宇宙遊泳
子供の頃、田舎道を親父におぶさり、歩いた。この場合、親父が歩く訳だ。
親父は夜空を見上げて教えてくれた。つまり、夜歩いてた訳だ。
ソ連という国が、人工衛星に犬を乗せて打ち上げ、地球を回っているのだと。
そしてソ連のガガーリンという人間も、地球を回って帰ってきたのだと。
だから、地球は青くて丸いのだという事が解ったのだと。
めでたい事だ。たいしたもんだと親父は言った。
友和は地球を見ていた。
しかもコクピットのモニターではなく、宇宙服のヘルメットのゴーグル越しに直接見ているのだ。
宇宙遊泳をしていた。
VF型時空機は外宇宙へ出て、自由落下に入った後で、蛭の完全撲滅の為に、機内の空気を一旦抜く事にしたのだ。
その間、思いもよらぬ宇宙遊泳をしている友和なのである。
ハッチから『折りたたまれた空間』の大量の空気と共に、凄い勢いでゴミと一緒に蛭の死骸やら灰やら、あの蛭汁が吐き出されて行く。
ゴミの分別は大丈夫なのか? とaタイプに尋ねた処、太陽に向かって放出したから問題は無いのだと言った。
地球だけではなく、月や人工衛星もくっきりと見える。
「まさかこの歳になって、宇宙から地球が見られるなんて思わなかったな」
感無量の友和であった。
そして、とりあえず携帯を取り出して、携帯ムービーを撮り始める、平成の、お気楽オヤジ、江守友和なのである。