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出発準備


「終わったわよ、早く起きなさい」


「んむんむ…後5分…痛っ!」


 受付から戻って来たソフィーは体を揺らして眠っている死神を起こすと、テンプレートな寝言が帰って来たのでチョップを頭に落とす、すると死神は頭を押さえながら立ち上がり、不服そうな声をあげる。


「全くお嬢様は短気で乱暴なんですから…」


「もう一回した方がよさそうね」


「すいません」


 上にあげられた手を見て素直に謝る死神を見て、ソフィーは腕を下げ、ため息を付きながら歩きだす。


「全く、くだらない漫才をしている暇は無いの、さっさと行くわよ」


「わかりましたー」


 二人は部屋を出て校舎の入り口に向かって歩いていく。


「ひゃ!」


「おっとっと!」


 しばらく歩き、曲がり角に差し掛かったところでソフィーは大柄の男とぶつかりそうになり咄嗟に体を捻って斜め前に転ぶ。


「いたた…」


「ドジですねお嬢様」


「うるさいわね…!」


「これは失敬…曲がる時に注意をしていませんでした」


 大柄の男は膝を少し曲げてソフィーへ手を差し出す、制服に三角笠と錫杖という変な組み合わせではある物の、本当に申し訳ないという気持ちが伝わってくるとても良い人柄だと二人は感じる。


「いえ、それはこっちも言える事ですから、すいません」


 ソフィーは大柄の男の手を借りて立ち上がり、小さく頭を下げる。

 すると男は満面の笑みを浮かべて口を開く。


「怪我もなさそうで安心しました、それでは失礼します」


「はい、それでは」


 お互いに頭を下げてソフィー達は別れ、再び歩き出す。


「しかしあんな戦士みたいな図体した人も学園にいるんですね」


「そりゃいるでしょう、体に強化魔法を掛けて殴る人だっているんだから」


「でもあんながたいの良い人他に見ないですけど…」


「まぁ確かに彼程体が大きな人は他に見たことは無いけど…まぁそんな事はどうでもいいでしょ」


 制服から見えた腕を思うと体の方も鍛えられているだろうことが浮かぶ、しかし今はソフィーにとってそれは重要な事ではない。


「早く馬車を取っておきましょう」


 ソフィーは群青罠の遺跡に比較的近い位置のエドリア二街という街を拠点に探索を進めようとしている。

 その街は現在ソフィー達がいるノディス魔導都市から馬車で約一日掛かる、そして探索の許可日数は五日、往復含めて二日掛るため実質探索できる期間は三日である。


(しかも付いて直ぐに探索を始められるという訳じゃないし…準備時間を含めて猶予は二日半位かな…ふぅ…)


 ソフィーはふつふつと沸き上がる不安を無くすように小さくため息を付く、最近の出来事と使い魔が彼女の自信を削いでいく。


「なるほど、それならさっさと行きましょう」


「え、ってちょっと!先に行かないでって!」


 そんな彼女に気付いてなのか無遠慮なのか、死神は彼女を追い抜いて早足で校舎を出て行き、慌ててソフィーは彼を追いかけて行ったのだった。


 --------------------------------------------


「うん、確かにノディス魔法学校の生徒みたいだね、どうぞ」


「ありがとうございます」


 受付に番号の書かれたプレートを受け取り、ソフィーはその場を離れ、壁に背を預けている死神の元へ向かう。


「ああ、おかえりなさいお嬢様」


 退屈そうに腕も脚も組んで待っていた死神はソフィ―が戻ってきたことに気付くと、背中をバネの用に跳ねさせて壁から離れる。


「出発は約40分後らしいわ、それまで荷物の最終確認でもしておきましょう」


「わかりましたー」


 二人はそれぞれ自身のバッグを開けて中を確認し始める。


(ええっとー…地図にポーション、術書それと…うん必要な物はあるかな、食料は、御者側が出してくれるし…)


 長期の馬車移動となると基本的に御者が食事を出す、なので食事代も料金に含まれている、遺跡の探索時も食事は用意しておきたいが、それはエドリア二街で買えばいいので、今は必要ない。


(とはいえ一応幾つか買って来てもいいかなぁ…)


 しかし用意すると言っても食料を多く積みすぎると野盗などに狙われやすくなってしまうので、あまり多いわけでは無く、味も質素である、なので各自いくつか食べ物を持っておくのも一つの手だ、ソフィ―が食いしん坊という訳ではない、多分。


(ここからあそこまで10分位だし、買って帰ってくる位できるかしら)


 頭の中で店までの道のりを思い出し、十分な時間があると判断して、隣の死神に声を掛ける。


「幾つか食べ物を買ってきましょう、行くわよ」


「んーわかりましたー」


 死神の間の抜けた返事を聞きながらソフィーは歩き出す、その足取りは少し軽い。


(パンと…やっぱり糖分も必要だし、幾つかお菓子も買おうかな)


 ソフィーは思い浮かべた菓子の内どれを買おうか頭を悩ませる、元々甘い物好きではあったがストレスの日々をそれを解消する日々が続いている…ちなみの彼女の言うパンとは菓子パンである。

 

「ちょっとお嬢様足速いですよ…聞いてます?」


 ソフィーは建物の外へ出る、一度大きな石造りの門へその視線が引き寄せられるが、直ぐに反対の方、石レンガ伸びる道を、コツコツと少し早いリズムの足音を鳴らしながら歩いていく。

 道は人々が行き交い、商売を生業とする者達の声や子供たちの笑い声が聞こえ、赤い屋根から伸びる煙突からは煙が出ている。

 

「平和ですねー」


「そりゃそうでしょ、平和じゃなかったら学校なんて運営していられないし」


 ノディス魔導都市はトルトマール国に属する街の一つであり、比較的平和な街だ、大きな城壁に囲まれ、兵士は王都の次に多く配置されており警備は厳重で治安も良く、商人達は活気づき、街のあちこちには多くの自然が残されている。

 魔法使いを志さない者にもこの街は人気で、とても過ごしやすい。


「それよりほら、こっち」


「そっち裏道ですよお嬢様」


「こっちの方が近いんだからいいの」


 そんな発展を遂げた大きな街だからこそ多くの裏道は存在し、大体の場合裏道を通った方が目的の場所に行くのは速い。

 ソフィー達が進むとちょっとした空間へと出る、家の裏口に繋がる木の階段や、所々に木箱やタルが設置され、段差の多い地面は石の階段繋がっている。


「あんまり長居したい場所では無いですね」


「っし、余計な事は言わないの」


 歩きながらぼやく死神にソフィーは小さな声で注意する。

 裏道は当然良い場所とは言えない、表通りとは違い、太陽光は建物に殆ど遮られ薄暗く、陰湿な雰囲気が漂っている、そしてそんな場所にも人は居り、荒く薄汚れた薄い布を地面に引いて座り込んでいる者、フードを深く被ったローブの怪しい者、そして人相の悪い者達が集まって何かを話していたりと、関わり合いになりたくは無い者ばかりだ。


「静かに通り過ぎるのが一番安全なんだから、浮浪者はともかく危ない連中がいるかもしれないでしょ」

 

「こんな所で話してる奴らなんて大した連中じゃ、いた!」


 余計な事を話し続ける死神の頭を引っぱたき、腕を掴んでソフィーは裏道をズンズン進んでいく。


「ちょっ、ちょっと引っ張らないでくださいよお嬢様、ローブが伸びちゃう」


「いいから黙って歩く!」


 後ろから聞こえてくる抗議の声を無視し、ソフィーは先へと進むとやがて表通りに出る。

 ソフィーは掴んでいた腕を離して溜息を付く。


「あんたのせいで余計な疲労を感じたわ…」


「それはどうも」


「褒めてない、次ここを通る時余計な口聞いたら叩きのめすから」


「仏でも二回は許してくれるんですけどね…痛った!」


 ソフィーはグーで死神の頭を叩くと、再び聞こえてきた抗議の声を無視して店へ歩き出すのだった

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