エスパー友和
パンプキン・クイ~ンの店内は、うって変わって静まり返っていた。
男も女もオカマもとろんとした目付きで、のろのろと動き回る。
宇宙蛭の分泌する催眠物質により、動きが緩慢になり夢心地なのだ。
「昔、連合系の惑星でね、三十パーセントの住民が宇宙蛭に寄生された事があったの」
とaタイプが言う。
「どうなったんだ?」
と友和。
「すぐに連合は熱核爆弾で、全住民を消滅させたの」
「残り七十パーセントの住民は助けなかったのか?」
「宇宙蛭が生き残る危険の方を恐れたのよ。連合ってそんなところなのよ。そうそう、何百年か経って、その星にまた入植が行われたの。放射能を除去してね。そしたら入植者達の中に、また寄生された人が出たの。宇宙蛭ってしぶといのよ」
aタイプはブラスターの熱源カートリッジを交換している。
「おいおいaタイプ、まさかこの人達を、焼き殺すつもりじゃないだろうな?」
と友和。
「仕方ないわ。もう蛭の触手は血管の中をどんどん延びてるの。たとえ蛭本体を電撃ムチで取り払っても、ちぎれた微細な触手からでも宇宙蛭は再生するの。すぐに大きくなって、成虫の蛭になって、分裂を始めるのよ。……お気の毒だけど、こうなったら手の施しようが無いわね」
大口を開けっ放しにして、よだれを垂らして眠りこけている、ママのあぐり。
元々人間離れしているなすびは、くわっと目を見開いたまま眠っている。
ふらふらとさまよい歩く、乙子とちいちゃん。
これを見たナミちゃんと伸恵は、尻を押さえたまま呆然と立ち尽くす。
寝言を言うオカマ。
抱き合っている男とオカマ。
のろのろと財布の金を数えている女。
パンツをずり下ろしている女。
素っ裸になり、ゆらゆらと踊っているオカマ。
などなど。
美しくも、愛おしくもない連中なのだが、このまま焼肉にするのは忍びない。と思う友和であった。
その友和に、あのムズムズがきた。
「資料編纂室長 江守友和」で、美那子と行ったおでんの屋台で目覚めた、あの感覚。
テレキネシスである。
折よくエスパー友和になったのだ。
「aタイプ、ちょっとだけ時間をくれ。試しにやってみる」
コートを脱いだ友和は、師匠の王先生のように、太極拳の身振り手振りを始める。
「やるぞ~、はい!」
まずは、若い女性客に寄生する宇宙蛭から始めた。
背中と性器と大腸に1匹ずつ、3匹が寄生していた。
念動で女の肉体から引き離して行く。
集中力をナノテクレベルまで高めるのだ。
屋台のコンニャクやジャガイモを飛ばすより、遥かに難しい。
やがて3匹の宇宙蛭が、女の肉体からキレイに引き抜かれ、長い触手をぶら下げて浮かび上がる。
「大丈夫だ。ちぎれてないよ。俺には分かるんだ。感じるんだ」
目を丸くしてaタイプが言った。
「友和さん、あなたエスパーだったの? 凄いわ!」
空中に触手をくねらして浮かぶ、3匹の宇宙蛭のグロテスクな姿に、伸恵とナミちゃんの目はくぎづけだ。
友和が叫ぶ。
「よーし、要領が解ったぞ。ナミちゃん伸恵ちゃん、フロアの真ん中を空けてくれ。急いでくれ。ナミちゃん、仲間を助けたいんだろ?」
弾かれたように二人は、椅子とテーブルをどかしてフロアに空間を作る。
汗をかき青筋を浮かべて友和は叫ぶ。
「よーし、一気に飛ばすぞ! マルチモードだ。……はい!」
男女の肉体から、オカマの肉体から、宇宙蛭は一斉に引き抜かれ、長い触手を垂らして浮かび上がる。そして、フロアの空間へゆっくり飛んできて、どさどさっと落ちる。
うずたかく、赤黒く積み重なり、もぞもぞ動きながら「ピュ~」「ピュ~」と鳴いた。
「やっつけて!」
と伸恵が叫ぶ。
aタイプのブラスターが火を吹いた。
宇宙蛭はボッと燃え上がり、やがて灰になった。
ナミちゃんは店内の照明を明るくして、この店の閉店を告げる曲『メリージェーン』を流した。
つのだ☆ひろの唄と、成毛滋のギターが、甘くせつなく流れる中で、男性客も女性客も、店のオカマ達ものろのろと起き上がり、身繕いをしている。
男性客の一人がズボンをずり上げながら言った。
「凄いなこの店は。大きな声じゃ言えないけど、アシッド(LSD)だよ。完全にキマったよな。昔、アムステルダムに居た頃にさあ……」
と、大きな声で喋り続けている。
しかし、皆、納得している様子である。
まあ、宇宙蛭に取り付かれた事による催眠作用の体験は、一種のドラッグ体験と言えなくもないのだ。
ナミちゃんが言った。
「違うわよみんな。あの変な大男が、ナミちゃんを掠いに来た宇宙人なのよ!」
みんなが笑った。