリンね」
「ええ、まぁよくある通過点ってやつですね」
彼らは二人の存在に気がついていないのか、談笑しながら、部屋の中をウロチョロしている。
「まずは奇襲と行きましょう、薄暗いし行けるでしょ?」
「当然、死神らしい所を見せましょうか」
死神は自信満々な様子でローブをはためかせると、影の中へと消えていく。そして、一瞬の間をおいて小部屋の中で悲鳴が上がる。
突然の出来事に驚いたゴブリン達は慌てて武器を構えるが影の中から飛び出した死神の鎌が1体の首を刈り取り、返す刃がもう一体の腕を斬り飛ばす。
「よし…うわ…」
完全にゴブリンたちの注意が死神へ向いたところで、ソフィーは静かに部屋へ入り、魔法を構える、その時ゴブリンの首が落ちてきて、彼女は一瞬顔をしかめるが、直ぐに視線を残りのゴブリンへと向ける。
残り三体、一体は負傷、それにソフィーに向けて完全に背中を向けている今、負ける事はありえない。
「風弾」
ソフィーは短く魔法を唱え、両手から風の弾を撃ち出す。
撃ち出された弾丸は寸分たがわず、二体のゴブリンの頭を吹き飛ばし、突然吹き飛んだ仲間を見て同様した最後の一体は、大鎌に首を刎ねられ、倒れる。
「ふぅ、終わったわね」
「ええ、とはいえこれくらい順調に行かないと奥まで探索なんてできませんからね」
死神は余裕気な態度で、手に持つ大鎌をクルクルと回す、彼の大鎌にも半透明な体にも返り血が付いていない。
「しかし死神って言うのは首が好きなの?首ばっかり斬り飛ばして…」
そんな彼の姿を見ていると遺跡の雰囲気も相まって不気味だと感じてしまい、ソフィーは思わずそう漏らす。
「皆そんな事言ってくるんですよね…自分はあくまで効率的な奇襲方法を取ってるだけですよ」
しかし当の本人は気付いてないのか顎に手を当て、首を傾げながら軽く言う。
「まぁそんな事よりさっさと進みましょう、目的は彼らの死体弄りではないでしょう?」
「ああ…まぁそうね」
ソフィーは死神の言葉を聞いて、本来の目的を思い出す、多少不気味であっても彼女の使い魔、使えるのならそれに越した事は無い。
二人は改めて陣形を取り、遺跡の奥へと進んでいくのだった。