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巨人な彼は人々を愛して、人生を謳歌している。

作者: 藻岩 憧

 彼は巨人だ。

 その力は大きく、山を捏ねて作品を作り上げるほどであった。それゆえに彼は他者を傷つけてはなるまいと、一人荒野に住んでいた。

 荒野を訪れる人はほとんどいない。彼は大きな山を砕いて砂にして、時折降る雨を使って泥をつくり、土の像を作っては飾ることを慰みとしていた。


 その像は、作るに長い時間がかかる。しかし彼には時間があった。長い時間をかけて初めは泥団子を作るのだ。それから徐々に複雑な形を作るのだった。

 彼は見事な創造者だった。ウサギを作り馬を作り、龍を作り大樹を作る。それを見せるのはごく稀にくる冒険者だ。しかし彼らは、細かいところに難を付ける。

 彼は巨人だ。手は大きく、指は太い。細かい造形は彼の苦手とするところであった。それでも彼は像を作った。その他には為すこともなく、冒険者との話題が作れないのだ。


 彼は人間が好きだ。そうでなければ既に何度も殺されていた。彼の住む荒野は、彼が住むということ以外に何もなく、その土地を領有していた人間たちは巨人が近くによるよりは、と住むことを認めていた。

 巨人は大きく力も強いが、頭は人と同じほど、何百里をも見通せる目は持ち合わせず、小さな音をも拾う耳はついていない。足は短く手は長く、不器用に今日を生きている。気が弱くとも、それでも気高い心を持っていた。


 彼は人とは友達になれない。彼には人の心がわからず、彼は大好きな人間を傷つけたくはなかった。それゆえに、彼の方から人に近づくことは決してなかった。彼は冒険者の話を聞くのが好きだった。稀に現れる冒険者の、その中でも数少ない気の良いものたちは、喜んで冒険譚を話しては去っていく。冒険者の大部分はほとんど盗賊で、彼の作った像を壊しては、彼のことを殺しに探した。彼はそんな時、見つからないように逃げるのだ。彼は彼は飲まず食わず眠らずに逃げ続けられる、疲れ知らずの巨人である。


 彼は眠ることがないが、夢がある。いつかは人間と友達になるのだ。彼は人間大の岩を抱き寄せる。そうするとその岩は割れてしまった。彼は岩を抱く練習をした。いつしか赤ん坊サイズの岩を割らないでいた。人間は岩より脆いと、彼はわかっている。それゆえに、彼は人間と交流する時極力動かない。彼は愚鈍だが、見た目よりは俊敏だ。驚かせてはいけないものだ。


彼は永きを生きていた。いつしか像の材料は、古い像だけになり、冒険者が来なくなって何百年も経っていた。荒野はかつてよりも狭く、彼には人の世のことを知る術はない。それでも彼は、技術を磨き、繊細さを求める。彼は死ぬことがないのだから。

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