蛭地獄
何かの格納庫なのだろう。
ほぼ立方体の穴であった。
穴のへりからゾンビ女が顔を見せた。
続いてゾンビ男が、更にもう一人、ゾンビ禿げ男である。こいつは、禿げゾンビと言おう。
ブラスターを警戒して、すぐ顔を引っ込める。
どうやら三人いたらしい。
ゾンビーズだ。
今度は確かに笑っていた。
しーんと静まりかえっている。
嵐の前の静けさとは、きっとこの事だろう。
「ダンナ、そろそろ来そうだな。磁気コーティングしてるから、絶対発砲しちゃ駄目だぞ。エネルギーが壁に跳ね返って、全員お陀仏になる」
「来る! 確かに来るよ! エンタメさんどうしよ? もうすぐ来るよ。あわわわ、心の準備が……あわわわわ」
「あ~んぁ~ぁ~ 友和さ~んさ~ん 怖いわ~ゎ~ゎ~ 嫌だわ~ゎ~ゎ~ゎ~」
落とし穴の真上に位置する天井には、ダクトの太いパイプがにょっきり伸びていて、真下に曲がった端っこは、まるで大きな水道の蛇口のようだ。
その直径四十センチ程の蛇口が友和達を睨んでいる。
まさにそこからであった。
大量の宇宙蛭が途切れる事なく降ってきた。
──ザザ~ザ~ザザ~ザ~ザ~ど~ど~ど~どど~ど~どザザ~ザ~ザザ~ザ~ザザ~どど~
蛭共が鳴く。
「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」
「ひえ~気持ち悪い!」
「助けてくれ~!」
「友和さ~ん!」
「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」「ピュ~」
たちまち蛭の群れは腰まで溜まった。
更に蛭は胸まで達した。
そして、首まで蛭に埋まったところで、やっと止まった。
いったい何匹いるのだろうか?
蛭の総攻撃、物量作戦である。
蛭また蛭また蛭また蛭また蛭また蛭・・・。
防蛭タイツを着用してヘルメットをかぶっているのだが、気持ち悪い事おびただしい。
金属にも等しい防御力を誇るタイツなのだが、蛭共はなんとか潜り込もうと、凄い力で頭をぐりぐりと擦り付けるのだ。
──ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり・・・・
エンタメが強がりを言う。
「宇宙蛭の全身マッサージだ。これは……効くなあ」
友和は半泣きだ。
「うわあ気持ち悪い。猫ならいい、鼠だって蛙だってバッタだって。蛭なんて宇宙蛭なんて、あんまりだよー! わっゴーグルにくっついた。グログロだあ、まったくひでえ形だ。 おえ、おえ、うっぺっぺー」
aタイプは、あまりの汚辱感と悪臭に、ぐったりしている。
三人は宇宙蛭に埋まり、揉まれに揉まれる。
気持ち悪いなんてもんじゃない。
まさに蛭地獄であった。
やがて、友和の脚にまとわり付く蛭の勢いが、何となく衰えてきたような感じがした。
「おや? これは……。塩だ。粗塩が効いてるぞ!」
友和は、カーゴパンツの4つの大きな脚ポケットと、2つの尻ポケットのふたを開け、蛭に粗塩がよくまわるように、じたばたと足を動かして腰を振る。
こうなったらもう、踊ってやろうじゃないか。
「はあ~昼(蛭)も夜も~君が好き~っと。ぐっちょんぐっちょん、こんちくしょ~っときたもんだ~」
確かに粗塩は宇宙蛭を溶かしているのだ。
やっと手足を動かす事が出来るようになった友和は、踊りながら粗塩を握り、aタイプとエンタメの回りにもふりかける。
「さすがは特異点だ! ダンナ、恩に着るぜ」
「友和さんがんばってー!」
「それより、2人とも踊ってくれ。ぐっちょんぐっちょん、すり潰すんだあ。あ~気持ち悪い。ひ~ひっひひ」
そして、とにかく三人はじたばたと踊りまくるのだった。
粗塩がまわってきて蛭の動きが緩慢になってくる。
そして溶けた蛭は他の蛭の重みでどんどん沈み込む。
ひたすら踊り、ふりかける友和なのだ。
「ビュイ~」
「ビュイ~」
「ビュイ~」
「ビュイ」
「ビュ」
「ビ」
「……」
蛭共は断末魔の悲鳴をあげた。
そして、程なくそれも止んだ。
溶けた蛭の体液で全身べとべとの三人は、とても臭くて、もうゲロゲロだ。