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カーゴパンツと通勤靴

 真夜中である。

 買い物に次ぐ買い物の、長いクリスマスの1日であった。

 その結果はといえば、口座は借り入れとなり、いよいよ借金生活が始まったと思いきや、文字通り『金』が増えちゃったのだからたまらない。


 純金の入った重いバックを撫で回しながら、恍惚の表情を浮かべている、ちょっとキモチ悪い友和なのだ。


「aタイプ~そろそろ寝ようよ~」

 と、下心丸出しの声を出す。

 見るとaタイプは、携帯とテレビと、コンパクトだとばっかり思っていた小さな機械をつないで、なにやら難しい顔をしている。


「眠れないのか?」

 と友和が聞く。


「友和さん、ちょっとここを見て」

 テレビの画面の一点を指差す。


「赤い模様だけど、いったいなんだい?」


「NASAっていう人工衛星からこの街を見てるの。宇宙蛭の宿主になっていた男の時空機がここなの。赤いでしょ。凄い生体反応よ。宇宙蛭がまだたくさんいるのよ」


「凄いな。携帯とテレビとコンパクトで、アメリカの人工衛星が使えるのか? ぶったまげたな」


 aタイプは素早い動作で素っ裸になると、銀色のぴったりした薄いフード付きボディースーツを身につける。

「耐熱戦闘服よ。放射能も防ぐわ。勿論、蛭もね。友和さんも着て下さい」

 要するに防蛭全身タイツなのである。


 友和ものろのろと、不器用に全身タイツを付けて、仕上げにピッタリしたフードをかぶる。

 これで足の指先から頭まで宇宙蛭の入り込む隙間は無い。


 aタイプから熱線銃ブラスターと熱源カートリッジ2本を渡され、扱い方の説明を受ける。

 余談だが、aタイプはこのカートリッジと電撃ムチを、アパートの電源コンセントから充電していた。


「なんだかOO7みたいだな。ワクワクするよ。蛭は嫌だけど」


 aタイプは全身タイツの上にブラスターのホルスターを肩から下げて、その上にジーンズとジャンパーを着た。

 気合い充分の友和も、以前通販で買った米軍払い下げの空軍ジャケットを着て、8ツポケットのカーゴパンツをはく。

 空軍ジャケットの内ポケットにブラスターを、左右のポケットにカートリッジを1本ずつぶち込む。


「カッコイイだろ」

 と友和はポーズをとっている。


「パンツのたくさんのポケット、蛭で一杯になっちゃったらど~するのお?」

 aタイプは冗談も言うのだ。


「縁起でもない事言うなよ」

 ちょっと考えてから友和は、カーゴパンツの4つの大きな脚ポケットと、それから2つの尻ポケットの中に、以前大量に買った粗塩をギュウギュウにつめ込んだ。


「あー塩は『お清め』に使うからな。蛭とかナメクジってやつは気持ち悪いからな。エスカルゴは旨いけど……これで、なんとなく安心するよ」


 この粗塩は、数年前になるが、紀州梅干がやたらと高いのに腹を立て、自家製梅干を大量に、会社の資料編纂室で製造して、ひと儲けしてやろうと思い立ったのだが、結局面倒臭くなって、それっきり忘れてしまっていたものなのだ。


 ガラスの特大容器も十個程あった。

 梅干しを漬けようとしたものだが、ハブ酒とかマムシ酒の要領で、「宇宙蛭酒」でも作ったら凄いだろうな。……効きそうではあるが、想像しているだけで気持ちが悪くなってきた。


 aタイプはゴーグル付きの戦闘用ヘルメットを大きなバックに入れて担ぎ、銀色の格好いいブーツをはいてスタンバイOKだ。


 友和は、どうしても、はき古したよれよれのスニーカーをはく気になれず、(蛭の分泌液が浸透してくる感じがするのだ)仕方がないので撥水加工の黒革の通勤靴をはいた。

 カジュアルシューズやブーツの類いは持ってないのである。


「カーゴパンツに通勤靴じゃカッコ悪いよな」


 十年以上埃をかぶっていたバイクのヘルメットを持って、友和もOKなのだ。


「さあ行くわよ! 鬼が出るかじゃが出るかって? ひるが出るに決まってるもんね!」


 単独任務の緊張の為だろう。いつになく饒舌になっているaタイプである。

 真夜中の子ノ渡文化会館を目指して出撃する二人であった。






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